北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。 考察⑫ ガイディング能力への過信、気象予測の難しさ、プロガイドのプロたるゆえん・・。
2007年7月15日~17日の天気図 bushi 様のコメント参照
画像は「気象人」より引用 http://www.weathermap.co.jp/kishojin/diary/200907/
考察⑫ ガイディング能力への過信、気象予測の難しさ、プロガイドのプロたるゆえん・・。
「私にでも登れるかなぁ_?」と半信半疑な方を、適切にフォローして、足りないところを補って、登りたい山に登らせてあげるのが登山ガイドであると思います。
例えば、トムラウシに登るには10の力が必要であるとして、7とか、8とかしか力がない人でも、足りない分を補うのが、登山で飯を食う、プロたるゆえんでしょう。
実力がすでに、10や12ある人のガイドになって登らせても、それは単に道案内をしたにとどまると考えます。
甘やかせ登山である、といった皮肉も寄せられるでしょうが、尾根歩きのガイドの本質は、甘やかせ登山にあるのだと思います。
以前は、市井の山岳会に入って、いろんな山を経験したあとで、会の夏山山行として、大雪山系の縦走を行ってトムラウシに登るといった手順が、正統的段階であったと思うのですが、会務の雑用にしばられたり、自分の行きたい山に必ずしも行けるわけではないことなどで山岳会を敬遠し、個人、或いは気のあった仲間と気軽に山を楽しむといった人たちが増えてきました。
特に、自由な時間が出来てから山を始めたような中高年層には、その傾向が強く、そしてその(表現が悪いですが)「受け皿」が、公募形式のツアーになってきたという背景があると思います。
一人で企画して行くよりも、仲間もいるし、ガイドもつくし、道にも迷わないし安全・・というのが主たる理由でしょう。
その場合、道案内と、ペース配分を上手い具合にして、ばてさせないでなんとか、山頂を踏ませて、ルートを歩かせてあげるというのが、ガイドの役目です。もちろん、天候判断も含まれます。
さらに悪天候の場合には、「今日行動すると、悪天につかまって、疲労凍死するかもしれませんよ。」と適切な警告を与えて、計画を適宜修正、変更するのもガイドの役目でしょう。
そんなツアーに参加される場合は、基本的に「お任せ登山」でよいのだと思います。
今回の事故をあれこれ見てきますと・・
①当日の天候予測に失敗し、終日悪天候。
②ツアー客の疲労状態に失敗し、行程がはかどらなかった。
③低体温症の発症可能性の予測を間違えて、8名ものツアーメンバーを死なせた。
④それどころか、ビバークして、ガイド自身も死んでしまったり、ガイド自身も自力下山できなかったり・・。
特に④は致命的で、自力下山できないガイドはガイドとして致命的ミスであると考えます。
これらを評して、ひとことで言うならば自分達のガイディング能力への過信があったのだと考えます。
自力下山の価値
自力下山できないガイドツアーは失敗であります。
ルートをたどることよりもまず無事に自力下山することをより重視するべきであったと考えます。
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所見
さて、今回の事例ですが、私の現在の所見では、結局、プロのガイドであるならば当然知っておくべき2007年7月11日の事例、および、それを受けて、地元北海道の医師が書いた低体温症の記事(これも、検索すればすぐ手に入る情報である)、この二つをおよそ北海道で山岳ガイドをやろうという人間は当然おさえておかねばならず、その上で、当日(16日)のヒサゴ沼避難小屋スタート時点の風雨は低体温症の発症を招くに十分なものであると判断した場合、「低体温症の発症までのタイムリミットは、5時間~6時間で、その時間内に、安全圏(☆)まで下山しなければならない。」・・とガイドなら当然ここまで考えを巡らせねばならなかったのではないでしょうか。
(☆・・コマドリ沢分岐あたりが、一応「安全圏」であるとすると、そこまで制限時間内に下らなければならない。)
さらに、ツアー参加者各自の体力の程度は、14日、15日の行動から大まかにはわかっていたはずであるので、3名のガイドには、ヒサゴ沼避難小屋スタート時点で、5時間~6時間経過後に安全圏まで下れるか否かに関して、十分判断が可能であった筈である。
以上の読みに失敗して、漫然とスタートして、今回のような結果を引き起こしてしまった。
ところでこの場合、天気予報が好天に向かっていると報じたのを信じたというのは、非難を減ずる理由になるだろうか?
