2009年 07月 26日
北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。 追補7

北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。 考察⑩ 低体温症発生回避のためのヒサゴ沼避難小屋からのエスケープルートについて、


このルートには逃げ場がないというのが一般的な新聞報道になっているのは周知の事実。たしかに、地図を広げてヒサゴ沼あたりから逃げられるところを探してもかなり歩かないと逃げられない。ところが現地の登山ルートに通暁されておられるswanslab さまがおっしゃるには、きちんとしたエスケープルートがあるとのこと、しかもそれは悪天の場合でも安全に使えるルートであるそうです。今回はそんなエスケープルートの考察です。

swanslab さまにいただいたコメントによると、以前は、前トム平から下った先にある、コマドリ沢の増水で通行困難となる危険があったため、ヒサゴ沼避難小屋からのいくつかのエスケープルートが縦走の際には常に念頭におかれていたそうである。しかし、今ではコマドリ沢から尾根に上がる新道ができたためか、コマドリ沢の増水による危険を理由にヒサゴ沼でエスケープする判断をしにくくなっているのかもしれません、とのこと。

つまり、新道が出来る以前はコマドリ沢の増水を理由にトムラウシを諦めてヒサゴ沼避難小屋からトムラウシ温泉以外の登山口に下山するエスケープルートがよく利用されていたのだそうだ。

新道が出来たためか、そういったヒサゴ沼避難小屋からエスケープルートをたどるという判断は以前ほどは行われなくなったらしい。
されど、今回の事故を契機として、今後、悪天の場合は、低体温症の発生回避を理由とする迅速なヒサゴ沼からのエスケープというのが、重要視され、低体温症発生回避のためのヒサゴ沼からの安全なエスケープルートの議論が脚光を浴びることになると考える。

見方を変えるならば、いままではコマドリ沢の増水を理由にエスケープしていたので、トムラウシ山頂付近は悪天候時に低体温症が発生する恐れがあるルートであることが陰に隠れていたのだが、新道が出来たことにより、悪天でもトムラウシを超えてトムラウシ温泉に下山しようという登山者が増えて、その結果トムラウシ山頂付近で低体温症による山岳遭難事故が続発、トムラウシを越えて行くルートは低体温症がきわめて発生しやすいルートであることが表面化してきたのだということが出来るのではなかろうか。

ともあれ今回の事件をきっかけに低体温症の認識も広がった筈ですので、悪天候の場合は、低体温症の発生を回避するために、ヒサゴ沼避難小屋からのいくつかのエスケープルートが登山計画に織り込まれねばならないでしょう。

では、実際、ヒサゴ沼避難小屋からどのようなエスケープルートがあったか、swanslab さまのご指摘にしたがって以下に二つのルートを検討します。

 これらのルートは、コマドリ沢沿いのルートが増水で危険なときでもこの道ならば大丈夫!として地元の岳人たちによって使われてきたものであり、当然、雨天でも安全に通過できるルートであるそうです。

zentaisetu
エスケープルートを検討する上で、この図表は周辺のルートが一発でわかり実に便利である。引用元は・・以下のアドレス。
http://www.ne.jp/asahi/slowly-hike/daisetsuzan/02taisetudata/11tozanguchi/00juusou.html

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エスケープルート①

tomuraushihisago
化雲岳、五色岳を経て沼の原(クチャンベツ)に下るルート(クリックで拡大します)

http://www.ne.jp/asahi/slowly-hike/daisetsuzan/02taisetudata/11tozanguchi/02kuchaunbetu.html

のんびりテント泊装備で9時間20分かかるとある。標準では、7時間といったところであろう。であるならば、トムラウシ温泉に下るのと時間的にはさして変らない。
ただし高度的には、ヒサゴ沼避難小屋から1時間20分かかって標高1954mの化雲岳、さらに、1時間20分で五色岳(1868m)となり、そこからは下るルートとなる。五色岳からは標高1600m付近まで木道があるそうである。標高1398mの五色の水場まで逃げることが出来れば、高度的には十分安全圏だろう。

ルート評価
のんびりテント泊装備で2時間40分ならば、18名のツアーで3時間30分ぐらいか?
そのくらいで五色岳を超えれば標高的には楽になる。
ヒサゴ沼避難小屋を5時30分に出て、4時間以内に五色岳を越えれば、朝10時ごろには、標高1800mぐらいまで下ることが出来て、安全圏に速やかにエスケープできたのではなかろうか?

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エスケープルート②

tenninkyo
化雲岳を経て天人峡温泉に下るルート(クリックで拡大します)

http://www.ne.jp/asahi/slowly-hike/daisetsuzan/02taisetudata/11tozanguchi/08tenninkyo.html

これは化雲岳から天人峡に下るルート、のんびりテント装備で8時間20分とある。
ヒサゴ沼避難小屋から1時間20分で化雲岳で、さらに1時間で標高1870mのポン沼まで行って、そこから3時間かけて標高1317mの第一公園に下る。
標高的には、第一公園まで下ると安全圏であろう。単純計算で5時間20分・・朝5時30分にスタートして、11時頃に第一公園となる。

ルート評価
これは一番安全なエスケープ・ルートではないのか?
ヒサゴ沼避難小屋に停滞できないのならば悪天を突いてこのルートを速やかに下山することになろう。
のんびりテント泊装備で8時間20分であるならば、18人のツアーでも、11時間ぐらいで余裕で下山できよう。
すなわち、午後4時30分頃には、天人峡温泉に下山できるはずである。

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さて、私はエスケープルート②がよいと判断したのですが、実際はどちらを選ぶべきでしょうか? 現地に通暁されておられるswanslabさまのご判断では以下のようになります・・。

ホテルバスの手配という面では天人峡ですが、若干森林限界での行動時間が長く距離もあります。風よけになる樹林帯にわりと短時間で入れる最短ルートという面では沼の原登山口がベストです。また、後続同社パーティは沼の原経由でヒサゴ沼に入ることになっているため、もし仮にエスケープの判断がなされるとすれば五色手前あたりで同社パーティ同士がすれ違う可能性のある、沼の原経由で下山することになったでしょう。

ここはひとつ、現地に詳しい方のご判断に従うことにいたします。


by segl | 2009-07-26 23:19 | Ⅶ 省察


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