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特集ワイド:早坂暁さんのみたヒロシマ 絶滅兵器の原爆(2/4ページ)

 --8月15日の記憶は鮮烈ですね。

 早坂 その夜、兵舎に電気が一斉にともったときはうれしかった。本当に戦争が終わったんだと実感できました。そして帝国の消滅を実感したのは、下士官が軍刀を抜き大声をあげて上級の将校を追いかけ回すのを見たときです。軍隊は秩序を失い、海軍は解体された。天皇につながる強烈なシステムは、あれはイリュージョンだよと教えてくれた瞬間でした。

 --郷里の松山に帰る途中、列車待ちのため広島駅に1泊して、原爆直後の惨事に遭遇されました。

 早坂 東日本から来ていた仲間と家畜のように貨物列車に投げ込まれ、8月22日に山口を出ました。実は、広島に原子爆弾が落とされた翌日、物理学の教官から「広島は原子爆弾1発で消滅した」と聞かされていました。巨大なエネルギーを出す原爆の仕組みを説明したあとで、教官は「絶滅爆弾」と強調したのです。しかし、あのような大きな町が1発の爆弾で消滅するといったイメージはつかめません。ですから広島が近づくにつれ、みんな身を乗り出すようにして小さな窓外を見つめていたのです。

 最初に気づいたのは、ものすごい異臭でした。吐く者もいたほどです。広島の死臭だと気づきました。広島駅に着いたのは夜でした。裸のプラットホームが3本残っているだけで、駅舎も吹っ飛んでいました。

 雨の中で目を凝らすと、青白い燐(りん)がボッボッ、ボッボッと燃えているのです。まだ収容できていない死体から出ている燐光、俗に言う火の玉だとわかりました。腰が落ちるほどびっくりしました。何千、何万もの死体から燐光が燃えているのですからね。みんな黙って見ているけれど、みんなひざが震えていた。地球が消滅するときの光景ではないかと思いましたね。

毎日新聞 2009年8月6日 東京夕刊

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