※天気予報は、あくまでも予報であり、余りあてにならないものだと思って行動するべきである。
※予報よりも実際は回復が遅れる場合もあると見込むべきである。
※ガイドである以上そういった予報が外れることは、経験上当然わきまえておくべき事柄であろう。
つまり、天気予報で天気が回復するとされていても、一般のハイカーならともかくプロのガイドとしてはまず疑ってかかるべきであった。その意味で、慎重性に欠けたといえると考える。
安全登山の見地からは、ヒサゴ沼避難小屋出発の時点で、天候はおいそれとは回復しないと消極的(保守的)に判断するべきであって、好天を予報する天気予報を信じたということは、責任を減ずる理由にはならないと考える。
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swanslab 様から指摘されたデータ
swanslab様によりますと、次のWebSiteに当日の天気概況が掲載されているそうです。
http://snowmania7.blog38.fc2.com/blog-entry-56.html
旭川地方気象台(16日5時発表)による上川地方の天気概況は、
天気予報
今日
南西の風 後 北西の風。上川北部では 南西の風 やや強く
曇 所により 朝まで雨
明日(7月17日)
北西の風
晴 明け方まで 曇
降水確率
今日(06-12) 20% (12-18) 0% (18-24) 0%
明日(00-06) 0% (06-12) 0% (12-18) 0% (18-24) 0%
というものでした。
つまり終日南西の風で降水確率が午前20%午後は0%です。
前日15日の概況では16日午前の降水確率が50%だったことから、
16日はやや早めに快方に向かうという具合に、天気概況が予測を修正したとの判断に傾かせた可能性があります。
天気図をみると風の通り道であるトムラ周辺は爆風が吹きそうです。
雨量については、微妙ですが、風は終始吹き続ける可能性がありますが、少なくとも雨は次第におさまるのでは、
との期待がなされたとしてもおかしくありません。
もしかりにガイドたちがそう判断したとすると、現実には倒れるような強風で雨も降っていたにもかかわらず
なおも前進をつづけた理由に雨だけは必ずやおさまるであろうという天気読みがあったと推測することができそうです。
天気予報に依存することがプロとして許されるか?
swanslabさまがお書きのとおり、この天気予報を見る限り、「今日の天気予報は曇 所により 朝まで雨で降水確率は午前中20パーセント、午後からは0パーセントだよ!稜線の風は強そうだけれど出発できるね。」ということになります。非常に元気付けられる天気予報です。
にもかかわらず、「いや山の天気は分からないから、その天気予報も完全に当てにはならないよ!今日は停滞か、エスケープで帰ろう。」と言い切るには、現地の小屋番並の豊富な気象経験を持つガイドでなければなりません。
そういった高度な判断力を、大雪山系の山々を舞台に働いているガイドのうち、どれほどのガイドさんが備えていたのでしょう・・。
例えば、100名ガイドがいて、80人はそういった天気予報に反するけれど結果的には正しい気象判断をなしうる能力を持っているのなら、今回のガイドは、表現は悪いですが、いわば、標準以下のガイドであったわけで、非難されても致し方ないでしょう。
でも、そうでなく、100名ガイドがいても、天気予報が外れることを自信を持って見抜けるほど現地の気象の特殊性に通じたガイドは、わずか一握り(数名)に過ぎないとしたら、今回のガイド3名の行動も、北海道のガイドのほとんどがやっている標準的な行動パターンに沿って行動したまでで、結果的に天気予報が外れたけれど、それほど非難される行動ではなかった。といえましょう。
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今回の事例が私たちに教えてくれるのは、ツアーガイド登山においては「体感気温マイナス5度の暴風雨状況下で、メンバー各自にレインコートと防寒衣料の準備が整っていない場合は、たとえ天気予報で、数時間後の天気の回復を報じていてもそれに従ってはならない。」という保守的な判断を行うべきである、ということになりましょう。
そして、そういう一見ありえないような保守的な判断を現場の状況判断で下せるのが、プロガイドのプロたるゆえんなのではないかなと考えます。
とはいうものの、今回の事例は、判断がきわめて難しいケースであったのは確かであり、天候予測の失敗だけをとらえて、三人のガイドを非難することは少し無理があると考えます。
