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トマトのコナジラミ対策

 トマトづくり30年以上のベテランで、大玉トマトを土耕で25段とる伊藤健さんは、最近、コナジラミの知られざる習性を発見したという。
「コナジラミは夜になると生長点のあたりに集まってくるんですよ」
 本当にそうなのだろうか――。真相をこの目で確かめるべく、現地にお邪魔した。




オンシツコナジラミの産卵
オンシツコナジラミの産卵(写真はすべて赤松富仁撮影)

茨城県鉾田市・伊藤健さん

コナジラミは寝込みを襲え

編集部

昼間はまったくいないのに……

 お昼を過ぎた午後2時、さっそく伊藤さんのハウスに入ってみると肝心のコナジラミが見当たらない。一株一株揺らしていくと10株目にようやく1頭飛んでいく程度で、見つけるのに一苦労するほどだ。

「うちはもともと少ないんですけど、いま飛んだあたりの株の生長点を絶対に見ておいてくださいね。いまは見えないけど、夜になったらコナジラミが集まってきますから。

 昼間はすぐにどこかに飛んでって葉っぱの裏に隠れちゃうでしょう。一株にどれくらいいるかなんてわからない。でも夜だと密度がハッキリとわかりますよ」

夜になったら上に集まっていた! 

生長点に集まってくるコナジラミを見る伊藤健さん
夜、生長点に集まってくるコナジラミを見る伊藤健さん

 暗くなるのを待ち、時計は夜の七時を回った。いよいよ真相を突き止める時がきた。伊藤さんに借りた夜回り専用ランプ(ヘッドランプ付きの帽子)を装着し、いざ、夜のコナジラミ探検隊の出動だ。

「昼間、数匹いた場所があったでしょう。まずはそこを見てみましょう」

 暗闇の通路を歩いていくと、すぐに伊藤さんの声がハウスに響いた。「ほらっ、ここ。いるでしょう。あっ、ここにも……。昼間は見えなかったけど、こうやって株の上に集まってくるんですよ」

 ヘッドランプで生長点付近の葉裏を下から覗き込むように見ると、たしかにコナジラミが何頭もいる。いちばん多い株には8頭くらい。どれも生長点から2〜3枚目の葉裏だ。伊藤さんの観察によると、生長点から30cm下までの間に90%いるという。

爆睡して、まったく動かない

夜回り用のヘッドランプで葉裏をみる
帽子につけた夜回り用のヘッドランプ(LED)で葉裏をみる

 また、コナジラミは白いのでヘッドランプを照らすとすぐわかる。真っ白な羽がランプの光に反射するので目に飛び込んでくる。昼間見るより断然見つけやすいのだ。さらに驚いたのは、コナジラミが微動だにしないこと。株をバサバサ揺らしてもぜんぜん起きず、触っても動かない。もう爆睡状態なのである。

「ほら、逃げないから、手でも潰せますよ」

 伊藤さんはおもむろに取り出したルーペでコナジラミを観察し始めた。

「これは全部オンシツだね」。オンシツコナジラミとタバココナジラミの違いもわかるのだそうだ。タバコはめったにいないそうだが、オンシツより黄色っぽくて、一回り小さいという(図)。

「夜見ると、おもしろいでしょう。こうやって見ていると、40aのハウスを一回りするのに、あっという間に一時間くらい過ぎちゃうんです」

昼間はコナジラミが見えない 夜になると生長点付近の葉裏に集まる コナジラミはこの部分に90%集まってくる
昼間はまったくと言っていいほどコナジラミはいないが… 夜になると生長点付近の葉裏に集まってくる。触っても動かない 夜になると、コナジラミはこの部分に90%集まってくると伊藤さん

防除は株上3分の1だけでいい

伊藤さんのトマト(T159)
伊藤さんのトマト(T159)。土耕で25段、つねに糖度7度をキープ。8月定植で翌年7月まで収穫。4月上旬で20段開花

 それにしても、伊藤さんはなぜ夜回りするようになったのか。きっかけは厳寒期、暖房機がちゃんとまわっているかチェックするためだった。それがいつのまにか日課となって、いまでは毎日欠かさず夜回りをする。7時ごろのときもあれば、9時過ぎてから、真夜中に行くことだってある。そうして発見したのが、このコナジラミの習性というわけだ。

