003 柿本人麻呂 |
あしひきの山どりの尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかもねむ
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004 山部赤人 |
田子の浦にうちいでて見れば白妙の 富士の高嶺に雪はふりつつ
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005 猿丸大夫 |
おく山に紅葉ふみわけなく鹿の 声きく時ぞ秋はかなしき
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006 中納言家持 |
かささぎのわたせる橋におく霜の 白きを見れば夜ぞふけにける
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010 蝉 丸 |
これやこの往くもかへるも別れては 知るも知らぬも逢坂の関
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013 陽成院 |
つくばねの峰よりおつるみなの川 恋ぞつもりて淵となりぬる
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014 河原左大臣 |
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに 乱れそめにしわれならなくに
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016 中納言行平 |
立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとしきかば今かへり来む
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017 在原業平朝臣 |
千早ぶる神代もきかず龍田川 からくれなゐに水くくるとは
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020 元良親王 |
わびぬれば今はた同じ難波なる 身をつくしても逢はむとぞ思ふ
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023 大江千里 |
月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
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024 菅 家 |
このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉のにしき神のまにまに
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026 貞信公 |
小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今ひとたびのみゆき待たなむ
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027 中納言兼輔 |
みかの原わきて流るる泉川 いつみきとてか恋しかるらむ
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033 紀 友則 |
久かたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ
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034 藤原興風 |
誰をかも知る人にせむ高砂の 松もむかしの友ならなくに
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036 清原深養父 |
夏の夜はまだよひながら明けぬるを 雲のいづこに月やどるらむ
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037 文屋朝康 |
白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
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040 平 兼盛 |
しのぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで
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041 壬生忠見 |
恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか
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043 権中納言敦忠 |
逢ひ見ての後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり
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044 中納言朝忠 |
逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし
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046 曽禰好忠 |
由良のとをわたる舟人かぢをたえ 行く方も知らぬ恋の道かな
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047 恵慶法師 |
八重むぐらしげれる宿のさびしきに 人こそ見えね秋はきにけり
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051 藤原実方朝臣 |
かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを
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052 藤原道信朝臣 |
明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしきあさぼらけかな
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055 大納言公任 |
滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞えけれ
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059 赤染衛門 |
やすらはで寝なましものを小夜更けて 傾くまでの月を見しかな
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061 伊勢大輔 |
いにしへの奈良の都の八重桜 今日九重に匂ひぬるかな
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062 清少納言 |
夜をこめて鳥のそら音ははかるとも 世に逢坂の関はゆるさじ
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065 相 模 |
恨みわびほさぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ
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066 前大僧正行尊 |
もろともにあはれと思へ山桜 花よりほかに知る人もなし
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071 大納言経信 |
夕されば門田の稲葉おとづれて 芦のまろやに秋風ぞ吹く
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072 祐子内親王家紀伊 |
音にきく高師の浜のあだ波は かけじや袖の濡れもこそすれ
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073 前中納言匡房 |
高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山の霞たたずもあらなむ
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074 源俊頼朝臣 |
うかりける人を初瀬の山おろしよ はげしかれとは祈らぬものを
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082 道因法師 |
思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり
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085 俊恵法師 |
夜もすがらもの思ふ頃は明けやらで ねやのひまさへつれなかりけり
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089 式子内親王 |
玉の緒よ絶なば絶えねながらへば 忍ぶることのよわりもぞする
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090 殷富門院大輔 |
見せばやな雄島のあまの袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変らず
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091 後京極摂政前太政大臣 |
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む
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094 参議雅経 |
みよし野の山の秋風小夜ふけて ふるさと寒く衣うつなり
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097 権中納言定家 |
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ
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100 順徳院 |
百敷や古き軒端のしのぶにも なほあまりある昔なりけり
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