きょうの社説 2009年8月6日

◎世界歴史都市連盟 金沢が「城下町」発進する場に
 金沢市が世界歴史都市連盟に加盟することが内定した。ユネスコが登録認定する創造都 市ネットワークのように都市が評価される仕組みではないが、会員都市はパリ、ローマ、アテネ、ウィーン、西安など世界を代表する歴史都市が名を連ね、金沢が「創造都市」に続いて世界的な都市ネットワークに仲間入りする意義は小さくない。

 とりわけ、今回の加盟が意味を持つのは、国内では京都、奈良に次ぐ点にある。日本の 歴史都市は古い時代に都があった「古都」ばかりでなく、「城下町」という日本独自の都市形態も、その代表的な存在として国内外に強くアピールできるからである。金沢市は加盟を「城下町」の価値や魅力発信の好機と位置づけ、世界歴史都市会議などの場を有効に活用してほしい。

 世界歴史都市連盟は1987年に設立された世界歴史都市会議協議会が前身で、その後 、連盟に改称され、53カ国、80都市が加盟する。ほぼ2年に1度、世界歴史都市会議を開催し、2010年秋には12回目が奈良市で開かれる。金沢市は今年10月の連盟理事会で加盟が承認される見通しである。

 奈良での会議では、歴史都市の価値を高める観光の在り方や歴史都市の防災などが話し 合われる予定である。世界の都市とともに共通する課題の解決に取り組むことは金沢にとっても大きなプラスになろう。

 静岡県知事になった川勝平太氏は、近世城下町について、唐の都をモデルにした奈良、 京都と違って日本人が中国文明から脱却して初めてつくった「日本のかたち」と指摘した。奈良や京都との違いを明確にし、その「かたち」を鮮明にしていくことは、城下町の代表格である金沢の方向性といえるだろう。

 歴史まちづくり法に基づく「歴史都市」認定では金沢などに続き、すでに第2弾も選ば れ、認定都市を集めた「歴史都市推進フォーラム」が6日に金沢市内で開かれる。歴史や文化を生かした都市づくりで全国に先駆けるだけでなく、金沢の個性を世界的な視野で見つめ直し、都市の格を高める戦略はこれまで以上に重要である。

◎北朝鮮の記者解放 対話の糸口つかむ思惑
 北朝鮮が拘束していた米国人女性記者2人の解放を決めたのは、米朝対話の糸口をつか むためだろう。国際社会が北朝鮮への制裁を強化するなか、北朝鮮は6カ国協議への復帰をかたくなに拒んでいる。煮詰まった局面を打開したい思惑が北朝鮮側に強くあったとみてよい。

 北朝鮮は今後、記者解放を突破口に米国との直接交渉を求めてくるはずだ。米国人記者 のみを解放し、日本人拉致被害者や北朝鮮に拘束されている韓国人には、目もくれぬやり口に北朝鮮の底意が感じられる。オバマ政権は6カ国協議の枠組み内で対話する立場を固守しており、この米国の姿勢を強く支持していきたい。

 北朝鮮がクリントン元大統領を平壌に招いた意図ははっきりしている。同元大統領が在 任中、北朝鮮との関係正常化に積極的だったからである。94年にカーター元米大統領が訪朝し、当時の金日成主席との協議を糸口に米朝枠組み合意へと進んだ「成功体験」の再現を北朝鮮は狙ったのだろう。

 金正日総書記がツルの一声で人質解放に応じる手法は、小泉純一郎元首相を招いて一部 拉致被害者の日本帰国を認め、国交正常化と経済援助獲得という実利を得ようとした事例を思い出す。

 北朝鮮は、米国との交渉に全力を挙げるつもりで、日本や韓国をことさら無視する態度 に出るかもしれない。米国人は解放されたのに、日本人や韓国人の被害者はカヤの外という状況は、被害者家族にとって耐え難い苦痛に違いないが、「人質外交」にたけた北朝鮮はそれを承知で、揺さぶりをかけてくる。焦りは禁物であり、日米韓は固くスクラムを組んで冷静に対処したい。

 カーター元米大統領の訪朝後、軽水炉の供与と引き換えに、北朝鮮は核開発を中止する 約束だった。このとき見事にだまされた屈辱を米国は忘れないだろう。北朝鮮は米朝対話の糸口を得たつもりかもしれないが、国際的孤立を続けるのか、核開発問題を話し合う6カ国協議の場に戻るのか、そのどちらかの選択肢しか残されていない現実を直視すべきだ。