虚実の化生〜ジェリーの群れ


<オープニング>


 夕暮れ時。学生が自宅へと帰る頃。
 夕日に反射して、光る何かがあった。
 プルプルと揺れる体。ゼリー状のという表現がしっくりくるだろう。
 そんなゼリー状のものがうごめいていた。
 こんなサイズのゼリー状の物体など、この世にあるはずはない。
 ゼリー状の生物らしきものはゆっくりゆっくりと移動を開始していた。

 カチカチとマウスをクリックする音が教室に響く。
「404ノットファウンド……接続できなくなったのは確かですのに」
 高篠・紗希(高校生運命予報士・bn0217)が溜め息をつく。やはり、能力者たちの情報通り。サーバーは破壊され、すでにないはずのディスティニーサーガ。だが、自分の見た予報にいた敵は―――ディスティニーサーガにいた虚構のはずのモンスター。
 ふと、入り口を見れば能力者たちの姿が見える。
「皆様、お集まりいただき有難う御座います」
 紗希は集まった能力者たちに一礼すると尋ねる。
「ディスティニーサーガのことはすでにご存知でしょうか?」
 能力者たちの手によってサーバーは破壊され、黒幕の目的であった『人造生命の創造』は阻止された。しかし計画自体の阻止には成功したが、プログラムだけは不完全に起動してしまった。
 その結果、ディスティニーサーガにいるはずのモンスターたちがけいはんな学園都市に跋扈しているというのだ。
「今回、私が予知したモンスターは、ジェリーです」
 ディスティニーサーガにおいて、RPGなどでよく出るゲル状物質の代表格モンスターに位置する相手である。
「そこまで強くない個体が多いですが、数がそれなりにいます」
 合計で十三体。ただし、強さは結構まちまちらしい。ボス級の個体も一匹ほど混じっている。中には強力な攻撃をぶつければ、一撃で倒せる程度の弱いものもいるのだがボス級はそれなりに強いので注意が必要だろう。
「攻撃手段は酸をはいてくる攻撃と、酸をばらまく攻撃、それにゼリー状の体で体当たりを仕掛けて体内に取り込もうとしてきます」
 酸の攻撃は遠距離攻撃の上にエンチャントしていれば毒になってしまい、体当たりは侵食の効果がある。
「場所は路地裏ですから、人に見つかる心配などはないでしょう。戦闘に集中していただいて構いません」
 人に見つかる心配はしなくていいとのこと。ただし、路地裏なので道はやや狭く横に並んで十分に戦おうとすれば、4人が限界だろう。
「それと、どういう訳かケルベロスも顕現しているようです」
 ファイナルクエストのラスボス、ケルベロスオメガ。それが基になったのだろうか。だが、このケルベロスだけは唯一完全な姿をしている。そして、不完全に出現したゴーストたちを攻撃しているようである。
「完全な味方とは思えませんけど……」
 戦闘が始まれば敵ゴーストへの攻撃を手伝ってくれるらしい。ただ、どういう立ち位置なのかは分からない。敵か味方か、それすらも不明。敵ゴーストを攻撃するとは言え、仲間割れのようなものだろう。
 敵ゴーストを倒した後のケルベロスに対する処置は能力者たちに任せる、と紗希は続けた。
 情報としてはこれが全てだ。
「虚構は虚構であるべきです。どうかこの幻想に終止符を」
 幻想の世界はそうであるからこそ夢がある。だが、もしそれが本当のことになってしまったら。
 それは、きっと。
 世界結界の崩壊と同じ世界になってしまうのかもしれない。

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参加者
風早・裕(地を薙ぐ風・b00009)
獅竜・瑠姫(スターメイガス・b00740)
神威・空(終焉を告げる黒龍・b02606)
灯神・漣弥(中学生黒燐蟲使い・b03209)
沢渡・沙希(黎明へ至る蒼き闇・b03474)
浅倉・郁(息抜きの合間に生きる者・b17286)
グローリア・シルバーマン(正義の味方・b52504)
遊馬崎・水葉(空色笑顔日和・b56288)



<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

風早・裕(地を薙ぐ風・b00009)
うぁー…さんざんゲームで倒した相手だが
まさか、この身をもって対峙することになるとはなぁ…
現実は小説よりも奇なり…とか、そんなんか?

