裁判員裁判・法廷詳報(1)東京地裁で3日開かれた初の裁判員裁判の法廷詳報は次の通り。 【入廷】 東京地裁で最も大きい104号法廷。98の傍聴席は満席。 午後1時20分、抽選で選ばれた傍聴人と報道陣が入る。既に一段高い円弧状の法壇に黒い法服姿の裁判官3人が着席。向かって左側に検察官4人と遺族ら2人、右側に弁護士2人が座っている。裁判官席の両側に3席ずつある裁判員席は空いたままで、報道機関の代表が廷内撮影。裁判員法は「個人を特定するに足りる情報は公にしてはならない」と定めている。 撮影後、法廷の左右両側の壁に据えられた大きなモニターのスイッチが入る。 手錠をかけられ、刑務官に腰縄を引かれた藤井勝吉被告が法廷に現れた。東京地裁では、これまで弁護人席の前の長いすに被告が座ることが多かったが、藤井被告は弁護人の隣に着席。襟付きのシャツに黒っぽいズボン、足元は革靴のように見えるサンダル。 秋葉康弘裁判長が「解錠していただいて」と促すと、刑務官が被告の手錠を外す。 秋葉裁判長の両隣の裁判官2人がいったん法壇後ろの出入り口から退廷。再び現れた裁判官に続き、裁判員6人が連なって入廷し、左右に分かれ着席。女性5人、男性1人。シャツやカーディガン姿で色は白、黒、グレーが目立つ。続いて男性3人の補充裁判員は裁判員席の後ろの席に座った。 裁判員6人は、ちらちらと藤井被告の顔を見る。いずれも表情は硬い。 【開廷】 1時29分、「開廷します」と秋葉裁判長。「前にきてもらってもいいかな」と藤井被告を促す。被告は法廷中央の証言台の前に立った。 被告の氏名と生年月日を裁判長が読み上げて確認した後、検察官が起訴状を朗読。「起訴状の内容について間違いはありませんか」と裁判長に尋ねられた藤井被告は「間違いございません」と一言で応じた。声ははっきりとしている。弁護人も「被告人と同様でございます」と答えた。 女性の裁判員の1人は、被告の顔と手元の書類を見比べながら、やりとりを見ていた。 【検察側冒頭陳述】 検察官のうち1人が起立し、持ち込んだ譜面台に冒頭陳述をとじたファイルを置いた。傍聴席に背を向け、裁判員に一礼。「検察官がどのような証拠に基づき、どのような事実を証明したいかをお話しします」。左右のモニターには「冒頭陳述」の大きな文字が映った。 被告と被害者との関係、2人の自宅の位置や周囲の地図などをモニターに次々に表示しながら、事件の概要を説明。 「被告は被害者を刺して追いかけるまでの間『ぶっ殺す』と数回言いました」。すべて口語体。裁判官の左側に座った女性の裁判員3人は、配られた書面にずっと目を落としていたが、右側の女性2人、男性1人は、手元に置かれたディスプレーと書面と見比べて聞き入った。 検察官は次に被害者の死亡状況に言及。死因の出血性ショックについて「急激な出血により血圧や体温が下がり、意識障害を起こすものです」と丁寧に説明した。裁判員は手元のモニターを、しっかりと見ていた。 続いて「殺意は強いものから弱いものまで濃淡のある概念です」と前置き。モニターに検察側と弁護側の主張をピンクと緑に色分けした表を映した。 「検察側は死に至らしめるかも知れないと認識していたと主張します。弁護側は検察官より『弱い殺意』を主張しています」と、双方の見解を説明。これまでの裁判では「確定的殺意」や「未必的殺意」といった用語を使っていた。 上半身に集中するけが、被害者が身を守ろうとした際にできた傷、ナイフをまっすぐ手加減せずに刺した犯行の様子―検察官は殺意を裏付ける点を挙げるたびに、裁判員の顔に目をやった。 「犯行時の言動については主張に争いがあります」と検察官。(1)被告が被害者に「ぶっ殺す」と数回言った(2)逃げる被害者を追い掛けた―について目撃者を証人尋問すると表明。さらに「双方の主張を繰り返します」と殺意の強弱について再度話した。 「立証事実と証拠」と書かれた画面がモニターに映し出されると、検察官は死亡状況や殺害動機を、どのような証拠に基づいて立証するか説明。女性裁判員の一人は首を傾けながら、モニターを見入った。 検察官が再度「犯行時の言動には争いがあります」と言うと、裁判員は言葉の意味を確かめるように検察官を見詰めた。 検察官は「最後に刑を決めるにあたって考慮していただきたい情状についてです」と話し、犯行が執拗で残忍で、動機が短絡的で酌量の余地がないと強調。裁判員は表情を変えず、モニターを見続けた。 「以上で冒頭陳述を終えます。ありがとうございました」。検察官は裁判員席に向かい、一礼。検察側の冒頭陳述は約20分だった。 【共同通信】 |
関連記事を取得中...
|
ソーシャルブックマークへ投稿: (ソーシャルブックマークとは)