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罪山のついったー(ヒウィッヒヒー) 最近のつぶやき

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    2009-07-15

    めくるめくオーディオカルトの世界


    オーディオカルトという言葉を最近知った。

    はてなキーワードより

    Audio+Cult(or Occult)、オーディオ界にしばしば見られる、度を越して狂信的な見解や明らかに非理論的な態度を揶揄する表現。

    1mあたり何十万円とするケーブルや、CD表面にカッターで傷を付けると音が良くなるという主張などを指す。

    きっかけは、偶然こんな記事を見つけたことだ。

    高音質USBケーブルという新機軸 ― Phile-web

    記事ではオーディオ用に特化したPureAVというUSBケーブルを紹介し、これを使うと音質が変わると主張してるが……

    PureAVケーブルの方がシンバルの音色の透明度と、響きの成分が増してくる。それぞれの音色の余計な厚みが薄れ、空間性が高まる印象だ。低音域ではウッドベースの飽和感が抑えられ、輪郭がくっきりとしてくるようだ。

    んなアホな!

    デジタルだろうがアナログだろうが、ケーブルで「音色の透明度」とか「響きの成分」といった「音質」が変わるなんて話はちょっと信じがたい。ケーブルというのは電気信号を送るもので、信号の中身を変化させるものじゃない。考えられるとしたら外部ノイズなどの影響による信号の伝達ミスだ。でも、こういう伝達ミスは、ものすごく分かりやすく反映される。アナログの場合「ザー」とか「ガー」とかノイズが乗るし、デジタルの場合音が飛んだり歪んだりする。これは音の表現がどうこう以前の問題だ。

    だからケーブルを変えて「低音域ではウッドベースの飽和感が抑えられ、輪郭がくっきりとして」聞こえるとしたら、それはいわゆる気のせいというやつだ。

    で、ちょっと調べたら、オーディオの世界ってこんなんばっかで驚いた。

    USBケーブルがあれば、当然HDMIケーブルもある。

    “音”を追求したHDMIケーブルが生まれた理由――サエク「SH-1010/810」- ITmedia +D LifeStyle

    とくにSH-1010はやや地味な外見ながら、その音質は低域の立ち上がりが非常に高速でパンチがあり、開放的で明るい音がすること。そして高域の描写が実に滑らかで音場は豊か。多くの情報が濃密にスピーカーの間を埋めてくれる。力強さや開放感といった気持ちよさと、耳あたりの良い優しさの両面を兼ね備えたキャラクターだ。

    ケーブルにキャラ設定させる気のせいパワー、すげえ。

    このケーブルの開発にはソニーの金井さんというエンジニアが関わっているそうなんだが、こんな開発秘話も披露されている。

    いったい、なぜこんな音になるのだろう? と検討している時、金井氏がおもむろにラジオペンチを持ち出し、端子部の周囲を囲むグランド部をつぶし、さらにケーブルの重さが端子にかからないようにしたところ、先ほどのバイオリンにみずみずしさが加わり、喜怒哀楽の表情が深みのある音で再現されるようになった。芯がしっかりとしているためか、音場にも奥行きが出てくる。

    以前、コラムの中で“裏技だがペンチで端子を潰すと音が良くなる”と書いたが、この技法はこの時に生まれたものだ。

    (強調は罪山)

    金井さんも本田さんも、機械がどうやって音を鳴らしてるかはよく知っているはずだ。なのに「(ペンチで端子を潰したケーブルは)芯がしっかりとしているためか、音場にも奥行きが出てくる」となるのはなぜ?

    気のせいとは恐ろしい。

    この本田さんの「以前のコラム」というのが激しく気になったので、読んでみたら案の定だった。

    お金をかけずにHDMI接続の音を良くする方法 (1/2) - ITmedia +D LifeStyle

    ペンチで端子を潰す「裏技」の他にも、HDMIケーブルに一緒に出力する映像の解像度で音の良し悪しが変わるとか、端子の位置で音質が変わるとか、衝撃的な説が紹介されている。

    例えば、3つのHDMI入力があるAVアンプの場合、ほとんどは2番が一番音が良く、次に3番、1番という順。6入力ある製品ならば、2番と5番のいずれかが一番良好で、3番目は3番か4番。この法則とは一致しない製品も一部にはあるので、手持ちのAVアンプで聴き比べてほしいが、おおむね一致すると考えていい。

    なかなか味わい深い文章だ。内容は気のせいだけど。

    しかし、オーディオケーブルで音質が変わるなんて全然序の口だった。なんか高級オーディオマニアの皆さんの間では、電源ケーブルやタップで音質が変わるという話が定説みたいになっているのだ。

    パワータップ音質テスト

    このページでは、タップによて変わる音質の違いを数値化してグラフにしている。気のせいの視覚化である。

    この音質テストに出てくるNIAGARAというタップ(タップに「OAタップ」とかじゃない凝った固有名がついてるのも冷静に考えるとスゴイ)はなんと50万円もする。恐るべき事にどこにも(笑)って書いてない。

    電源ケーブルUSBケーブルがあるなら……と、探してみたらやっぱりあった!