【隊列】
路地裏へと入るのもこの並び

前衛:瑠姫・空・郁・ミヤモトさん(スカル)
後衛:漣弥・沙希・グローリア・水葉
最後尾:裕

【戦闘】
まずはジェリーの撃破だな
数が多いが、なんだかケルベロスも手伝ってくれるみたいだしな
連携とって戦いさえすれば…そう心配はいらないと思う

路地裏の狭さもあって並べる人数に制限もあるんだよな
敵の攻撃に毒や侵食なんて効果もあるし…
他の皆に攻撃を任せて俺は浄化の風で、後ろから皆の戦いを支えるとしよう

前衛で戦うメンバーも浄化の風の射程に収めることができる程度の距離に位置する

一応初手で旋剣の構えで強化

以降は、BS受けた仲間をすぐに回復するために浄化の風使用を中心に戦闘

離れてるし届かないかもしれないが
回復の手が空いていて、敵に届くようならダークハンドでの攻撃も行おう
ただし、この時点ではケルベロスは狙わない

【対ケルベロス】
ジェリーが残り1,2体になれば、ケルベロスにも対応
ゴースト…ではあるが、なにやら毛色が違うしなぁ
ここで仕留めるよりは、学園にお持ち帰りしときたい
そのつもりなので、事前に学園側に搬送を頼んでおこう

水葉のパラライズファンガスでマヒさせたところを確保
動けないところを鎖など使って拘束
捕獲後、学園側に連絡して学園へと連れ帰ってもらおうか

獅竜・瑠姫(スターメイガス・b00740)
ジェリー、モンスター、冒険ファンタジー…!
こういう世界に入って戦うのって、夢があって素敵っ♪
…でも。
現実のこの世界では、モンスターが存在するにふさわしくないのです。
夢は夢のまま、ファンタジーの世界にだけ居てください…!

先ずは魔弾の射手で自己強化。
「弱いからといって手は抜きません! 全力で行きます!」
仲間の範囲攻撃で弱いジェリーから倒してもらい、
残った強めのジェリーに的をあて、間合いを詰めて
一気にクレセントファングで蹴飛ばしていきます。

ジェリーが向かってくるなら、陣形を崩さずその場から攻撃。
後方支援の手を休めないよう、ジェリーを進ませないためです。
もし陣形が崩れた場合、手の届かない所にジェリーが行ったら
炎の魔弾に切り替えます。
「そこ、動いちゃ駄目ですっ!」

ケルベロスは、ジェリーを殲滅するまで攻撃せず、
ジェリー退治に貢献してもらいます。
どのタイミングでも、万が一ケルベロスが能力者側に敵意を向けたら
迷いなく攻撃対象とし、倒してしまいます。

魔弾の射手は、最初の自己強化のみに使用し、
負傷したら仲間の回復手に支援してもらいます。
もし回復が間に合わない場合は使用します。

戦闘後、ケルベロスが敵意を見せないようなら学園に連れ帰ることに。
捕縛して学園に搬送をお願いします。
ゴーストとは違いますし、仲間には難しいかもしれませんけど…
もし、使役ゴーストと同じように私達を助けてくれる存在ならば、
いいですよね。

神威・空(終焉を告げる黒龍・b02606)
他人に見つかる心配がないのなら、存分にやらせてもらうとしよう。俺の位置は前衛、他の前衛メンバーに合わせて攻撃する。
敵の数は多い……ここは一体ずつ確実に仕留めていくとしよう。俺は他のメンバーが攻撃を仕掛けたジェリーを見て、まだ倒し切れてないジェリーがいたらそいつに『獣撃拳改』でトドメを刺していく。大抵の敵は他の奴らが一撃で倒すだろうが、念には念を入れておこう。
場所が路地裏なだけに周囲には注意しておく。他のメンバーとぶつかって動きが阻害されるなんて事がないようにな。
ボス級の敵が見つかったら他の奴に伝え、周りのジェリーを全て片付けてから最後にボスへ。受けた傷を『森羅呼吸法』で回復させ、上がった気魄で『獣撃拳改』を叩き込む。

