国際的に高い高速道路料金について、自民、民主両党はそれぞれ見直しを掲げている。自民党は今春から、2年間限定でETC(自動料金収受システム)車載器をつけた乗用車だけが対象の「休日一律1000円」に踏み切った。民主党は「全日、全車両の無料化」を公約している。
いずれも巨額の財政負担を伴う。年間で自民党は2500億円、民主党が1・3兆円。民主党の場合、過去の高速道建設でふくらんだ借金を国が全額引き継ぎ、国庫から毎年約1・3兆円ずつ60年かけて返さなくてはならない。直接利益を受ける利用者だけでなく、国民すべてに負担してもらう方式への大転換だ。ただ、工業製品や農漁業産品などの物流の費用を軽減させ、観光や地域の活性化にだけ目を向けるならば、民主党の公約のインパクトは大きい。休日・平日を区別せず、すべての車が対象なのもわかりやすい。
高速道無料化は、03年11月の総選挙で民主党が初めて公約に掲げた。その当時、私たちは族議員や天下り公務員が影響力を持つ道路行政を改革し、経済的メリットも大きいため「新鮮な提案」と支持した。だが、その後、時代の流れが大きく変化したことも無視できない。
地球温暖化防止に向けて二酸化炭素の排出を減らすという課題は、6年前にはない切迫感を伴っている。日本は低炭素社会実現のモデルとなるべき立場でもある。こうした大状況の中で、二酸化炭素を大量に出す自動車の利用を全国津々浦々、365日奨励する政策は、世界の潮流をきちんと受け止めているだろうか。
自民党の「休日一律1000円」は、副作用を予測するうえで参考になる。フェリー路線は需要の急落で減便に追い込まれているが、さらに大きな打撃を受けるだろう。4~6月期決算が減収減益だったJR各社の経営も一段と圧迫されそうだ。船舶も鉄道もエネルギー効率が高い、低炭素型の交通手段なのにである。
21世紀の日本の社会を見据えた交通体系を描くなら、自動車を運転しない、できない「交通弱者」の増加への配慮が欠かせない。縮小を続けている地域のバス路線の維持や、次世代路面電車(LRT)の導入を促す大胆な支援を考えてほしい。究極の低炭素型である自転車の利用を、大都市などで後押しする施策も求められるだろう。
高速道無料化を歓迎する人は多い。とはいえ、環境問題や社会構造の変化を思えば「バラ色の政策」と考える人は少ないだろう。リスクの高い政策と認識したうえで、次につながる選択をしたいものである。
毎日新聞 2009年8月4日 東京朝刊