首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、ミサイル防衛の対米協力を前提に、集団的自衛権の行使容認や武器輸出三原則の見直しを求める報告書を麻生太郎首相に提出した。このところの軍拡の方向性をさらに後押しするもので看過できない。
政府が年内策定を目指す新「防衛計画大綱」(2010年〜14年度)案は防衛予算の増額への転換や敵基地攻撃能力の検討など、軍拡と「専守防衛」見直しをにじませる。報告書はこの軍拡路線に沿って、日米の軍事強化・一体化のお先棒を担ぐものと言える。
5年前の現防衛計画大綱の策定時にも懇談会報告は「武器輸出三原則の緩和」を提言し、これを受ける形で政府は外国への武器輸出禁止を見直し、ミサイル防衛システムの日本製関連部品の米国向け輸出に踏み切った経緯がある。
今回の懇談会報告はその延長線上にあり、北朝鮮の長距離弾道ミサイルを想定し、日本のミサイル防衛システムによる「米国に向かうミサイルの迎撃」と、「ミサイルを警戒する米艦船の自衛隊による防護」をも踏み込んで提言するものだ。
日本のミサイル防衛導入決定にあたっては「第三国の防衛には用いず集団的自衛権の問題は生じない」との官房長官談話(03年)があったはずだ。懇談会報告は「日米同盟の強化」を強調するが、集団的自衛権の行使へなし崩しに突き進むことは許されない。
憲法の観点だけではない。北朝鮮はミサイル発射、核実験について一貫して「米国の北朝鮮への敵視政策に対抗するため」と主張している。北朝鮮の挑発行為に対し厳しく対処することは当然だ。しかし「核の脅威」を前面に押し出す北朝鮮に対し、ミサイルを無力化する「迎撃」戦略を日本側が打ち出すことは、いたずらに北朝鮮を刺激し“日本敵視”を助長することにはならないか。
米軍の「核の傘」を頼み、「ミサイル防衛」に傾斜する日本政府の姿勢に対して、北朝鮮の矛先が北朝鮮をにらむ広大な米軍基地を抱える沖縄に向かいかねないことを危惧(きぐ)する。
懇談会報告書は「日本、同盟国、国際」の協力による「多層協力的安全保障」をも提言する。日米軍事同盟一辺倒でない、アジア各国の包囲網を考え合わせるべきだ。
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