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原爆症集団訴訟 全面解決へ向けて着実に

 64回目の「原爆の日」を迎えた広島市で原爆症認定集団訴訟の解決に向け、麻生太郎首相と原告側が306人の原告全員救済を盛り込んだ政府の解決策に合意する確認書を交わした。

 救済要件には集団訴訟の終結も含まれる。原爆症認定申請を却下された被爆者らが2003年に札幌などで提訴して以来、6年以上に及んだ集団訴訟は、全面解決に向けて大きく踏み出したといえる。

 確認書は、一審勝訴の原告について国は控訴せず判決を確定させ、既に控訴した分は取り下げる。係争中の原告に関しては一審判決を待つ。議員立法による基金を設け、敗訴した原告の問題解決に活用する―などが柱だ。今後訴訟で争うことがないよう厚生労働相、日本原水爆被害者団体協議会、原告・弁護団が定期協議する場を設け、問題解決を図ることも確認した。

 未認定の10人を認定した今月初めの熊本地裁判決を含め一連の裁判で国は19連敗している。被爆者の高齢化が進む中、遅すぎた感は否めないが、合意に至ったことは喜ばしい。河村建夫官房長官は、被爆者の「苦しみや集団訴訟に込められた心情に思いを抱き、陳謝する」との談話も発表した。

 与党の原爆症問題プロジェクトチームの座長経験がある河村長官が原爆の日(長崎は9日)までに国としての解決策を示す意向を6月に表明、水面下で原告側と接触してきた。舛添要一厚労相らとともにぎりぎりまで調整を続け、5日にやっと解決策がまとまった。

 7月に衆院が解散され、総選挙を迎えることで、一時は振り出しに戻ることも懸念されていた。政治主導でここまできた点は評価してよかろう。

 しかし、不安もある。まず官僚の抵抗だ。認定行政を受け持つ厚労省では「専門家の審査で申請が却下された人を、一審判決だけで認定することは行政として受け入れられない」との考えが支配的という。基金の設立には財務省が「裁判で負けた人に税金を投入する根拠がない」と疑義を示してきた。

 訴訟を起こしていない未認定被爆者まで含めた幅広い救済を求める声があり、どう応えるかも今後課題になろう。

 何より政府と原告側の合意といいつつ衆院選後の政権の枠組みは見えていない。議員立法の道筋や基金の財源が焦点だが、政権がどういう形になろうと一層の解決策充実を図り、全面解決へ着実に歩を進めることが、政治の責任だ。


元米大統領訪朝 6ヵ国協議枠組み崩すな

 電撃的に北朝鮮を訪問したクリントン元米大統領が、拘束されていた米国人女性記者2人を伴って帰国した。3月中旬に発生した米記者拘束問題が、約4カ月半ぶりに解決したことは喜ばしい。

 元大統領は訪朝中、金正日総書記と会談した。今回の訪朝で米朝の対話機運が高まったことは間違いなかろう。北朝鮮が「永遠になくなった」とかたくなに拒む核問題をめぐる6カ国協議再開の契機にしたい。

 2記者は不法入国などの罪で拘束されていた。北朝鮮の朝鮮中央通信は金総書記が「特別恩赦」を与えて釈放を命じたと伝えた。さらに、会談では米朝間の諸懸案をめぐり「対話の方法で問題を解決することで見解一致がなされた」とし、元大統領が「両国間の関係改善方法と関連した見解を盛り込んだオバマ大統領の口頭メッセージを伝えた」と主張した。

 これに対し、オバマ政権は、口頭メッセージ伝達を否定する。元大統領の訪朝は「私的な訪問」であり、核問題などと切り離したあくまでも人道目的だったと強調している。

 会談の内容には双方の食い違いがみられるものの、北朝鮮側が米国との直接対話を強く望んでいることは明白だ。だが、オバマ政権としては2国間対話に慎重な対応が必要であろう。

 北朝鮮の2回目の核実験を受け、オバマ政権は6月に国連安全保障理事会が採択した制裁決議の履行徹底を国際社会に訴えている。北朝鮮が非核化への具体的な動きをみせていないのに、対話へ踏みだせば甘過ぎると批判を浴びかねない。

 問題解決のために、6カ国協議の枠組みを崩してはならない。オバマ政権が成果をあせれば、したたかな北朝鮮外交に足をすくわれよう。

(2009年8月7日掲載)
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