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政権交代が、現実味を帯びてきた。もし民主党が衆院選で勝てば政治はどう変わるのか。有権者が一番知りたいところである。
期待だけでなく、民主党に任せて大丈夫か、といった不安もあろう。それに対し、今回のマニフェスト(政権公約)はどこまで応えているのだろうか。
際立った特徴は、官僚任せの政治から政治家主導への転換を打ち出したことである。
国会議員約100人を政府に送り込む。官僚による事前決定の場だった事務次官会議をやめ、閣僚を先頭に政治家が物事を決めていくという。
本来の姿であり、方向性は評価できる。後は実際に政権に就いた時、官僚の抵抗を突破する覚悟と力があるかどうかだ。
もう一つは、主な政策をどう実行するか4年間の工程表とともに明らかにしたことだ。
「国民生活の立て直し」を掲げ子育てや医療・介護、雇用、農業対策などで最終的に年16兆8千億円かかることも具体的に示した。野党の公約としては画期的だ。政権担当の意気込みが伝わる。
子ども手当や高校無償化など中身を見ると、生活の厳しさが増す中、多くの人に歓迎されよう。だが現閣僚が「財政破綻(はたん)を招く」と批判するように、財源確保に不安をぬぐえない。
予算の無駄を省いて9兆1千億円浮かすのをはじめ、埋蔵金などの活用も含めて16兆8千億円を生み出すと言う。かなりの部分、やってみないと分からないのが実情ではないか。
発表会見で直嶋正行政調会長は経済情勢次第で赤字国債を発行することに含みを持たせた。ただ今でも国・地方の債務残高が国内総生産(GDP)の160%台と先進国最悪の財政である。「4年間は消費増税も議論もしない」と言っていた鳩山由紀夫代表が、議論は認める方向に転換したのもやむを得なかったのだろう。
安定的な税収確保のためには経済の立て直しが必要だ。だが外需依存に陰りが見える中、新たな成長戦略の全体像が見えないのは気がかりである。
政策の整合性に関する問題もある。農業では、販売価格と生産費の差額を支払う戸別所得補償を導入して農家を優遇する。その一方で日米自由貿易協定(FTA)の締結を掲げたのは不可解だ。米国から安い農産物が大量に流れ込めば、補償費は予定の1兆円では到底足らないだろう。
「緊密で対等な日米同盟」を強調する外交・安全保障では、政策の一貫性を問われる。反対してきた海上自衛隊の給油活動の中止は盛り込まず、米国への配慮を色濃くにじませた。現実路線へ転じるならきちんと説明すべきである。
地域主権の確立も含め、政治のかたちを変えようとの姿勢は読み取れる。たださまざまな疑問に、丁寧に答えなければ、有権者の不安は消えまい。公示まであと20日。マニフェストをより深め、肉付けする努力が欠かせない。
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