ケルベロスの方はこちらからは攻撃しない。だが、向こうがこちらに攻撃を仕掛けて来るようなら応戦する。ジェリーを全て片付けた後も一度距離を取り、ケルベロスの動きを見る。
こちらに攻撃をして来るなら反撃するが、仕掛けて来ないようなら他の者に任せる。

灯神・漣弥(中学生黒燐蟲使い・b03209)
・戦闘
前後衛に分かれ戦闘。私は後衛
自己強化より初手から弱いの狙いの暴走黒燐弾奥義で数減らし
(この戦闘、実は嬉しくもありますね)とは心の声
何せ某不可抗力によりMMO参加できませんでしたからね
このストレスの捌け口に丁度いい相手です
強いジェリー2〜3体になったら旋剣の構えで強敵に備える
黒燐奏甲は仲間から気攻UP貰えない時と他者の緊急回復用
ケルベロスベビー(以下、B)への攻撃はジェリー全滅まで控える
(仲間が"マヒ"等拘束を狙うのはOK)

・B対策
捕獲したいが手法が微妙
"HP0で消えるので瀕死程度でいい"のならそれを狙うが、
"HP0しか無力化と言えず、HP0にするとゴーストなので消える"場合、
限界まで弱らせ"マヒ"での捕獲を狙う
可能ならその上で説得(マインドトーク)等も試みられる……予定?
(私は説得者ではなく、いざという時に説得者を庇える位置に控ええます)
これだけの人数なら2〜3回の攻撃程度大丈夫でしょう
これで駄目なら石化させて石像を持ち帰るしかなく、
私達では"Bを強化させて退魔呪言突き"しか手がありません
一応黒燐奏甲等を試しますが、Bが受け取らない場合はどうしようもないですね

捕獲成功の場合、運搬は"中まで運転可能なものが車で"か"学園に任せる"
Bを包めるシートや拘束用の鎖等を用意しておく

失敗したら倒すしかないですね
「やりにくいのでしたら私が……」
まあ、汚い仕事とやらには慣れているつもりです
Lv差を考えれば通常攻撃でも十分戦えるでしょう

沢渡・沙希(黎明へ至る蒼き闇・b03474)
さーて!ゲームの後始末、いってみますか!

しかしジェリーってつまりスライム…うーん、ビジュアル的には微妙だ…あんまり燃える敵じゃあないわな。

で、ケルベロスはライオン大の方なのか、それとも噂に聞くちっこいベビーなのかどっちだ。…あんまり期待しない方がいいかなあ。


・戦闘
接触後、後衛へ。ええい、狭ささえなければあたしだって前に出るものを。後ろは性に合わないー!
旋剣の構えで攻撃力を上げつつ、ジェリーに暴走黒燐弾を叩き込む。まずはとにかく数を減らさないと。散れーい!
黒燐弾使い切った、あるいは残り三体以下になったらダークハンドに切り替え。威力高くても命中に不安あるからね。
黒燐弾は他の皆の範囲攻撃と範囲合わせて、なるべく早く潰してく。
ボスは…なるべく雑魚の方から減らしたいし、雑魚まだ複数残ってたらそっちを先に殲滅。
遠距離攻撃なエンチャント毒っつーのがなんとも嫌だけど…さっさと数減らせばそんなに被害ないでしょ。猛毒じゃないみたいだし、裕の浄化の風もあるし。頼んだぜ。
ダメージはたまったら随時旋剣で回復。でもジェリーが半分以上残ってるときは攻撃優先。回復の暇が惜しい。


・ケルベロス
戦闘中は手を出さない。黒燐弾に巻き込まない。
襲ってこられたら適当に迎撃はするけど…なるべく倒したくないなあ。
なるべくガード、どうしようもないなら攻撃。
拘束とかそっちはできる人に任せる。



・補足
呼びかけは全員名前呼び捨て。

浅倉・郁(息抜きの合間に生きる者・b17286)
ゲームで散々倒してきたジェリーが現実にまで出てくるとは…
…ばれる前に倒して、無かった事にしてしまおう
いろんな平和を守るために