>例えば、トムラウシに登るには10の力が必要であるとして、7とか、8とかしか力がない人でも、足りない分を補うのが、登山で飯を食う、プロたるゆえんでしょう。実力がすでに、10や12ある人のガイドになって登らせても、それは単に道案内をしたにとどまると考えます。
失礼かもしれませんが。
私もガイドさんと歩いたことがあります。普通にはまあ一人でも大丈夫かなと思ったコース(破線ですが地図に出ているコース)でしたが勉強になると思って。で、北アルプスのガイドさんはやっぱり凄い。山岳会で偉そうにしている岩屋さんなんて、メじゃないですね。ほとんど全ての岩を、どっちの足から踏むといいかまで把握しています。これから一生山を歩いてもかなわないと思いました。
>甘やかせ登山である、といった皮肉も寄せられるでしょうが、尾根歩きのガイドの本質は、甘やかせ登山にあるのだと思います。
これは全然別の問題と別の技術だと思います。
>つまり、天気予報で天気が回復するとされていても、一般のハイカーならともかくプロのガイドとしてはまず疑ってかかるべきであった。その意味で、慎重性に欠けたといえると考える。
これについては、僕は「天気予測なんて当たらない。当たらない時の行動計画の方が重要」と考えています。
すみません、横槍で余計なこと色々申し上げて。
Bacchus auf Daikanberg
Juli 30, 2009 um 3:24
Bacchus auf Daikanberg さま
こんにちは、コメントをいただきありがとうございます。
何度も繰り返し拝読させていただきましたが、ポイントポイントでのお考えは十分把握できるのですが、Bacchus auf Daikanberg さまが今回の遭難事件についてはどのようにお考えなのか、よく判りかねます。
この記事は、ローズさまのコメントを受けて、多少ガイドさんには厳しい表現になっておりますが、それもバランスということで、何卒ご理解ください。
silvaplauna
Juli 30, 2009 um 4:33
Bacchus auf Daikanberg様
>「天気予測なんて当たらない。当たらない時の行動計画の方が重要」
全くその通りだと思います。silvaplaunaさんももちろん同様の趣旨で、天気判断の難しさについて考察されていますね。私なりの言い方をすれば、天気をずばりと当てるというのは、人知を超えた判断です。これについては、ほぼすべての方が同じ意見だと思います。
では、上記のような天気概況のときにどうするか、というと判断のロジックが分かれてきます。
私自身のリーダーとしての考え方を参考までにコメントさせてください。
ひとつは、あらかじめ登山計画のなかで、パーティの行動能力から、行動しても安全な天気基準を割り切ってしまう方法です。たとえば、トムラウシ越えをする天気基準は、前トム平を下るまでの6時間、小雨、ふらつなない程度の風なら行動可能などと具体的に決めてしまうわけです。いったん決めてしまえば、たとえ当日の朝の概況が好天方向だとしても、基準を満たさず、エスケープか停滞などの判断をせざるを得ません。またもちろんエスケープルートの天気基準も決めておく必要があります。
重要なことは、この基準、判断方法をガイドが決めるのではなく、企画会社が企画書のなかでマニュアル化することです。いわば、企画書は憲法みたいなもので、臨機応変の判断を許さない硬直性がありますが、これが安全側を志向する硬直性であれば、むしろガイドは、山の中で考えるべきことが少なくなり、登頂のプレッシャーも弱まり、精神的な荷は軽くなるはずです。ルート評価と天気基準については机上で考えつくしておく必要があります。
通常、山岳会等の計画検討で行われるのは、こうした行動指針の確認です。
このように考えると、計画の中で安全をある程度は担保できそうにも思えますが、ところが、リーダー(ガイド)は登山中、非常に重要な任務を負っています。
それは、刻々と変化するパーティの状況、能力、装備の確認、そして評価し、それを原計画へのフィードバックです。山のなかでのリーダーの仕事の中心はパーティ評価と管理といっても過言ではありません。もし、パーティの行動能力が計画時に想定していたレベルと差が生じてきたときは、リーダーが臨機応変に考えざるを得ません。この頭脳作業に神経を集中すべきであるがゆえに、ルート評価、転機基準などの計画を事前に綿密に立てる必要があるのです。
人間は不完全です。どんなに綿密な計画をたてようとも、現実が裏切ることはよくあることです。そこで初めてガイドの真価がとわれるわけですね。
まとめますと、まず企画段階で十分なプランニングをする。
現場では、常にパーティの状況を把握し、評価を加えてオーガナイズする、これがリーディングであり、ガイディングの基本といえるでしょう。
