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【萬物相】ハングル「輸出」第1号

 1919年、23歳の米国人青年、ウィリアム・タンゼントは、中米のマヤ文明について研究するため、グアテマラの奥地を訪れた。彼はそこで先住民族のカクチケル族と共同生活を送り、その言葉を学んだが、文字がないために困惑した。そこで、アルファベットを利用し、カクチケル語を発音通りに表す表記体系を考案し、教育を施すとともに、聖書の翻訳もした。帰国後の34年、アーカンソー州の農場に「夏期言語協会(現在の国際SIL)」を設立し、大学生たちを集め、少数言語の表記体系を考案した経験を伝えた。

 世界に現存する約6900種類の言語のうち、約6600種類は文字を持たず、このうち約5800種類が消滅の危機に瀕(ひん)しているという。文字とは形のない言語を盛る器であり、それを持たない少数言語は急速な国際化の流れの中で生き残るのが難しい。ウィリアム・タンゼントが設立した国際SILは今日、約6000人のボランティアが世界の奥地へ足を運び、アルファベットの表記体系を作って普及させ、言語の保存を目指す国際組織に成長した。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が支援する「バーベル計画」に基づき、2550種類の言語の発掘や研究を進めている。

 文字を持たない言語の表記の手段として、アルファベットには短所が少なくない。一つの文字がいくつもの音を表わすため、混乱を招きやすく、文字を学習する際に文字要素を区分するのも容易ではない。一方、ハングルは字数が少なく、一つの字が一つの音を表わすため理解しやすく、文字要素の区分も容易だ。米国の作家パール・S・バック(1892-1973)は、「ハングルは世界で最も優秀かつ単純な文字であり、母音と子音を組み合わせればどんな言語や音声も表記できる」と話した。ハングルが汎用性の高い文字であることを早くから見抜いていたというわけだ。

 ハングルが卓越した文字であることを理解している韓国の言語学者・国語学者たちが、海外の文字を持たない言語に目を向けたのは当然の成り行きだった。ソウル大言語学科のイ・ヒョンボク名誉教授は1994から、タイとミャンマーの国境地帯に住む少数民族・ラフ族の言語をハングルで表記し、人々に教えてきた。2000年代に入ってからは、成均館大のチョン・グァンジン教授が中国の少数民族のローバ族、オウンク族に対し、またソウル大のイ・ホヨン教授が同じく中国の少数民族・オロチョン族に対し、ハングルを普及させようとした。

 インドネシアのブトン島に住む6万人の少数民族・チアチア族が、自分たちの言語を表記する文字としてハングルを導入することを決めたという。すでにハングルで書かれた教科書が発行され、先月から模範授業が始まっているとのことだ。「訓民正音(ハングルの古称)学会」が2007年から現地を訪れて説得を続け、このような成果を導き出した。ハングルの「輸出」の第1号であり、ハングルの国際化の礎(いしずえ)となる出来事だ。ハングルを制定した朝鮮王朝第4代国王・世宗大王が不憫(ふびん)に思ったという、文字の読み書きができない人々は国外に少なくない。彼らを助けることもまた、ハングルの使命だ。だがこれは、現地の政府のプライドや国民感情を刺激することのないよう、慎重に進めていかなければならないことは言うまでもない。

オ・テジン論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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