・行動
可能なら車を用意して行くよ
現場へ急いで行って、イグニッションして突撃
ジェリーの群れに突っ込んで、できるだけ大勢を巻き込めるようにして暴れ独楽で攻撃
くるくるくる〜っと♪
回復は基本的に後衛任せ
…射手だと酸攻撃がちょっと怖いし、わたしの役目は独楽での数減らしということで
ちょっと痛いけど、がまんがまん
防具HP抜かれることがあったら魔弾の射手で回復するよ

ケルベロスさんには基本的には攻撃しない方向で行くよ
間違って噛まれても、がまんするよ
ケルベロスさんがジェリーから集中攻撃受けてるみたいなら
攻撃しているジェリーの中で強そうなものを狙ってオトリ弾で注意を引いてみる
こっち、こっち注目〜

・その後
無事にジェリーたちを倒せたら、ケルベロスさんを…どうにかしないといけないんだよね
とりあえずは、にっこり笑って話しかけてみるよ
ここであったのも何かの縁、一緒に学園へ来る気は無いかな?
きっと楽しいよ♪
…多分言葉は通じないだろうけど、敵意が無いことが伝わるといいな〜

駄目なら、麻痺したところを縛って連れ帰る
とりあえず、車に積み込んで学園へお持ち帰りしたいところだけど…できるんだろうか?

グローリア・シルバーマン(正義の味方・b52504)
【心情】
(ん〜?ケルベロス、何とか無事に保護したいんやけど…
多少強引でも捕まえられるようにがんばろ!)

【隊列】
前衛:獅竜さん、神威さん、浅倉さん、ミヤモトさん(うちの使役G)
後衛:沢渡さん、漣弥君、遊馬崎さん、うち(グローリア)
最後尾:風早さん
最後尾以外は4人横並びの感じです

【戦闘】
後衛にて行動。
パラノイアペーパー改中心で遠距離攻撃
(ペーパー範囲にケルベロス巻き込まないように気をつけます)
アビ切れの時は詠唱眼鏡での射撃攻撃になります

【使役G】
名前はミヤモトさん。
戦闘では前衛で行動してもらい「連続斬奥義」を中心に近接攻撃
「祈りを捧げる」は基本的にアンチヒールのBS直しでは
使わない方向で
(ただしうち自身のHPが半分切るような場合は使ってアンチヒール解除→その後回復をしてもらいます)

【ケルベロス】
ジェリーを残り2体くらいまで倒すまでは基本スルー。
残り2体くらいになったら遊馬崎さんに麻痺アビ使ってもらい
鎖で縛って捕縛の流れに
保護できた場合には学園サイドで運送してもらう様に
予め手配しておきます
(流石に個人で運ぶのは目立ちすぎるので…?)

【呼び方等】
同い年以上(男女とも):苗字+さん
小学生(男子):名前+君、(女子):名前+ちゃん
口調は関西弁(偽者)「〜や!」「〜なん?」等つけてしゃべります

【持参する物】
鎖(非詠唱兵器):ケルベロス捕縛用に使用
戦闘開始前に近場に置いておきます
すぐに取れる位置に配置

遊馬崎・水葉(空色笑顔日和・b56288)
【心情】
いやー、ゲームが現実になるって怖いね!
リアルなジェリーとかあんま見たくなかったけどお仕事じゃー仕方ないね…!

【戦闘】
ジェリーは数が多いから、範囲攻撃を使える人は使って、まとめて削る!
あたしも地獄の叫び改で微力ながら削りを入れるよー。

「さー、ジェリー掃除をはじめよー!」

範囲攻撃を使う人は、ケルベロスをなるべく巻き込まないように注意する!
こっちはケルベロスには敵意はないからね、警戒されないようにしないと。

もしジェリーの中にボス格のがいたら、パラライズで超マヒさせてみるけど、やるのは最大で2回まで。
残りはケルベロス用にとっておかないといけないからね。

「まったく、現実世界にまで来るなんて信じられないね!」

【ケルベロスの対応】
残りジェリーが1匹か2匹になったところで、パラライズファンガス改をケルベロスに向かって使用。
学園に連れて帰りたいけどこのままじゃちょっと危ないかなってね。