プランナーとオーガナイザーが別々の主体であることは、デメリットもありますが、むしろメリットも多いです。すべてのガバナンス、マネジメントに共通するテーマですが、議論が拡散するのでとりあえずこの辺で。
swanslab
Juli 30, 2009 um 4:48
swanslabさま
フォローいただきありがとうございます。
しばしばお書きいただく方法論はドイツ観念論哲学を連想させる秀逸なものと感じております。(勝手に○大メソッドと呼んでおります。)
お知らせいただいた天気予報の件は、すこし弱いかなと思うのです。
ガイドさんへの非難を決定付けるにも弱く、また否定するにも弱いと考えます。
ガイド登山は安全であるべきと書いておりますが、実際はやはり相当な薄氷の上を歩くときもあるようです。
今回はそんな薄氷歩きだったが、運悪く、氷が割れてしまったそんな印象です。
silvaplauna
Juli 30, 2009 um 5:11
戸田様の壮絶な記録を拝見し、その勇気に敬服しております。確かに誹謗中傷もあるやに思います。皆さんご指摘のことと思いますが、2002年の事例が生かされなかったことです。いま私達にできることは、このことを、今度こそ次に生かすことです。それが亡くなった方への供養であり、戸田様の努力に報いることだと思います。さて、今回の悲劇を避けるべき問題点を戸田様が提示されました。まず、必要とされる摂取カロリーは登山においては自衛隊並の3000kcal程度必要だというのを聞いたことがあります。実際の食事はどうだったのでしょうか。パンフレットを見るに心配を感じさせる記述はありません。このツアーの食事内容はどうだったのでしょうか。このサイトに登山を経験された栄養士の方がいらっしゃればどの位の摂取エネルギー、栄養素バランス等必要だったのかが検証できると思います。また、低体温症においては専門医師の方がご指摘されているようにフェーズで処置が変わってきますのでガイドを含め一般素人にはなかなか難しい面があります。やはり生活習慣病と同じ同じ予防が重要なファクターでしょう。となると、やはり濡れに対する対応が生死を分ける分岐点と思います。濡れない登山の仕方、濡れた後の処置の仕方、非難小屋やテントで過す場合結構コツがあるように思います。経験豊富な方はどうされているのでしょうか。新田次郎の「八甲田山死の彷徨」にも記述されていますが1人の脱落者が連鎖反応的にそのパーティの行動に制約を加えていくこととなります。1パーティの体力差が歴然としがちなツアーでは、食事の摂り方や衣服調整にも個人差も大きく係わってきそうに思われます。
jopi
August 1, 2009 um 11:39
jopi様
おはようございます。コメントをいただきありがとうございます。
お書きのご意見ごもっともです。
戸田様の体験記があまりにリアルで、コメントするのもためらわれます。
ご指摘の・・
※食事など補給面からの検討
※濡れても身体を冷やさない工夫の検討
※脱落者が出た場合のteam operationの検討
これらは、すべての登山者が、この事例から学びいつも念頭におくべき事柄であると思います。
二番目に関して、特定の商品を勧めるのもおかしいですが、今回 patagonia のキャプリーンの3あたりを肌着代わりに着ていれば、だいぶ結果は違ってきたはずです。(このように簡単に言ってしまうのもどうかと思うのですが・・。)
http://www.patagonia.com/web/jp/product/mens-capilene-3-baselayer-long-underwear-zip-neck?p=44440-0-667
それと、頭と手を冷やさないことでしょう。帽子を被って、手袋をする、手袋もスペアを持ってゆき濡れたら替える、それだけで大分違います。
手袋など、ホームセンターに売っている1000円ぐらいの手袋で十分なんですが・・。戸田さんさえも、手袋は持たなかったそうですね。
着膨れは、大汗をかきますが、外から濡れない限り、自分の汗で低体温症になることは考えにくいですから、含水性のないウェアを幾重にも着て、体幹を雨に濡らさないことが大切だと考えます。
もちろんこれも原因のひとつへの対策に過ぎません。
結局、今回のような大雪山の縦走を荒天を乗り越えて成し遂げるには、本州で四季を通した登山を実践しそこからフィードバックして得られたさまざまな知識を活かすことによって初めて可能となりましょう。
天候が荒れるほどに、teamの総合力が問われ、この点に劣るツアーの場合は、今回の荒天を乗り越えられるほどの総合力はなかったということが出来ます。
