社会保険庁は2008年度の国民年金保険料の納付率が07年度より1・8ポイント低下し、過去最低の62・1%と3年連続で低下したと発表した。
所得が低いため納付の全額免除や猶予を受けている人を除外せずに計算した実質納付率は45・6%となり、3年連続で50%割れした。このままでは低年金・無年金者の増加につながる恐れが濃厚だ。年金制度は危機的状況にある。
社保庁は納付率低下について不況の深刻化を指摘している。失業した人が企業の厚生年金から国民年金に移行したものの、生活費を確保するため保険料を払えない加入者が続出したことが一因という。年金記録問題も重なり、徴収現場に十分な人手を割けなかったことも押し下げる要因となった。
納付率は1986年の基礎年金制度導入以降、91、92年度の85・7%をピークに低下。保険料の徴収業務が市町村から社保庁に移行した02年度には62・8%にまで落ち込んだ。その後、やや持ち直したものの再び低下。07年度に80%にする目標が設定されたが、低下を食い止めることはできなかった。
社保庁は09年度、納付率を08年度より4ポイント以上引き上げ66・1%以上を目指すと表明した。80%の目標を取り下げてはいないが、実質的には下方修正だ。
政府が2月に明らかにした年金財政の試算では、将来の厚生年金の給付水準は「現役世代の収入の50・1%を維持できる」としていたが、これは国民年金保険料の納付率が80%で維持されるのが前提となっている。納付率を65%に置き換えた試算では、給付水準は49%に落ち込むことも明らかにした。低下が続けば給付水準の維持は難しく、国民の年金不信はますます深まることになろう。
先の国会で、厚生年金と共済年金の保険料率統一などが盛り込まれた「被用者年金一元化関連法案」が廃案になった。官民格差の是正などが盛り込まれた意欲的な内容だったが、与野党が党利党略に終始した結果ともいえる。
次期衆院選で年金問題が重要な争点となるのは間違いない。自民党のマニフェスト(政権公約)では3年以内をめどに無年金・低年金対策を講じることなど盛り込んだ。民主党は年金を一元化し、全額を消費税で賄う月額7万円の最低保障年金を実現させるとしている。
国民が信頼し持続可能な年金制度とするために与野党を超えて建設的な議論を深めたい。
雇用情勢の悪化が止まらない。6月の完全失業率が前月より0・2ポイント悪化の5・4%となった。5カ月連続の上昇で、2003年に記録した過去最悪の5・5%突破が濃厚だ。
有効求人倍率も前月より0・01ポイント低下の0・43倍で、2カ月連続で過去最低を更新した。完全失業者数は前年同月比83万人増の348万人で、増加幅は過去最大となる。雇用者数も110万人減の5455万人で、減少幅はこれまでで最大である。厚生労働省は早期の改善は望めないとの見方を示した。
失業率悪化の原因は製造業で進む雇用削減にある。6月の全産業の雇用者数は前年同月より110万人減ったが、このうち製造業で88万人も減少した。世界同時不況の直撃で急激な輸出の減少に見舞われた企業が大幅減産に踏み切り労働者の削減を進めたからだ。
在庫調整も落ち着きを取り戻し、やっと輸出や生産に回復の兆しが出てくるようになった。しかし、雇用の改善までには半年から1年程度かかるとされ、完全失業率は来年初めごろには6%台まで悪化すると予測するエコノミストもいる。
今回の不況で、非正規労働者が派遣切りや雇い止めなど雇用の調整弁として使われた。企業も新卒採用の縮小など雇用抑制の構えを崩していない。雇用が悪化すれば消費を冷やし、景気回復を遅らせる可能性もある。慎重な対応を求めたい。
今月末の総選挙後に発足する新政権は雇用情勢の改善という課題を担う。各党が打ち出す政策が注目される。新たな雇用の受け皿となる産業の育成、非正規労働者の保護や雇用の安全網の強化などが焦点だ。国民が安心して働くことができる仕組みをどう構築するか。与野党は政策を競い合ってほしい。
(2009年8月3日掲載)