オバマ米大統領が核廃絶を目指すと宣言したことで、これまでになく希望の光が差す中で迎えた64回目の広島原爆の日。広島市中区の平和記念公園には各国から平和を目指す人たちが集まり「ノーモア・ヒバクシャ」の誓いを新たにした。一方、未曽有の惨禍が被爆者の心身に残した傷跡は今も深く、自宅で静かに鎮魂の祈りをささげる姿もみられた。
平和記念式典に折り鶴を持参して参列していたのは、原爆投下をざんげする旅で訪れた米ワシントン州タコマ市などの牧師らの一行17人。発起人の一人、トム・カーリンさん(73)は、元在日米海軍の下士官。長崎原爆資料館で初めて見た被爆者の恐怖におののく表情にショックを受け、20代初めに除隊した。
トムさんは、秋葉忠利・広島市長が02年の平和宣言で述べた「憎しみと暴力、報復の連鎖を断ち切る和解の道を訴えるヒバクシャの心」に共鳴。今回の宣言にも大きくうなずき、「Yes,we can」のセリフにほほえんだ。
来日前は、「日本国民に謝罪する」との内容で署名を集めて秋葉市長に渡す予定だったが、米紙上で紹介されて予想以上の米世論の反発を受け断念した。それでも「オバマ大統領を支援して核兵器を廃絶する。多くの人が式典に来ていることに希望を感じた。ヒバクシャの心を学び、世代や人種、歴史を乗り越えて、世界平和を目指したい」と語った。
式典で神妙な面持ちでスピーチを聞いていた米国・カリフォルニア大大学院生、クリスティーナ・スパイカーさん(23)は「原爆投下は必要なかったと思う」と話した。
東部の保守的な家庭に育ち、学校などでも「原爆は戦争を終わらせた」と教わってきたが、01年の米同時多発テロをきっかけに国の見方に疑問を持った。今夏、広島市立大の平和講座に参加したり被爆者の話を聞いたりして、その思いを強めたという。
原爆はきのこ雲の写真のイメージが強かったが、実際に被爆者の体験談を聞くと「そこで苦しんでいる人々がいること」と感じた。
広島で目を引いたのは、オバマ大統領への期待の大きさだ。顔写真を刷ったTシャツを着た人が歩いている。「大きな責任を感じる。帰国後は、学んだことを多くの人に伝えたい」
仏領ポリネシアなどで核実験の被害を調べ、昨年11月の同国の被害者補償法作成に貢献したNGO「フランス核兵器監視協会」のブリュノ・バリオ代表(69)も広島を訪れ、「核実験全面禁止条約(CTBT)の批准や、核の先制攻撃をしないと宣言するなど、行動で示して」とオバマ政権に注文をつけた。【矢追健介、星大樹、村瀬優子、黒岩揺光】
毎日新聞 2009年8月6日 12時08分(最終更新 8月6日 14時00分)