天気が荒れなければ、総合力が低いteamでも余裕でクリアでき、メデタシメデタシで終わったのですが、そういう、金メッキteamは、いざ苛酷な天候にさらされると、メッキが剥げてしまうわけです。
silvaplauna
August 2, 2009 um 12:45
今回のツアーの募集のパンフレットが東京新聞に報道されていると,以前こちらにもコメントを寄せられたやまおじさんのブログに載っています。
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-cc06.html
東京新聞 2009年7月18日(土曜日)の記事で,それによると
行(行程) ②12.5k・8時間・累積1780m
③16.5k・10時間・累積1570m
④12.5k・10時間半・累積1880m
補(補足) ②③泊目は寝袋と食料が必要になります。
準備及び運搬は各自にてお願い致します。
お湯は弊社スタッフがご用意致します。
とありますので、2泊目3泊目は,各自でメニューを考えて各自で持参したとすると,その内容に相当の差があったと考えられます。
また「なお、各無人小屋の混雑状況によってはテント泊になる場合もございます。テントは弊社にて準備致しますが、一部運搬のご協力をお願いする場合もございます。」ありますが、全員が泊まれるだけのテントの用意がどの地点まであったのかというのが,疑問に思います。それからお湯を沸かす器具も。
ローズ
August 2, 2009 um 6:54
ローズさま
こんにちは、貴重な情報をありがとうございます。お湯の話しや、ボンベを買ったことなど戸田さんの体験記にも出てくる話しと符合します。おかげで体験記での表現の意味がわかって助かります。
体験記によればテントも、全員は入れない状況だったようです。
最終日は、自力下山するのに18時間はかかったわけですから、きちんと座って食べることが出来ない状況下で、立ち止まったりしながらでもすこしづづ補給しないと、18時間はちょっと持たないと考えます。
頭がボーっとしてくると、補給しなくてはいけないのにそれも忘れてしまう、そしてその結果いわゆるシャリばてになる(血中糖度が下がって、脚とか、全身に力が入らなくなること)ことはよくある話しです。
更に前日もきちんと補給できていたかも、16日の行動能力に影響します。二日間ろくに食べずに延べ30時間ちかく歩かされては、きちんとトレーニングをこなしている人ならともかく、ごくごく一般的な体力の持ち主では身体もばてて当然というものです。
いま気がついたのですが、④はトムラウシ温泉への下山日で、下山というからには、たいして登らないように思うのですが、なぜか累積1880mも登るのですね。
疲れてくる最終日に一番累積標高があるというのも身体にはきつい話しです。
カッパのポケットに、携行食をあらかじめ入れておくとかいうのは、サバイバルの知恵です。ポーチに入れておく手もあります。ローズさんも覚えておいてください。
それにしても、④の10時間30分というのは、例の家族5人のファミリーハイクが晴天に恵まれても10時間だったことを踏まえると、晴天を想定してのタイムなんでしょう。
雨天で、おまけに強風で歩行困難だったり、脱落者が出ると、10時間30分では到底おさまりません。そういうところは、計画のムリの現われなんだと思います。
silvaplauna
August 2, 2009 um 9:37
不謹慎な言い方かもしれませんが、戸田さんの証言をとても興味深く拝読しています。
たいへんな体験をなさったうえ、警察やマスコミからのプレッシャーもおありではないでしょうか。
(警察の調書のお話、ほんとうにひどいものだと思いました)
戸田さんの勇気ある証言には頭がさがります。
東京新聞の記事にあった今回のツアーの案内書は、ネット上で、もっとクリアーな画像(カラー)を見たように思いますが、新聞記事であの案内を読んだとき、「これは無理なコース設定だな」と感じました。
この会社(アミューズトラベル)の他の国内ツアーのコース設定なども、できることなら見てみたいと思います。
「山と渓谷」のバックナンバーを見ていたのですが、海外のトレッキング・ツアーの案内などが1ページに満載されていて、驚きました。
※「山と渓谷」2005年4月号(205ページ)
アミューズトラベルの募集広告
ブログにも書いていますが、一般公募のツアー登山という登山方法そのものに問題がある、というのが、私の基本的な考えです。
ただ、それを言ってしまっては、今回の遭難事故の反省を放棄してしまうことになりますから、いくつかの行動ポイントのなかで、「なぜ、こうできなかったのだろう」という疑問を提起しました。
このパーティーのリーダー(ガイド)は、避難小屋停滞やエスケープルートをとることなど、当初から計画外であるばかりか、そうとう悪い状況になっても下山することを優先したように見えます。
