英文入りの本なので、オバマ大統領にも送りました。夫人のミシェルさんにはぜひ読んでほしい。あなたたちの子どもがこういう目に遭うのですよ、そのことを絵本で見てくださいと書き添えました。子どもを産み、家庭をつくる女性は、核兵器は自分の子どもや家庭を破壊するのだと直感的にわかるはずです。
--最後に次の構想を。
早坂 春子の映画をつくりたい。
--春子さんは、早坂さんが5歳のときに、遍路道沿いにあった実家の前に捨てられていたのですね。
早坂 3歳違いの妹として一緒に育ちました。海軍兵学校に行ったあと、母親は僕の相手にと考えて、春子に生い立ちを正直に話したそうです。春子はすごくうれしそうな顔をして、僕に会いに行き、自分の口から話したいと防府を目指して出発したのです。なんとそれが8月4日です。
8月5日に広島に泊まり、翌朝の臨時列車に乗るつもりだったとまでは推測できましても、どこで死んだのか、遺体はもちろん一片の骨も見つかっていません。ただ3000枚からなる素人の描いた原爆の絵のなかに、真っ黒に焼け焦げた男か女かわからない死体を見て、「春子の被爆死」を僕なりに理解できました。春子のドラマを通して、原爆はこうして人間を殺すのだと伝えたい。日本人でないと作れない唯一の映画ではないですか。(専門編集委員)
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■人物略歴
1929年愛媛県生まれ。日本大学芸術学部卒業。61年から脚本家となる。映画やドラマの脚本の他に、小説やエッセー、舞台演出の分野でも活躍、芸術選奨文部大臣賞、講談社エッセイ賞などを受賞、94年に紫綬褒章、00年に勲四等旭日小綬章受章。「『戦艦大和』日記」「ダウンタウン・ヒーローズ」など著書多数。
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毎日新聞 2009年8月6日 東京夕刊