    話題の新ジャンル、オーグラインの高音質LANケーブルを紹介 - Phile-web

    高音質で聴くための「オーディオ用」LANケーブルが武藤製作所のオーグラインより発売された。価格はなんと1m11万円!

    (強調は罪山)

    買う人がいるから売ってるんだよね……。

    このLANケーブルは、「リンのDSシリーズ」なるものの為に開発されたらしい。「リンのDSシリーズ」とはなんじゃらほいと調べたところ……

    LINN JAPAN | 製品詳細

    な、なんじゃこりゃー?!

    詳細を読む限り、音楽しか再生できないネットワークメディアプレイヤーだ。バランスで出力できるとこがハイエンドっちゃハイエンド。でも値段はもっとハイエンドだ。

    ¥ 2,940,000(税込)



    ( ゚д゚)


    (つд⊂)ゴシゴシ


    (;゚д゚)


    (つд⊂)ゴシゴシ
      _,._
    (;゚ Д゚)ホォォーー…?!

    にひゃくきゅうじゅうよんまんえん!

    金弐百九拾四万円也だ!

    このものが売れない時代に、機能限定のパソコンを20倍強の値段で売ろうってんだから、スゴイ話だ。

    なお、こういう高級プレイヤーで再生すると音質が良くなるというのもケーブル同様、考えにくい話だ。プレイヤーの役割は「データを読み出してデコードすること」だ。これはCDでもネットワークでも変わらない。この読み取りやデコードの過程でデータの中身が変わるなんてことはない。これはZipなどの圧縮ファイルを解凍するのと同じだ。ファイルを圧縮解凍しても中身は変わらない。

    もしプレイヤーが音に影響を与えるとしたら、回路の影響でノイズが乗ってしまうとか、読み取りが上手くいかなくて音が飛ぶとか、圧縮ファイルの解凍失敗に当たるような、分かりやすいエラーだ。ただし、今現在、デジタルオーディオの再生技術はほぼ完成の域に達しており、普通に信頼できるプレイヤーならエラーのない正確な(つまりCDに記録されたデータに忠実な)再生ができる。これ以上再生品質を上げるなら、音源以上の音質で再生するしかない*1

    しかし、この手の高級プレイヤーのレビューや紹介には音そのものが良くなるみたいなことが書いてある。これって箕輪はるかの画像をZipで圧縮して解凍したら堀北真希になってたくらい奇妙な話なのだ。図で示すとこんな感じ。




    f:id:tsumiyama:20090715223032j:image




    もし際だって「いい音」で再生されるプレイヤーがあるとすれば、それはイコライザーが入っていると考えた方がいい。そうでなければ気のせいである。

    で、この"気のせいを294万円で買うプレイヤー"を作っているリンという会社の開発のオッサンへのインタビュー記事があるのだが……

    ネットワークに注力する異色の高級オーディオ、リンの製品戦略 - ITmedia +D LifeStyle

    前出の裏技の本田さんが聞き手だった(笑)

    このインタビューでオッサンと本田さんの息はぴったりだ。

    CDはハードディスク半導体メモリに(圧縮せずに)リッピングした方が音は良い。もちろん、ネットワークでのシェアでも構わない。

    と、本田さんがボケれば、

    おっしゃるようにCDプレーヤーよりも音が良いことに気付いたのです。

    と、オッサンがボケ返す。

    「つまり気のせいですね」と突っ込む役がいないのがおしい。

    この「CDはリッピングした方が音が良い」というのも定説のようで、オーディオ用のUSBメモリーまである始末だ。

    インフラノイズ、“音楽専用”USBメモリーを発売 − 木材ケースなどで音質を向上 - Phile-web

    同社では、CDなどから読み込んだ音楽ファイルをUSBメモリーに保存することが、「CDやハードディスクの回転系の揺れやノイズから開放されたデジタル音楽ファイルの素晴らしさを知る唯一の方法」との考えを持っている。

    回転系の揺れって、レコードカセットテープとちょっと混同してるのだろうか?