「敵意はないんだけど、ごめんね?」

超マヒ状態になったら念のため縛っておいて、搬送は学園側にお任せする形に。
なんだかとっても申し訳ない気持ちだけど・・!
言葉が通じるかわからないけど、帰り際に話しかけてから帰ろうっ。

「ちょっと手荒なことしちゃったけど、あたし達は敵じゃないからね?今度は学園で会えるといいね!」




<リプレイ>

 沈み行く太陽が、学び舎を朱に染める。
 逢魔時。
 そのときには、化け物たちが暮れていく時を今か今かと待っているのだろう。
 まだ一般人からは完全に気付かれてはいないが、この付近には多くのゴーストたちが潜んでいる。
「それにしても」
 空を仰ぎ、神威・空(終焉を告げる黒龍・b02606)が大仰に溜め息をつく。
 相手はただのゴーストでない。
「さんざんゲームで倒した相手だがまさか、この身をもって対峙することになるとはなぁ」
「ジェリーが現実にまで出てくるとは、ねぇ」
 風早・裕(地を薙ぐ風・b00009)と浅倉・郁(息抜きの合間に生きる者・b17286)の言葉が夕暮れの世界に響く。
 そう、今回の相手は、ディスティニーサーガにいたジェリーたち。
「リアルなジェリーとかあんま見たくなかったけど」
 遊馬崎・水葉(空色笑顔日和・b56288)が、敵の感想を述べる。
 リアルなジェリーを想像してみる。デフォルメされた姿なのか、それとも現実に即した姿なのか。前者はまだしも、後者は何かいやだ。
「うーん、ジェリーか。ビジュアル的には微妙だ……あんまり燃える敵じゃあないわな」
「そうかなぁ? モンスター、冒険ファンタジー、こういう世界に入って戦うのって、夢があって素敵だと思うんだけど」
 沢渡・沙希(黎明へ至る蒼き闇・b03474)があまり気乗りしない声で言うが、獅竜・瑠姫(スターメイガス・b00740)はちょっと楽しそうな声で言う。
「でもさ、冒険とかっていったら、やっぱり竜とかだろ?」
「それは、そうですけどぉ」
 よりにもよってジェリーなのである。底辺級のモンスターなのである。
 とは言え、ゴーストには変わりない。気を抜けば即座にやられかねない事は分かっている。
「それに毛色の違うゴーストもいるみたいですし」
「ん〜? ケルベロス、何とか無事に保護したいんやけど」
 裕が考えるように呟くと、グローリア・シルバーマン(正義の味方・b52504)が己の想いを告げる。
 いや、全員の考えはそこに向いていた。
「とにかくゲームの後始末、いってみますか!」
「そうですね、ふふ、参加できなかった恨みを晴らすには……いえいえ、しっかりと倒しに行きましょう」
 沙希の気合の入った言葉の後ろで、灯神・漣弥(中学生黒燐蟲使い・b03209)のどこか恨みのこもった黒い笑顔を見せていた。

