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新しいモデル

2009年8月6日0時3分

 上場企業の収益は底入れし、生産も回復の途上にある。その背景には中国の堅調が目立つほか、米国の経済や企業収益の回復傾向もある。しかしそれで安心できるのだろうか。

 急激な落ち込みの反動が強いと思われ、世界同時不況を招いた原因の掘り下げや、根本からの改善も道半ばである。問題の核心は経済や金融の担い手の側で、リーダーシップや責任感覚の軸足が、全体の利益よりも「自利」の方にシフトし過ぎたことにあったはずである。また、先進国の経済成長が金融の拡張作用で実力以上に拡大したことも壁に突き当たった。

 そのことをよく見れば、成長のみを志向するのではなく、「量よりも質」が今後の低成長の中での社会活性化の要となると思われる。その采配を振るのは政治本来の働きだが、今回の総選挙の争点もその核心にはいまだ触れていない。一人ひとりにとって、また全体にとって何が本当に大切で、希望につながるのかについて、国民が心の深いところで共感できるような目標は見いだせないでいる。私たちが当面している大きな試練をきっかけに、原点に戻ってどういう新しい生き方ができるのか。そのような新しい生き方のモデルがあれば、政治も経済ももっと考えやすくなる。

 その可能性が大きいのはやはり企業経営だと思われる。利益最優先で人間をその手段と割り切るやり方ではなく、その一人ひとりがもつ可能性を信じて危機の現実を分かち合い、人々のために役立つ志に向かって、意思と知恵を結集し、良い成果をあげる。そういう経営も現にある。そのようなモデルから見えてくる新しい未来から現実を見て、リーダーシップの軸足を再点検する必要がある。(瞬)

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 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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