何十年も組織の中枢で受け継がれてきた秘密の取り決めを、ある時から、辞めた元幹部たちが口々に「実は隠してました」と白状しだす。
秘密といっても、中身はとうに知られており、取り決め相手の資料や証言でも裏付けられていた。一方の当事者が認めていなかっただけ。新たな驚くべき事実もない。
これが、日米の核持ち込み密約をめぐる現状だ。
さて、これを「皆一斉に悔い改めたか」と受け取ったら、相当なお人よしである。
「けしからん。他の関係者も今こそ真実を話せ」という反応も単純すぎる。確信犯だから、尋ねればまだ何人も話すだろう。だが、同じ日米密約でも、沖縄の地位協定については、なお口をつぐむ。
今や核密約を「認めた」だけでは、ニュースと言えない。なぜ今、OBだけが、多くは匿名で(実名証言は旧条約局系でない人たちばかり)、認めだしたのか。うそを反省したわけではなく、新たな思惑があると疑うべきだ。
北朝鮮の核実験とオバマ米大統領の核軍縮が、日本の核政策に見直しを迫った。
核の傘は、相手が合理的に行動するのが前提だが、北朝鮮はそうでない。日本はこれまでと違う「北への抑止力」を構える必要がでてきた。
オバマ核廃絶は「生きている間は実現しない目標」で、重点は核不拡散体制の再構築にある。「核兵器なき世界への核管理」だ。核の国際政治を、日本はどう生き抜くか。
恐らく外務省は国内の政権交代に乗じ、もはや無用になった核密約を脱ぎ捨て、新たな核政策へ移行しようとしている。相次ぐ「告白」は良心や正直といった道徳心の問題ではなく、したたかな環境作りだろう。
毎日新聞 2009年7月18日 0時02分
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