 歩くこと数分。予報されていた地点に近づいてきた。
 ふと、何か低い音が聞こえてくる。
「この声、ケルベロス……!?」
 瑠姫が唸り声のような声に気付いた。
「早く行こっ!」
 水葉もそれに気付き駆け出す。
 全員、路地裏へと入る。曲がり角を一つ超えると、右手に異世界のものが見えた。
「って、うぉっ、でかっ!」
 沙希がその姿を見て驚く。そこには、ライオンほどの大きさの獣が体勢を低くし、唸り声を上げていた。
 きっと、これがケルベロスなのだろう。小さい個体もいるという噂も聞いていたが、目の前にいるのは予想よりも大きかった。
「あ、ジェリー」
 奥の方でぷるぷると体を震わせている物体。全身を使ってケルベロスに対して威嚇しているのだろうか。しかし、迫力はまったくない。
 ただ、その情景はまるでゲームのワンシーンを切り出したかのよう。
 体勢を低くしていたケルベロスの上体が跳ね、ジェリーへと飛びかかる。
 それが合図のように弾けた。
 真っ先に駆け出したのは瑠姫。同時に、同じく前衛を担当する空と郁、グローリアのスカルロードであるミヤモトさんが動いていた。
 四人で横一列に並び、ジェリーたちの相手をする予定だったがケルベロスもいるため、全員が並ぶにはやや狭い。
 前衛の中で唯一、遠距離から攻撃する手段を持っていた瑠姫が中衛に代わり、魔弾の射手で自分の魔力をめぐらせる。
「ええい、狭ささえなければあたしだって前に出るものを。後ろは性に合わないー!」
 後方では旋剣の構えを取りながら叫ぶ。同じく漣弥、裕も自己を強化していた。
 前に出たミヤモトさんの大鎌がジェリー目掛けて振り下ろされる。一閃した直後に、はらはらと紙が舞い、ジェリーたちを切り裂いていく。グローリアのパラノイアペーパーだった。
「さー、ジェリー掃除をはじめよー!」
 ジェリーたちの前に立ち塞がる三人の後ろから、水葉の叫び声が響いた。
 流れるような動きでジェリーの目の前まで郁は近づく。
「くるくるくる〜っと♪」
 槍を構え、その場で高速回転しジェリーたちを切り刻んだ。目の前の三体からゼラチン質の飛沫が飛ぶ。
 空が一撃を繰り出す直前、体を震わせていただけのジェリーが突然に体当たりを仕掛けてきた。
 だが、その動きは遅い。
「ふんっ!」
 半身になって避けると、その拳へ獣の闘気を纏わせて、そのまま叩き付けた。
 一撃で砕け散るジェリー。手応えはほとんどない。そこまで強い個体ではなかったのだろう。
「キャッ!?」
「うわっ!」
 だが、後方で叫び声が上がる。後ろにいた九体のジェリーたちが一斉に、沙希と瑠姫、漣弥に目掛けて酸を吐きつけていた。強化していたために、身体中へと毒が一気に回る。
「くっ、この……! 全力で行きます!」
 毒に身を蝕まれつつも、瑠姫が強化した魔力で炎を模らせ叩き付ける。
 煉獄のごとき炎は一体を一瞬の内に焼き尽くし蒸発させていた。
「う、ぐぅっ……」
 沙希と漣弥の体にも毒が回る。何体からもの集中攻撃を受けたため、毒の量も多い。攻撃よりも回復に手を回さなければいけないほどだ。
「大丈夫か!? 今、治す!」
 裕の浄化の風が二人の毒を一気に癒す。
「すまん、助かる」
「有難う御座います……」
 礼を言いながら安堵の息を漏らした。
 いくらなんでも何回分もの毒を浴びてしまえば危険すぎる。
 さらに、どうやら奥にいる個体の方が総じて強いようである。
(「強化は不味かったかもしれないな」)
 苦虫を噛み潰したかのような顔で、裕はそう考える。
 後方で控えていたためか自分は対象にされなかった。だが、攻撃のため完全に射程内にいる仲間はその危険に晒される。
「うーん、どいつが強いんだろう?」
 水葉は、もっとも強いジェリーを麻痺させようかとも考えた。そうすれば、格段に有利になる。だが、見た目での判別は分からない。奥にいる何匹かの内の一体がそれであることは分かっているのだが。
「ま、いっか」
 それよりも数を減らすことの方が先決と、再び地獄の叫びでジェリーたちに傷を与えていく。
(「はよケルベロスを何とかしたいんやけど」)
 グローリアがケルベロスの様子を見る。一体のジェリーへ素早くその爪を振るっている。
(「んにゃ、とにかくジェリーを倒さんと」)
 想いを込めたパラノイアペーパーがジェリーたちを蹂躙する。前に出ていた三体とずっと回避できていなかった奥の一体が消え去る。
 そこにこじ開けられた穴へ郁が飛び込み、槍の猛威を叩き込む。
 だが、ジェリーたちも黙っていない。今度は残った六体が一斉に周囲へ酸をばら撒いた。
 その範囲に入っている強化していた瑠姫、漣弥、沙希の三人が毒を浴びる。一撃にそこまで威力はないが、大量の毒が体を蝕んでいく。瑠姫もさすがに今回は攻撃どころではなかった。
