2009年8月9日3時5分
細川護熙さん=鈴木好之撮影
■穏健な多党制をめざせ
――ただ、細川さんは単純な二大政党論者ではない。国会答弁で将来は「穏健な多党制」に向かうと発言された。
細川 その時点とその後では事情が変わりました。選挙制度が変わった。最初の政府案は小選挙区250、全国区の比例代表250でしたが、法案成立時は小選挙区300、ブロック制の比例代表200。いまは300と180。だんだん二大政党制に有利な制度になっています。
田中 政府案の「250・250」がそのまま成立していれば、穏健な多党制を担保できたのですが。少数政党は主張が明確です。大政党にあいまいさを許さない存在になるんですよ。今の流れだと、大政党がわけの分からない烏合(うごう)の衆になります。
――民主党はさらに比例区の定数を80、減らそうとしている。
細川 それはよくない。しかし民主党が今度の選挙で勝利すれば、その先は二大政党制ではなく、「穏健な多党制」に移行するのではないかという予感もある。単純小選挙区制で二大政党制のイギリスでさえ、第三党の自由民主党が力をつけ、「穏健な多党制」にシフトしつつあるのですから。
――中選挙区制はどうですか。
細川 私は万全の制度はないと思っています。どんな制度にだってプラスもあればマイナスもある。
私は選挙制度は一神教の小選挙区より多神論の中選挙区連記制がいいとずっと思っていました。日本人のメンタリティーからすれば、小選挙区で「白か黒か」「AかBか」という選択をし、敵対的な政治になるのは好ましくない。しかし、あの時点で実現可能な選挙制度としてあえて推進したのです。が、現状をみるに、小選挙区に張りついて選挙運動ばかりしている人、あるいは人気だけのタレントみたいな人が目立ちます。賢明な政治判断ができる立法府にはならない。中選挙区で「Aさんもいいけど、Bさんもいい」という選択、複数の名前を書けるほうが、日本的なよい政治になるのではないでしょうか。
――どういう政党が望ましいと。
田中 私は二つとはいいません。とりあえずいい政党がひとつ先にできてほしい。
細川 三、四十人規模のしっかりと旗を掲げた政党ができるかどうかがポイントでしょう。与党でも野党でもいいんです。大きな政党で何百人も議員がいれば、総花的なテーマを掲げざるを得ないですから。それでは政治が進みません。
――民主党と自民党の大連立は?
細川 民意が反映されない形ですから、望ましい姿とは思いません。
■宮沢さんと一緒にやりたかった
――細川さんは政権発足直後の記者会見で、先の大戦について「侵略戦争だった」と答えられました。
細川 もう少し言葉を尽くして説明すればよかったと思わないでもなかったが、明快に言ってしまった。
――発言への反発、脅しとかも。
細川 それらしきことは随分ありましたね。
田中 大量に来たよね。血で書いたような手紙もあった。
細川 街宣車もたくさん来た。
田中 細川発言の延長線上で、自社さの村山政権は「侵略」や「植民地支配」を謝罪する「村山談話」を95年に出す。05年、自民党の小泉政権がそれを踏襲する「小泉談話」を出した。小泉さんは、細川さんが「侵略戦争」発言をしたとき、私に「あれでいいんだ」と言ってきました。
細川 そうなんですか。
――小泉さんの後の安倍政権は、「憲法改正」「占領政策からの脱却」を主張した。どう思われますか。
細川 「ノーサンキュー」です。それだけです。
――宮沢さんは首相をやめる直前に番記者に語っているんです。「憲法は変えないほうがいい。二度と戦争はしちゃいけないんです」と。政権交代は構わない。自分の原点である平和、憲法は守ってほしいと。
田中 宮沢さんは細川さんがそれを引き継いでくれると期待したんです。
細川 宮沢さんや後藤田正晴さんなんかと一緒にやれたらおもしろかったでしょうね。
――国民的ブームで登場した細川政権は、高い支持率を維持し続けました。発足直後は70%、辞任時でも60%近い。
細川 支持率を意識したことはまったくありません。知事時代も70%の支持がありましたが、とくに意識しなかった。やりたいように思い切ってやれば、支持率はおのずからついてくる。「新幹線なんかいるか」と言って県議会で弾劾決議を食らったこともありますが、支持してくれる人は支持してくれた。
――支持率で肩を並べられるのは小泉さんぐらいです。
細川 掲げたテーマが明確でした。郵政改革などターゲットの選び方については、同意できないところが多々ありますが、物事を断固としてやる姿勢は、ほかの人にはまねできません。
――安倍政権以降は支持を得ようとして、いずれも失敗しています。
細川 何を言っているのか分からないから、ついていきようがなかったんじゃないでしょうかね。
田中 細川さんや宮沢さんにはぶら下がりのインタビューは似合わないよね。
――政治家が小泉さんあたりから変わった印象がある。
細川 もう少し黙っていないとね。
田中 細川さんはいままで黙りすぎていたけどね。