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     【証人Aの尋問】

     午後4時、裁判長が「再開します。証人は前に出てください」と宣言し、現場近くに住む若い女性の証人尋問が始まった。

     女性は白いTシャツ姿。「良心に従い…」と宣誓後、女性検察官が「5月1日昼ごろの殺人事件について、見聞きしたことを聞きます」と質問を始めた。

     検察官「変わったことは」

     証人「けんかするような声が聞こえました」

     検察官「聞こえたのはどんな声でしたか」

     証人「女の人の声で『なんとかでしょ』という声と、男の人の声で『ぶっ殺す』という声でした」

     検察側の尋問の意図は、被告に強い殺意があったことの立証。証人は矢継ぎ早の質問に、間を置かずはっきり答えた。

     裁判官の隣に座る女性裁判員は、ノートにやりとりをメモ。別の女性裁判員は終始じっと証人の顔を見つめた。

     検察官「(一緒に声を聞いた)弟からは何と聞いていますか」

     証人「『走って行った』と聞いています」

     検察官「誰が、と」

     証人「『男の人』と聞いています」

     やりとりが続く中、女性裁判員の一人は考え込むようにほおづえを付き、手元の資料に目をやった。

     4時15分ごろ、弁護人の反対尋問が始まった。

     弁護人「複数回聞いたという『ぶっ殺すぞ』には間がありましたか。あなたの言い方だと間が空いていないようですが」

     証人「空いていました」

     弁護人「女性が言い返すのを聞きましたか。何と言い返しましたか」

     証人「覚えていません」

     弁護人「時間がたち、記憶がはっきりしない」

     証人「そうですね」

     証言に疑問を投げ掛け、検察側主張の根拠を崩そうとの意図が見える。

     弁護人はモニターに現場付近の写真を映しながら尋問。裁判員はモニターを参考にして、証人の表情もうかがう。男性裁判員は、下に目を落として資料やモニターを見ていることが多い。

     被告は終始伏し目がちで、足元を見つめほとんど動かない。

     弁護人は証人の女性に、事件当時の細部の記憶を喚起させようと重ねて質問。その上で「もう一度思い出してください。『ぶっ殺す』という男の人の声が2、3回聞こえ、女の人が言い返している。何と言っているのかは聞こえなかったという検察官の調書が作成されています。記憶はありますか」と尋ねた。

     弁護人の質問にどう答えるのか、裁判員らは女性を見つめた。

     女性は「あります。書いてあったのは覚えています」「記憶に沿って話したと思いますが、ちょっと女の人の声が聞こえた記憶がないので、今となっては分かりません」と静かに答えた。

     午後4時半すぎ、秋葉裁判長が「いったん休廷とします」と告げ、裁判官と裁判員は法壇の裏から退出。被告は座っていた場所で手錠をはめられ、うつむいた様子で待機。傍聴席の人々は法廷が再開されるまで静かに待っていた。

     午後4時38分に再開し、検察官が再質問。裁判員は検察側に目を向け、どんな質問をするのか興味深げな様子。

     検察官が証人に、現場近くに警察官が来たのかどうかを問うと、女性は「(携帯で)写メールを撮りました」と回答。検察官が「確認してください」と言うと、女性は証人席後方のいすに置いていたかばんから携帯電話を取り出して操作し「12時8分です」と答えた。

     検察官が「それでは12時8分より前には警察が来ていたということになりますね」と締めくくり、尋問は終了。裁判長が「これで終わりました。ご苦労さまでした」と声を掛け、女性は退廷した。

     【閉廷】

     午後4時39分、裁判長が「本日の審理はここまで。明日は予定通り10時に開廷します」と初日の閉廷を宣言。裁判員の中には安堵の表情を浮かべた人もいた。

     直後、傍聴席後方の女性が突然「公判前整理手続きで筋書きが決まっているのになぜ裁判するんだ。(裁判員は)裁く側に回ることを拒否してください」「裁判員制度反対。裁判員制度を廃止しましょう」と大声で叫び、立ち上がった。裁判員は表情をこわばらせた。

     法廷にどよめきが広がる中、秋葉裁判長は「静かに」「退室してください」と叫ぶ。女性は裁判所職員に退廷を促され、出口に向かいながらも「労働者人民を裁く側に動員するな」と叫び続けた。裁判長は「全員退廷してください」と毅然と指示。傍聴人は困惑した表情を浮かべて法廷を後にした。

      【共同通信】
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