「どうして夜になったら上に集まってくるのかわかりませんけど、夕方、しゃがんで一株をジーッと見ていたことがあったんです。そうしたら日没直前になると、コナジラミがぴょーん、ぴょーんと跳ね上がるように上へ跳んでいくんですよね」

 敵の習性がわかれば防除の打つ手も変わってくる。伊藤さんは特別栽培だから化学農薬はほとんど使わずに、コナジラミにはもっぱら「粘着くん」を使う。デンプンが成分の液体で、虫の気門を封鎖して窒息死させるものだ。

「夜は上にしかいないわけだから、株の上3分の1だけを動噴でかければいい。防除もラクですよ」。吊り下げ栽培で丈が2mくらいある株を下から上までまんべんなくかけるのは大変だ。ただ、真っ暗なときに防除することになるので、準備は夕方にしておくことと、家族の協力も必要だ。

 伊藤さんは夜回りして、コナジラミがあまり発生しないハウスの中のほうの株に10頭以上ついたときを防除の目安としている。少しでも放っておけば、100頭、300頭と、天文学的な数字に増えてしまうからだ。 

「粘着くん」は100倍液で10a200P程度。株全体をやるときは最大で500Pかけないと効かないが、暗くなってからやれば散布量も少なくてすむし、時間もかからない。

黄化葉巻も出ていない

 ところで、コナジラミといえばもっとも恐ろしいのが黄化葉巻病。ここ茨城県でも2、3年前から大発生している。「もうつくれない」という悲惨な声も聞こえてくる。伊藤さんのハウスもまったく出ないわけではない。

「今年は全部で8本くらい出たかな。5〜6段の花が咲くころに芯が縮れてきたから、きっと黄化葉巻だろうと思って抜きました」。ただ、40aに約8000本あるなかで、たった8本なら被害が出たとはいえない数字だ。

 防虫ネットも1・0mm目合で、コナジラミにとってはすぐに侵入できるもの。なのに激発しないのは、やはりコナジラミの習性を知って密度を見ながら防除していることが大きく関係していそうだ。もっとも、黄化葉巻が激発するのはコナジラミがいちばん活発な夏の暑い育苗時期。伊藤さんもこのときは一週間に一度は必ず「粘着くん」をかけ、万全を期すようにはしている。

ヘッドランプの光でベッドを覗くと表層根が浮き上がるように見える 伊藤さんのハウス以外でも見てみた
夜、ヘッドランプの光でベッドを覗くと、表層根が浮き上がるように見える 伊藤さんのハウス以外でも見てみた。昼間はすぐに飛んでいってしまったコナジラミが、夜になると生長点付近の葉裏にビッシリ

夜見るといろいろなことがわかる

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 最近は、夜回りが面白くてしょうがないという伊藤さん。コナジラミ以外にも、夜見ると、昼間とは違ったトマトの顔が見えてくる。健全な株は生長点がちゃんとカールしているし、マルチを剥がしてベッドを見ると、ライトで照らすことで、真っ白な表層根が浮き上がるように見える。表層根は出てはなくなり、また再生してくるそうだが、いつまでも見えないときに限って、葉のツヤがなくなり、葉カビ病が出やすくなる。そういうサインも見つけやすい。対処はカリ分の多い追肥をしてやること。すると樹勢も回復し、葉カビも出にくくなるそうだ。

 伊藤さんが発見したコナジラミの習性を専門家に聞いてみると、まだそのような生態解明はなされていないと驚いた様子だった。いま地元の普及センターが伊藤さんの見方に注目し、これから本格的な調査も開始するらしい。

 黄化葉巻病が日本中を席巻しようとしているなか、この習性を活かせば、より効率的でさらに新しい防除法が生まれるかもしれない。そんなことを考えるとワクワクしてしまう伊藤さんなのだ。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 コナジラミ おもしろ生態とかしこい防ぎ方』大沢章

農薬だけでは防除がむずかしいオンシツコナジラミ、被害拡大が予想される新害虫タバココナジラミの生態と防除法を一冊に。合わせて天敵ツヤコバチを利用した新しい防除体系を紹介。天敵利用の初めての実用書でもある。 [本を詳しく見る]

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