中日−阪神 打球は痛烈なライナーで右前へ。通算2471本目の安打となり、一塁へ疾走する立浪=ナゴヤドームで(横田信哉撮影)
|
 |
竜の背番号3が、あのミスターに肩を並べた。5日の阪神戦(ナゴヤドーム)、7回に立浪和義内野手(39)が右前打。プロ野球歴代7位タイの通算2471安打となり、長嶋茂雄・巨人終身名誉監督(73)に並んだ。記念の一打は決勝点につながり、中日は3連勝。本拠地では10連勝。首位巨人が引き分け、111日ぶりに1ゲーム差に縮まった。
切り札を使うのは、このタイミングしかなかった。同点。そして1死一、二塁。落合監督が動く。そのアナウンスを聞くより前に、スタンドが揺れた。バットを持った立浪の姿が見えたからだ。
「常に準備はしていますから」。先発・朝倉を引っ込める勝負手。その背中を見つめた次打者・井端は直感した。
「きょうの立浪さんはものすごく集中力が高まっているように見えました。いつもより構えも低かった気がしたし…」
2人の走者は連続四球。自らの初球まで実に9球連続ボールと、岩田はもがいていた。何よりも欲しいストライク。そんな投手を前にした打者心理とは?
「いや、打席に立てば関係ないんです」。冷めていた頭の芯(しん)。配球を読んだ。
「最初はスライダーを待っていたんです」。1球目はストレート。2球目もストレート。1−1になったところで待ちを変えた。
「打ったときは真っすぐ待ちです。(2球目が)シュート気味にいい球だったので」。内角に食い込むナイスボール。その回転音が、立浪の耳に聞こえてきた。
「パットは耳で打つ」。こう言ったのはアーノルド・パーマーだ。この至言をアレンジしたのが長嶋茂雄だ。
「バッティングは耳で打つんです」。目で球を見る。そんなのは当たり前。耳で聞く。球を感じる。それが一流の境地だ。3球目は142キロのストレート。たたいた。右翼・林の前で弾んだ。満塁。自分の背中を見つめていた井端に、決勝打を託した。
「小さいときに引退されていたので、現役時代は昔の映像を見た程度ですが、長嶋さんといえば国民的ヒーロー。並べたことは光栄ですが、まだ超えてないですから」
立浪にとっての長嶋茂雄は「3」でも「90」でもなく「33」だ。敵将と主力選手。世に知られていないかすかな接点があった。フリーエージェント(FA)権を取得した1997年。知人を介して“興味”を示していることが伝えられた。巨人のFA乱獲期である。
「ボクはそういうこと(移籍)をまったく考えませんでしたね」。接点は線となることはなく、立浪は中日の背番号「3」であり続けることを選んだ。そして並んだ2471安打。1974年秋、当時5歳の立浪の記憶にはないが、長嶋茂雄はこう語ってユニホームを脱いでいる。
「小さな白い球との長い戦いが、終わったことを知りました」
立浪の戦いは、あと50試合。その先に何試合、加えることができるのか…。最後まで勝って、終わらせてあげたいと思う。
この記事を印刷する