 裕の浄化の風がなければ、かなり危ない戦いになっていたかもしれない。だが、浄化の風によって毒は清められていく。
 とは言え、攻撃の手は確実に緩まない。幾度かの攻防で次第に数を減らしていくジェリーたち。
 沙希のダークハンドが残った三体のうち、一体を真っ二つに引き裂いた。
 残るは二匹。
 頃合いか。
 水葉がケルベロスへ向けて、パラライズファンガスを放つ。
 咄嗟の一撃な上に、背中を見せていた相手から攻撃されたためケルベロスは体を引きつらせ、その動きを止める。
「敵意はないんだけど、ごめんね?」
 麻痺したケルベロス。このまま鎖で縛れば。
 だが。
『グルルルルルル!』
 二巻きした頃に、ケルベロスの麻痺が解けて襲い掛かってくる。
「キャァッ」
 相手に戦闘の意思がある限り、麻痺は治る可能性がある。
 最悪、麻痺させても数秒と経たない内に回復してしまう。
 何が正攻法だったか。それは、戦意を削ぐことだったのだろう。
 そうでもしない限りは、状態異常など回復されてしまう。
 すでにケルベロスはこちらへと敵意を剥き出しにしている。
 しかもジェリーたちも二匹ほど残っている。厄介なことに割と強い個体だけだ。範囲攻撃を繰り返していたため、その状況は必然的だ。
 吐き出した酸で、瑠姫と沙希が毒に侵される。
 ケルベロスも水葉へと飛び掛ってくる。とっさに避けたが、状況は良くない。
「ああ、どうしよう……」
 予定とは違うケルベロスの動きに郁が少し混乱する。その隙を逃すまいとジェリーが郁へ酸の塊をぶつけようと身構えていた。
 だが、そこへ空の龍尾脚がジェリーを抉った。耐え切らずに霧散するジェリー。
「ジェリーは俺が引き受ける。ケルベロスのことは任せた」
 後ろを向いたまま、空が言う。そのまま残ったジェリーへ向けて駆け出した。
 その言葉に郁が決意の眼差しを向けて頷く。
 一歩前へ。
 水葉が再びパラライズファンガスでケルベロスを狙う。
「もう一度……!」
「待って」
 攻撃の手を制止して、郁がケルベロスの目の前に立つ。
 そのまま笑顔で話しかける。
「ここであったのも何かの縁、一緒に学園へ来る気は無いかな?」
『グルルルルル……ガァッ!』
「うっ……!」
 ケルベロスが郁の肩に噛み付く。じわりと服に鮮血が滲む。
 それでも、退かない。
「きっと、楽しいよ。だから」
 そっと頭を撫でる。
 敵意を与えないように。それだけを考えて。
 そんな郁に敵わないと悟ったのか、次第に顎の力が緩まっていく。
 顎を離すとそのまま振り返り、その場から退こうとする。
「あ、待って……」
 近づこうとするが、拒絶するように唸り声を上げる。
 郁に対する敵意はないようだが、どうやら不信感までは拭えなかったらしい。
 特に周囲が近づこうとすれば、威嚇してくる。連れて帰るなど不可能に近い。
 わずかな逡巡。
 相手はゴースト。放っておけば、どうなるか。
 答えは分かっている。分かっているが、動くに動けない。
 その答えを真っ先に出したのは瑠姫と漣弥だった。
「ゴーストは放っておけないから」
「やりにくいのでしたら私が……」
 夕日の朱と炎の紅が混じり、長剣がその赤を反射し光った。

「終わったか?」
 最後に残ったジェリーを片付けた空が振り返る。さすがに強い個体を一人で相手するのは骨が折れたが、全員の攻撃を受けていたため何とか倒すことができた。
「うん……」
 郁が悲しそうに呟く。自分の想いが届かなかったことが少しだけ寂しかった。
「うーん、学園につれて帰りたかったんやけど」
 グローリアがゴーストたちのいた空間を見続ける。そこにはジェリーもケルベロスの姿もない。
 虚実の化生たちは幻想にすべて帰っていた。
「何か後味悪ぃな……」
 沙希が呟く。
 だが、彼らの手によって平穏が訪れたことだけは確実で。
 夕日は穏やかに学研都市を照らしていた。


マスター:屍衰 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知 的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/08/02
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冒険結果:成功!
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死亡者:なし
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