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【社会】

「なぜ救急車呼ばぬ?」 公判3日目 6人、自然体で質問

2009年8月5日 14時17分

裁判員たちから活発な質問が続いた東京地裁の法廷(イラスト・なかだえり)

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 東京都足立区の隣人殺人事件をめぐり、東京地裁で開かれている全国初の裁判員裁判は5日、6人の裁判員全員が証言台の藤井勝吉被告(72)に対して、犯行時の気持ちや経緯を直接問いただした。それぞれ丁寧な口調で語りかけ、聞き取りにくい部分は尋ね直すなど、肩の力を抜いた様子の裁判員たち。法廷は自然体で活発なやり取りで熱気を帯びた。

 「1番さんから質問があります」。秋葉康弘裁判長に促され、法壇に向かって左端の女性裁判員から順に質問を始めた。

 この女性は、なぜ被告がわざわざ部屋の道具箱からサバイバルナイフを持ち出したのか、尋ねた。要領を得ない被告の答えにも「最初にナイフを想像したということですか? 包丁とかほかの凶器ではなくて?」と重ねて質問。被告が「包丁は長くて危険ですから」と話すと、うなずき「ありがとうございました」と礼を述べた。

 「重なるかもしれませんが…」と、軟らかい口ぶりで始めた2番目の女性裁判員。「使ったナイフはお嬢さんの遺品ですよね。そんな大事なものを?」とごく自然な疑問を投げかけた。

 左から3番目に着席したのは前日まで補充裁判員として法壇後方に控えていた男性。この日、体調不良を訴えた女性裁判員と急きょ交代したこの男性も冷静に質問。「(犯行の)途中でわれに返ったというが、死ぬかもしれないと思って救急車を呼ぶとか、考えなかったのですか」

 「近所の人が見ていたので、通報してくれるんじゃないかと考えた」と答えた被告に対して「死ぬかもしれないと思いながらも、そう思ったんですね」と念を押した。

 この日は黒とグレーのシャツを着た藤井被告。答え足りない様子で、身ぶり手ぶりを交えて説明を続ける。時折、的外れな回答をする被告に「今、裁判員の方が尋ねたのは…」と秋葉裁判長がフォローする場面もあり、裁判官と裁判員との連携が目を引いた。

 被告人質問に続いて遺族の意見陳述。証言台に立って話す被害者の次男(36)の表情を裁判員が見つめた。検察側の論告・求刑、弁護側の最終弁論とも壁面の大型ディスプレーや法壇の小型モニターに要点が映し出された。裁判員はモニター画面や配布された手元の書類に視線を落とし、伏し目がちながら双方の主張にじっくりと耳を傾けた。

◆論告に変化 被告人有利な事情も

 従来は検察官席で起立し論告の書面を読み上げてきた検察官が、この日は法廷中央の証言台の前に立ち「あとちょっとの時間ですが、こちらの意見を聞いてください」と裁判員らに語り掛けてから論告を始めた。

 まず、殺人罪に対する刑罰について「法律上、死刑または無期懲役、もしくは5年以上の懲役と定められています」とかみ砕いて説明。「計画的犯行ではなく被告は高齢です。被告にとって有利な事情もあります」と指摘。その上で「犯行態様が残忍で、生じた結果は重大。再犯の恐れが高いといった被告人に不利な事情もあります」と述べ、被告に不利な事情のみを一方的に並べないよう努めた。

◆質問のやり取り 

 裁判員1番 言い争いになった時、なぜ、最初にナイフを持ってこようと思ったんですか。

 被告 ナイフを見せて脅したら、納得してくれると思って持ち出しました。

 裁判員2番 ナイフは亡くなったお嬢さんの遺品で、大事なものを道具箱に入れているというのは。

 被告 刃物なので、たんすの中にしまうものではないし、さやもボロボロになっていて、価値のあるものではないので。

 裁判員7番(裁判員3番と交代) 被害者がひょっとして死ぬかもしれないと思ったのに、救急車や110番通報は考えなかったのですか。

 被告 近所の人が見ていたので、通報してくれると思い、怠ってしまいました。

 裁判員4番 犯行時、被害者に押し返されたというのは間違いないですか。

 被告 間違いありません。倒れた状態で横を見たら、被害者が「人殺し」と大きな声で叫んでいた。

 裁判員6番 最初に胸を突かれ、その後もみ合いになった後、あなたが倒れるまで、時間的にどういう順番でしたか。

 被告 最後の所で倒れました。その間、被害者はたぶん走っていったと思いますが私は確認してません。

 裁判員7番 無我夢中で覚えていないと言うが、刺した瞬間に皮膚の感覚があったと話している。その記憶はあるのですか。

 被告 それは記憶があります。

(東京新聞・中日新聞)

 

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