    もし回転が音に悪影響を与えるとしたら、リッピングするときも回転させるんだから、結局良くない状態のデータが保存されるから意味ないじゃん──とか思ってしまったけど、まあそもそも前提が気のせいなのでどうでもいいか。


    さて、かような気のせいとしか思えない音質の向上を信じる人たちは、その原因をジッターに求めることが多いようだ。ジッターというのは、機械の体内時計の誤差みたいなもので、今のところこれをゼロにはできない。音声データというのはすごーく細かい周期でサンプリングされてるので、このジッターがあると音質に何らかの影響があるはずだという。で、ハイエンドなプレイヤーや、ケーブル、タップなどはこのジッターを少なくするので、音質がよくなる、と。こういう事らしい。

    ジッターの影響について典型的なのは、この記事だ。

    EDN Japan | オーディオ品質とクロックジッター

    この記事の1ページ目では、分かりやすくジッターについて説明してくれている。しかし2ページ目から急におかしくなるのだ。

    ジッターが微小な場合には、オーディオ性能の劣化は数字としては現れない。しかし、聴き取り可能な音質の変化として影響が現われる場合もある。筆者は、これまでのデジタルオーディオ向けデバイスの開発において、各種のDIRを用いて試聴を行ってきた。音質評価用のモニターシステムにおいて、このDIRデバイスを変えるだけで、音質が非常に大きく変化するという経験をしている。その音質の変化は、単に「低音が出ない」、「高音が伸びる」といったレベルのものではない。良いものは音場や音像の再現性に優れる一方で、悪いものは、単調かつ平面的に音が鳴っているだけ、というレベルとなる。音質がどのように変わるのかを言葉で説明するのは非常に困難だが、可能な限り具体的に説明を試みると以下のようになる。

    ●歌手の口の大きさが変わる

    ●目の前で演奏しているような実在感の再現が変化する

    ●その場に居合わせる人の数が変わるといった気配の変化が生じる

    ●演奏が単調になる(どんな曲を聞いても楽しい雰囲気になってしまう)

    つまり、音楽の再生においては、その解釈が異なってしまうほどに音質が変化するのである。

    嗚呼、なぜか突然、気のせいの話にっ!

    ジッターが音に影響を与えることはあるだろう。でもそれは、やはり音飛びとか、ノイズとか、そういう分かりやすい不具合として表れるはずだ。実際、ジッターが原因でCDのリッピングやライティングに失敗することはある。

    でも「歌手の口の大きさが変わる」とか「目の前で演奏しているような実在感の再現が変化する」みたいな、音のニュアンスの変化は起こりようがない。ジッターとはそういうものではない。それは、この記事の1ページ目のジッターについての解説からも明らかだと思うんだけど……なぜ?

    つくづく気のせいとは恐ろしい。


    どうも気のせいに落ち入る人の共通点は、データのやりとりの正確さに基づく"ノイズや音飛びがないという意味での音質"と、「音の透明感」とか「実在感」といった"ニュアンスや表現を意味する音質"を混同してる所のように思える。

    機械の信頼性を高めることで前者の音質は高まるだろう。ただし、現在の技術水準は正確にデータのやりとりができない部品を「不良品」と呼べるほど高い。だから、プレイヤーもケーブルも普通に信頼できるものを揃えれば最高級機種と比べても変わらないはずだ。

    一方、後者の音質について、プレイヤーやケーブルの類で変わるというなら、それは気のせいとしかいいようがない*2

    もし気のせいじゃないというなら、信頼に足る二重盲検試験をパスするしかない。でも、メリットないから誰もやらないだろうなあ。

    まあ、この需要不足で不景気なご時世に、294万で気のせいを買うってのは、それはそれでめでたい話かも知れない。


    最後に、解毒のために、この手のオーディオカルトに疑問を投げかけるWEBサイトや記事をいくつか拾っておく。




    オーディオの部屋 - 楽譜の風景

    素晴らしいWEBサイト。客観的なアンプの聞き比べなどを行っている。ゴールドムンドGOLDMUNDの真実(おまけ)は必見。ここの管理人さんは以下のように仰っている。

    アンプ・CDプレイヤーについて、信頼あるものであれば、同一音量の場合、音質の差は感じられません(実験結果)。スピーカー(とマイク)以外のオーディオ機器はほぼ完成された技術といっていいでしょう。




    「85万円のケーブルは本当に音がいい? 」100万ドル賭けた果し合い

    オカルト批判で有名なジェイムス・ランディが、高級オーディオケーブルに叩きつけた挑戦状。最後はメーカーが逃げちゃったみたい。




    覚えておきたい、ニセ科学リスト - 妄想科學日報

    オーディオ

    オーディオの世界はほとんどオカルトで構成されているのではないかと思うほど怪しげ。あまりにも(理論上)音質に影響を与える要素が多過ぎて何を改善すればいいのかプロも判っていないというのが実情だ。

