裁判員裁判・法廷詳報(3)【書証調べ】 午後2時50分、秋葉裁判長が「それでは再開します」と宣言し、現場の状況や凶器などを確認する「書証の取り調べ」が始まった。 女性検察官が手元のパソコンをリモコンで操作。廷内の2台のモニターを使い、説明を始めた。 最初に示されたのは現場の地図。「被害者の家が黄色、被告人の家が水色です。路地を挟んで斜め向かいの関係です」。裁判員は手元のモニターをじっと見つめた。藤井被告は身をかがめ、うつむいたままだった。 モニターに写真が映し出され、検察官が「赤い丸の所に血痕が残されていました」と話すと、白のブラウスを着た女性裁判員がまゆをひそめた。路上に残された多量の血痕の写真に、唇をかみしめたり、目をそらしたりする裁判員も。男性裁判員だけがモニターに顔を近づけた。 検察官はテンポよく説明を続ける。「次は殺害に使われた凶器の発見状況と、凶器を計測したものです」。家具の位置まで詳細に描かれた被告宅の見取り図が示される。「凶器のサバイバルナイフは被告の家から発見されました。この赤丸の所です。自宅からは血の付いたティッシュも発見されました」 スポーツ新聞の上に置かれた凶器とされるナイフの写真が示されると、複数の裁判員は再びつらそうな表情を見せた。 サバイバルナイフの概要に入ると、裁判員はナイフの図が示された目の前のモニターを食い入るように見つめた。「今からナイフの実物をお見せします」と検察官。右手に手袋を着けて紙袋からナイフを取り出して掲げた。裁判員の表情に変化はうかがえなかった。 藤井被告は終始うつむき加減で表情は見えず、様子をうかがうしぐさをする裁判員もいた。 続いて、刃物で切られた被害者の赤いシャツの写真がモニターに映され、女性裁判員は、驚いたように軽く首を振った。血まみれのキャミソールや下着の写真も示され、別の女性裁判員は目を背けた。男性裁判員はモニターを見ながら、冷静にメモを取っていた。 検察官は死因を説明する際「少し難しい言葉ですが」「後からイラストで分かりやすく説明します」と補った。 刃物で刺された部分を詳しく説明するため、コンピューターグラフィックス(CG)画像で、被害女性を模した人間の姿が映し出された。生々しい写真では裁判員にショックを与えると考えた裁判関係者からの依頼で、東大法医学教室が作成したが、それでもまゆをひそめる裁判員もいた。 体の内部を表したCGで検察官は「左胸に刺さったナイフの先端が、心臓から肺動脈に刺さっている」と説明した。 背中の透視図、左胸、左肩、左腕の傷の長さや深さが次々とCGで示されるが、裁判員の表情に変わった様子はない。 傷の様子を語り終えると、検察官は一呼吸置いた。「これから遺体の写真をモニターに映します。遺体ですから、大きなモニターは切っていただけますか」 困惑の表情を浮かべる裁判員もいる中、法廷のモニターが暗くなった。「ショックで、ご覧になりたくない方がいるかもしれません。でも、重要な証拠なので見ていただきたいと検察官は考えています」。語りかけるような落ち着いた口調だ。 裁判員の目の前にある小さなモニターに、遺体の写真が映し出されたようだ。上目遣いでおっかなびっくりの表情を浮かべたり、横目でモニターを見やったりしていた。 「本日検察官が提出する証拠は以上です」。最後まではっきりした口調を続けた女性検察官。廷内の掛時計に目をやり、一瞬ほっとしたような表情を浮かべて席に着いた。証拠書類は裁判官に手渡された。裁判員の表情は少し緩んだようだった。 午後3時15分すぎ、間をおかず弁護側の証拠調べに移る。 法廷のモニターに再び電源が入り、弁護人が立ち上がる。現場の写真がモニターに示された。 狭い路地をさまざまな角度から撮った写真が次々と映し出される。被告宅の庭には猫よけ用のペットボトルが数本立てられ、被害者宅前の道路にはバイクや植木がある。 弁護人が写真に振られた番号に沿って「11番は空き地に止められた被害者の屋根付きスクーターです」「12番も同じ」「13番は…」。13枚目の最後の写真を示し、「以上でございます」と締めくくると、手元のモニターに集中していた裁判員は肩の力が抜けたようだった。 書証調べは予定より約30分早く終了。裁判長と書記官が小声で打ち合わせをしている間、女性裁判員は横目で見やり、話の内容を気にする様子。 「検察官、証人は早く来ることは可能ですか」と裁判長。「16時から再開が可能かどうかですが。1時間の予定でしたが、かなり早く終わったので」。女性検察官が「早めには来ています」と応じた。「16時まで休廷します。まずは裁判員から」。午後3時23分、裁判長が2回目の休廷を宣言、ほっとした様子の裁判員らが順次立ち上がり、法廷を後にした。 【共同通信】 |
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