きょうの社説 2009年8月7日

◎「裁判員」初判決 各地裁も準備の総点検を
 裁判員裁判の初の対象となった殺人事件の公判で、東京地裁が言い渡した「懲役15年 」の判決は、市民が被告人質問を行い、評議に参加したことを思えば、従来の判決とは異なる特別の重みを感じないわけにはいかない。一挙一動に全国の関心が集まるなか、裁判員の重圧や緊張感は並大抵ではなかったろう。閉廷後の記者会見では大役を終えた安堵感が伝わり、「貴重な経験」という言葉がひときわ印象に残った。

 裁判員候補者は石川県で1222人、富山県では1538人が選ばれている。今回の裁 判を自分が参加する思いで注視した人も少なくないだろう。初のケースを終え、裁判への参加意識が高まるのか、あるいは負担感が強まるのかは個々の受け止め方次第だが、今まで漠としていた司法参加の姿が具体的になったことは確かである。

 むろん制度の善し悪しはこの一件で判断できず、評価が定まるのは各地の裁判の積み重 ねによってである。石川県では対象事件の起訴がゼロで、裁判員裁判は早くて11月以降、富山県ではアパート殺人事件の初公判が10月にも始まる見通しだが、第1号裁判は地域の関心が集まるのは間違いない。

 金沢、富山地裁とも模擬裁判を重ねたとはいえ、実際の審理ではマニュアル通りに進ま ず、想定外の問題が起きる可能性がある。今回の裁判で浮かび上がった課題の検証とともに、これまでの準備状況を総点検する必要がある。選任手続きの段階も含め、地域の実情に即した制度の運用を心掛けてほしい。

 東京地裁では4日間の連続開廷を通して、公判指揮を担う裁判長の役割が極めて大きい ことが分かった。また、検察側の分かりやすい立証は組織的な対応が進んでいることをうかがわせたが、それに比べて弁護側の立証が見劣りするとの指摘もあった。この点については金沢、富山弁護士会も対応を迫られるところである。

 今回の裁判は被告が起訴内容を認め、比較的分かりやすい事件とされたが、争点や証拠 が複雑な事件もいずれは審理されることになる。そのときこそ裁判員が判断することの意義が問われ、制度定着のかぎを握ることになろう。

◎原爆症訴訟解決へ 議員立法で対応は現実的
 広島の「原爆の日」に、原爆症認定集団訴訟が原告全員を救済する方向で全面解決に向 かうことになったのは、国が19連敗した判決の重みを考えれば当然のことだろう。政府・与党は衆院選を前に、麻生太郎首相の指導力をアピールする思惑もあるのだろうが、306人が提訴した裁判は、6年余りで原告68人が亡くなるなど健康問題が懸念される中で、解決を急ぐ必要があった。

 原告側が一例として挙げたように、敗訴した原告も含めて、原告団に一括して「解決金 」を支給するといった全面救済のあり方は、司法判断の否定につながりかねず、何よりも解決に時間がかかる。敗訴した原告について、議員立法で基金を設けて、問題解決に活用するとした救済方法は、現実的な対応であろう。

 基金の創設は、衆院選後に先送りされることになるが、民主党もマニフェスト(政権公 約)の中に「被爆実態に応じた新しい認定基準による制度の創設」を盛り込んでおり、政権交代があっても、今回の合意内容の流れを受けた方向で救済策が取られるだろう。

 麻生首相と原告側が6日に調印した確認書によると、一審勝訴の原告について国は控訴 せず、すでに控訴した分は取り下げるとし、まだ判決が出ていない係争中の原告については一審判決を待って対応するとしている。また今後、厚労相と日本原水爆被害者団体協議会、原告・弁護団が定期協議の場を設け、諸問題の解決を図ることも確認した。

 6年に及ぶ各地の集団訴訟の判決が相次ぐ中で、厚生労働省は原爆症認定基準の改定を 進め、昨年4月に従来の基準を緩和した新基準を導入、さらに今年6月には、慢性肝炎などを追加して再度基準を見直した。

 判決に促される形での国の対応だが、今後は、新たな定期協議の場で、双方がわだかま りを捨てて意見交換し、山積する問題、たとえば、さらに新しい認定基準づくりや、訴訟を起こしていない未認定被爆者の救済といった課題についても、スピード感をもって問題解決に当たってもらいたい。