広島への原爆投下から64年。今年は米国のオバマ大統領が「核兵器のない世界」を唱え、核軍縮への新たな機運が出てきたが、一方で核拡散の脅威は広がり続けている。8月6日は唯一の被爆国である日本が自らの役割を再確認すべき日である。
オバマ大統領は4月のプラハでの演説で「核兵器を使用した唯一の核保有国として、米国には行動する道義的責任がある」と語った。
冷戦終結から20年を迎える今も、世界中で2万数千個の核弾頭が保有されているという。核軍縮の具体的方策として、オバマ政権はロシアとの間で戦略核兵器の弾頭数を大幅に減らす新たな核軍縮条約の年内締結を目指し、交渉を進めている。
核保有国の核軍縮は、核兵器の拡散を抑える政治環境づくりとしても重要である。核大国の米ロが率先して核軍縮へ動くのは歓迎すべきことだ。米ロに続いて中国も核軍縮への明確な意思を示すべきである。
米国は来年3月に核拡散防止を目的にした「世界核安全保障サミット」を主催する。米国はクリントン政権当時に包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名したものの、米議会が批准に反対した経緯がある。CTBTの発効を促すべく、米国には条約の早期批准を求めたい。
日本の役割も問われる。その重要な時期に、「核の番人」と呼ばれ核物質の拡散防止を担う国際原子力機関(IAEA)の事務局長に日本の天野之弥氏が選出され、12月に就任する。日本は「ヒロシマ」「ナガサキ」の発信力も利用して核軍縮や核不拡散体制の強化を先導すべきだ。
核兵器の保有を米ロ英仏中の5カ国に限定し、他国の保有を禁じた核拡散防止条約(NPT)の体制には矛盾も多いが、核拡散を食い止める有効な手だてはほかにない。インドやパキスタンなど事実上の核保有国にも、粘り強い外交努力でNPT加盟を求め続ける必要がある。
テロ組織や小国への核兵器の流出という脅威を直視し、国際社会は核不拡散に全力をあげるべきだ。その意味でも、北朝鮮やイランの核兵器開発は阻止しなければならない。
特に北朝鮮はミャンマーなどと核やミサイルの技術協力を進めているとの情報もある。経済制裁の徹底履行などを通じて、北朝鮮の野望と脅威の広がりを封じ込めるべきだ。
北朝鮮の動きなどに対抗し日本でも核武装論が一部で出ているが、きわめて危険な議論だ。オバマ大統領に広島や長崎訪問を招請し、核廃絶への誓いを新たにすることこそ、日本の重要な使命である。