    機材のレビューでも二重盲検法はおろか一重ですら行なっておらず、単に価格順に評価が決まっていたりする。100万の機材と2万の機材で中身の部品がまったく一緒だったという例すらある。

    オーディオ装置そのものはニセ科学ではないが、評価基準を含めたマニア世界はオカルトと断じても良かろう。




    HDMI - 闘わないプログラマ Version 3.1 SP2

    高音質HDMIケーブルに疑問を投げかけている。

    なんか、こういう製品が世間的に認められているとしたら、「高画質USBケーブル」だの「高音質LANケーブル」だのいうのもアリかな、と思ってしまうのですが。

    おお、未来日記 予言が当たってる。


    関連エントリ

    めくるめくオーディオカルトの世界2 ──オーディオカルトの極北?! ローゼンクランツの世界──

    *1:例えばサンプリング時にカットされた音域を再生するとか。無論そんなことは不可能だけど

    *2:イコライザーやプリアンプで音をいじっていれば別だけど

    kikinightkikinight 2009/07/19 02:57 はじめましてこんにちは。
    いつも楽しく読ませて頂いてます。

    オーディオ関連の音質に関しては昔僕もハマッたことがありまして、再生機器やケーブルなど色々ネットで勉強したのですが、全く信憑性に欠けることばかりで、しかも機材や周辺機器が無駄に高くて(色々な意味で)諦めました。

    一昔前に、こんなページが流行りました(ケーブルは関係ないんですが)。

    ■iPodはカバーをかけちゃあイカンのか…iPodのユウウツ
    http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080918/1008064/?P=5
    ※同ページのキャッシュ
    http://74.125.153.132/search?q=cache:3A00pG71uc4J:pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080918/1008064/%3FP%3D5+iPod%E3%82%92%E5%A4%A7%E7%90%86%E7%9F%B3%E3%81%A8%E3%81%8B%E3%81%84%E3%81%84%E7%B4%A0%E6%9D%90%E3%81%AE%E4%B8%8A%E3%81%AB%E8%A3%B8%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%A6%E7%BD%AE%E3%81%84%E3%81%A6&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp

    なんと、iPodは大理石の上だとかなり音が安定して、しかも音の質感やツヤなどもよくわかるそうです。
    これにも(笑)が付いてないんですが、ここまでくると怖いです。小倉智昭なんかもTHX館とか金掛け過ぎです……結局、音質の探求はお金持ちの道楽なんでしょう。

    tsumiyamatsumiyama 2009/07/19 16:49 >id:kikinightさん

    コメントありがとうございます。(あと、カラースターも)

    紹介していただいたiPodの記事はキョーレツですね(笑)
    いい素材に載せると、いい音が出るってのがシンプルかつアバウトで面白い(怖いともいう)。ちょっと「水からの伝言」を思い出しました。

    さくまりさくまり 2009/07/21 23:55 294万円!!! 
    塩ビ管スピーカーの人たちのが好きだなあ。
    http://www.enbisp.com/

    mm-nakamurayamm-nakamuraya 2009/07/25 12:57 http://www.rosenkranz-jp.com/Product/New_product_information/20081006.html

    いったいどういう原理で陶板の上にCDを載せると音が良くなるんでしょうかww

    kenzkenz 2009/07/30 00:20 CDやハードディスクの回転系の揺れやノイズ
    というのは、ディスクの動作音じゃないでしょうか?
    CDのモーター音やHDDのシーク音は完全にはなくせないので、
    再生時にそれらの騒音を発生しないUSBメモリーから再生した方が音質が良いというのは当然だと思うのです。

    tsumiyamatsumiyama 2009/07/30 11:40 >kenzさん
    コメントありがとうございます。

    ディスクの動作音!
    なるほど!
    その解釈はイケてますね。「音質」という言葉をかなり拡大解釈してますが、確かにモーター音が気になるから、リッピングしてから再生してるって人はいるかもしれませんね。
    ただ、HDDのシーク音まで気にし始めると、PCで再生する限りファン音とか懊悩は尽きなさそうですが……。まあ、趣味の世界とはそういうものでしょう。

    ただ……。
    LINとかインフラノイズの中の人のいう、「音質が良い」ってのは、そーゆーことじゃないんじゃないかと(笑)
    彼らはスピーカーから出てくる音がマジ良くなると主張してるんじゃないでしょうかね。

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