それは何故か――予定通りに下山することが最大の命題だったから。
今はそんなふうに感じています。
ただ、いくつか腑に落ちないガイドの行動があります。
最大の疑問は、北沼付近での1時間半から2時間もの、悪天下での停滞です。
やまおじさん
August 2, 2009 um 10:29
やまおじさんさま
こんばんは、コメントをいただきありがとうございます。
まさに蓋を開けてびっくりの状態で、正直申して、開いた口がふさがらない状態です。
世には優秀なガイドさんもたくさんいますから、ガイドが悪いと一般的にはいえませんが、この事例の場合は、ガイドに圧倒的に不利です。・・それでもガイドは悪くはないと、開き直る人も、最新の戸田さんの体験記(A⑧~A⑱)を読むと考えが違ってくるはずです。
ご指摘のように、ルートを予定通りこなすことしか頭になかったんでしょうね。まさに議論以前のレベルであり、エスケープだの、停滞だのとここで散散議論したのが空しく感じられます。
頭にあったのは、「16日 何が何でもトムラウシ温泉に下山させる。」ただそれだけだったようです。
・・東京の高尾山や、陣場山なら、そんな強行軍も十分に可能でしょうが、2000mを超える北海道の山では「そうは問屋は卸してくれなかった」ようです。
そんな無思考登山の犠牲になった7名(ガイドは自業自得)の方々の無念は、はかりしれません。
◇ ◇ ◇
やまおじさんもご指摘の、その「最大の疑問」は、私にとっても謎です。
たぶん、戸田さんもお書きのようにすでに心理的余裕がなくなっていて、元気な人は先に下らせるのが良い、との判断が出来なかったのではないかなと考えます。
まさに、危難に直面した状況判断を指揮官たるリーダーが間違えたのです。隊が全滅に近い結果となったのも指揮官の責任です。
今回の事故を踏まえるとツアーガイドは、危機管理能力に秀でていることが絶対優先条件で、別にナチュラリストでなくっても構わないと考えます。
山野草の名前など知らなくっても、場面場面に応じた危難のやりくりが出来れば十分なのだと思います。それが出来れば最低限生きて還ってこれるのですから・・。
silvaplauna
August 2, 2009 um 10:50
さっそくのレスポンス、ありがとうございます。
今回の遭難は、ガイドの資質だけではなく、このようなツアー登山を続けてきたツアー会社の責任が問われると思います。
当時の状況を知るにつけ、あの場合に、よく知らないお客さんを10人も引き連れて無事に下山できるとは、どうしても思えません。
ただ、残念に思うのは、体調のよくない(初日の旭岳の時点から)お客さんが混じっていたことを把握した時点で、パーティー全体の行動(それも悪天候下の)についてもっと柔軟な考え方がリーダーにできなかったのかな、ということです。
当初のスケジュールをこなすことしか頭になかったとしたら、やはり、ガイドとしては適任ではなかったと思います。
やまおじさん
August 2, 2009 um 11:11
ごめんなさい。
お客さんの人数は10人ではなく、15人でしたね。
戸田さんの詳しい証言を読ませていただき、あの状況で全員を無事に下山させる見通しがあったのかどうか、全員を引率することが無理だと判断したのなら、もっと最適なパーティーの分け方があったのではないかと、残念に思います。
やまおじさん
August 2, 2009 um 11:14
やまおじさんさま
私の場合、登山で金儲けをするのは、良くないと思っています。
趣味は趣味、趣味の切り売りはしない主義です。
実態が明らかになるほどに、トムラウシを舞台にした金儲けシステムの犠牲者になった7名の方の無念が伝わってきます。
silvaplauna
August 2, 2009 um 12:31
sivaplauna様
情報整理をご苦労様です。
私は山岳会に属しますが、67才の熟年登山者で、2007年7月16日~20日に同じコースを単独で歩きました。又、今年は遭難と同時期の7月8日~18日に悪天が続く中、単独、日帰りで幌尻岳、羅臼岳、斜里岳、雌阿寒岳、最後に遭難事故の翌日に十勝岳に登りました。
同じ熟年登山者として考えさせられる問題で、新聞記事は情報不足と矛盾有りと感じこちらを読まして頂いてます。
情報の中で補足、検討が必要と思われる2点を記します。
1.ローズ様が紹介された募集パンフレットの累積高度は、登りと下りの合算と思います。
私が計画した時のデータでは
② ↑ 1070m ↓690m
③ ↑ 650m ↓930m
④ ↑ 610m ↓1650m(温泉まで)
2.山の気象情報をどの様に収集していたのだろうか?
