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ひと:旧浦上天主堂撤去の謎に迫る 高瀬毅さん

 「見てください。戦後64年たった今でも頑丈に建っている。なぜ取り壊さなければならなかったのか」

 原爆で破壊された旧浦上天主堂(長崎市)の一部は元の場所から南西約500メートルの爆心地公園に移されているが、目を留める人は少ない。「そのまま保存されていたら、核兵器の非人道性を訴える力はもっと強かったはずです」

 7月に出版した「ナガサキ 消えたもう一つの『原爆ドーム』」(平凡社)が反響を呼んでいる。長崎市は旧天主堂の廃虚を保存する方針だった。1955年に米セントポール市と日米初の姉妹都市となり、翌年に当時の田川務市長(故人)が訪米すると突然「撤去」に方針転換。市議会が全会一致で「保存」を求めたが58年に壊された。

 自身は被爆2世。廃虚となっても荘厳さの残る旧天主堂の写真に「神の啓示のようだった」と衝撃を受け、謎の解明を始めた。米国立公文書館を訪れるなど3年がかりの取材で、田川市長の訪米に当時大統領直轄だった広報・文化交流局の関与が判明。米国での天主堂再建の募金を報じる現地新聞に、「廃虚の撤去を前提」という記述を見つけもした。「被爆の痕跡を消そうとする流れを感じます」

 だが、当事者の多くは鬼籍に入り、保存を模索した教会の神父は病気で取材はかなわなかった。「今からでも遅くはない。被爆都市から声を上げ続ける」と真相解明に決意を新たにする。【錦織祐一】

 【略歴】高瀬毅(たかせ・つよし)さん 明治大卒。ジャーナリスト。ニッポン放送記者時代の82年、民放連賞最優秀賞に。長崎市出身で東京都小平市在住。54歳。

毎日新聞 2009年8月8日 0時03分

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