ガイドツアーを商売とするならば、縦走で一般携帯が通じぬ山域には、衛星携帯電話を持たせ
本社で予想天気図、山頂の天気予報を調べ連絡する体制が必要と思います。
・私は今、携帯電話で「山ハイキング天気(山頂の予報)」に頼り切っています。
遭難の元凶になった低気圧前縁の暴風圏に、15日、雌阿寒岳で遭遇しています。
14日の夜、オンネトーでは携帯が繋がらず、わざわざ車を走らせ「山ハイキング天気」を見ると、午前中は雨、風速20m強、午後は曇り、風速15mでした。
朝、無理して登ったグループの話では、真っ直ぐ歩けず、耐風姿勢をとっても足が浮く程だった様です。
私は、昼まで待機し、午後、雌阿寒温泉から単純往復で無理なく登頂しました。予報が的中しました。
・しかし、山行から戻って新聞の天気図を整理すると、15日午後、雌阿寒岳はその低気圧の中心より前で、中心付近は閉塞前線になり、低気圧そのものはまだ大陸気団の端で低気圧の後縁は等圧線の間隔が広く回復しただけでした。
・16日朝になると低気圧は北海道の北岸に進み、大陸気団から独立しつつあり独自の渦巻きを形成し後縁の等圧線間隔が詰んできて冷たい吹き戻しの強風で、高山では荒れ、遭難グループは最も悪い時間に行動した事になります。
私は、16日が移動日で(雌阿寒温泉から美瑛の白金温泉へ)平地では晴れでしたが、11:00層雲峡で強風のためサマーセーターを捜した程です。
・力不足と判断すれば6時間遅らし、その場合トムラウシ温泉は無理で、天人峡温泉に下山するしかなかったかと考えます。この行程、予約変更を打ち合わせるためにも、ツアー登山なら衛星携帯電話が必携と思います。
(追記)
ツアー登山でも頂上往復なら、行ける所まで行って撤退していました。7/10,幌尻岳で2グループ共、7/14,斜里岳で2グループ共。
--以上--
bushi
August 4, 2009 um 7:14
bushi 様
こんにちは、補足情報をありがとうございます。どうも最近いただく情報の確認を怠りがちで、累積標高もどこかのウェブサイトで確認すればよかったのですが、おざなりになってしまいました、どうも失礼いたしました。
いちばん大きな記事の後半にいろいろな記事の原文があがっております。それだけを読み込んでもつじつまが合わないところもあります。さらに、戸田様の体験談もございますが、戸田様が経験された範囲内の情報ですので抜け落ちているところもございます。
今回の事故はひと言で言うならば、ツアー登山の特殊性ということで、引率ガイドがbushi様や私のような個人の登山家として経験と実際に応じた適切な判断を行うことに何らかの「制約」があったようでして、それが遭難を引き起こした原因であると考えています。
それにしても、67歳で、本件のコースを含めて8日~20日まで北海道の山々を立て続けに登られるなんて、絶対、普通の登山家の方ではないとご想像申し上げます。(たぶん若いときは、バリバリの山やさんだったのでは?ヒマラヤにも行ったことがあるとか・・?)
本件コースもばっちり単独ですか!年齢を踏まえますと単独でやるのは凄いと思います。67歳というと、小西政継さんよりすこし若い世代だと思うのですが、日本のアルピニズムの全盛期に山をやっていた方(だと思うのですが・・)は、鍛え上げかたが違い、年齢を感じさせませんね。
bushiさんのような人は、山の観察眼も備わっていると考えます。雌阿寒岳を朝から登らずに回復を狙って登っているところは学ぶべきところです。普通、皆さん(馬鹿)正直に朝から登りますので、天気が回復したチャンスを捉えて一気に往復してしまうところなどは、正に山の厳しさをわきまえた正攻法でカッコいいと思います。
ですので、本コースの場合もけして無理をなさらずに縦走なさったものと推察いたします。
さて、お天気情報は難しいですね。私も先日ここの過去の天気データをいろいろと調べたのですが、ほとんど平地の天気予報で、標高のあるポイントの記録は、降水量の記録だけで、風向きの記録がないのです。
天気図を書いてみても、読み解くのが難しいですので、お書きのように携帯サイトを利用するのが宜しいようです。メインの記事の冒頭にあがっている家族5人のファミリーハイクのホームページにもしっかり携帯サイトの紹介がありました。
記事本文に掲示した天気図の真ん中が16日なのですが、低気圧は東海上に離れているように見えるので、これなら天気は回復傾向に向かうと平地なら予想できるのですが、山では違うのですね。
北海道の山は、平地と天気が違うといったことを低体温症の記事の医師の方が書いていらっしゃいましたが、なるほど違いますね。
何故違うのかは、swanslab 様ならお分かりかもしれません・・。天気図を読んで、さらに予想するのはやはり現地の山岳気象に通じた方でないと無理だと思います。
お書きの6時間遅らせるというのは、天候の回復狙いを意味しているのでしょう。天候回復を待って、天人峡方面へ下山が良いということですね。その場合、日没には間に合いそうもありませんから、ライトを使うことになりそうです。
遭難したツアーは、ヒサゴ沼避難小屋で、他のパーティがラジオを聞いていて、それから天気予報を知ったとかそんな情報があるのですが、とにかく、自分達で天気予報を確認したといった情報は今のところありません。情報収集の努力が足りなかったのかもしれません。
結局、ツアーガイドの力量不足による事故だったと考えます。もしbushi様ほどの腕の立つガイドでしたら、まず考えられなかったほどの低いレベルの原因による遭難です。
弱冠32歳では、正ガイドを果すのは難しかったのかもしれません。
※連絡手段の不備(衛星携帯電話も無線もなし)
※天候情報の収集の不備・・気象情報を収集した形跡なし。
※途中で引き返すこともなく強行
何で、このような融通の利かない登山をやってしまったのか?が謎です。
bushi様が実践なさっているような無理や無駄がない登山が理想だとつくづく思いました。
きっと、bushi様がこのツアーの脇にいたらあまりの体たらくに怒鳴りつけていたと思いますよ。
silvaplauna
August 4, 2009 um 11:40
雑感
戸田氏の文は、体験記としては読み応えがある一文であるが、事故原因を検証しようと言う視点に立つときは、ひとつの証言に過ぎない。
証言という点では、bushi氏の同じ時期に登山活動を行った報告と、その登山方法(ひとつの見本として)にも戸田氏の体験記に勝るとも劣らない価値があると考える。
ジャーナリスティックな視点ではなく、冷静な原因の解明と再発防止に立とうと思っている。
更に原因の解明というのも、よく切れるメスで、のべつ幕なしに細分化して分析すればよいというものではなく、時には鉈(ナタ)で大雑把に切るようなことも大切だと考える。
登山の見地から面白いといえるのは、アミューズ社の内部事情の暴露ではなく(そういうのは、三流スポーツ新聞が夕刊の記事ネタにすればよい)、天候予測の方法論であり、撤退の判断とその判断基準、メンバーの体力の予測とその判断基準である(更には、遭難した場合の判断基準と救援の呼び方などなどである)。
失敗から学べとは言うものの、アミューズ社の今回のツアーの場合は、あまりに初歩的なミスが多くて、学ぶべきことはむしろ少ない。
silvaplauna
August 4, 2009 um 3:18