2008年08月03日
隅田川馬石「お富与三郎 〜発端〜」
「翁庵寄席」は東京中央区は人形町にある日本そば屋「翁庵」で行われる不定期の地域寄席。毎回、若手の真打や二つ目をよんで店内で寄席が開かれる。今回は隅田川馬石師による「お富与三郎」を三ヶ月に一回、一年半かけて口演するというので行ってみた。
馬石師の「お富与三郎」は平成16年に一度、そして今年も三月から通しで口演されている。ジャマさんのブログでその様子を読んでいて、途中から聴くのもナンだし、もう一度最初から口演しないかな、と思っていたら、今回の高座を見つけたのである。
立命亭八戒 夕立勘五郎
隅田川馬石 狸の札
〜中入り〜
隅田川馬石 お富与三郎 〜発端〜
■立命亭八戒 夕立勘五郎
地元天狗連のアマチュア噺家さん。プロの、ヘタな二つ目よりも巧かったりする。
■隅田川馬石 狸の札
あくまでもこの会は「お富与三郎」がメインということで、自己紹介を兼ねて軽めの噺を一席。マクラで二つ目の時に快楽亭ブラック師とこの寄席に出たことを告白(いったいどんな落語会なんだ?)。噺の方は肩の力が抜けて、飄々とした高座を聴くことができた。
あまり聴くことの出来ない完全版を口演。杢兵衛が語る幽霊話などものともせず、前の男が残していった財布を威勢のいい職人が持っていってしまうまでが上、その後引っ越して来たその職人に、上でギャフンといわされた杢兵衛が逆襲するのが下。一種のメタフィクションある上と不動坊火焔を想起させる下という複雑な構成を持ったこの演目を、独自のクスグリもおりこみ三十分以上ミッチリと演じたが、時間の長さを全く感じさせなかった。
■隅田川馬石 お富与三郎 〜発端〜
やっぱり馬石師は善人よりは悪人の方がいい。与三郎を強請る仙太郎の小悪党もちろんのことだが、与三郎に外見でも内面でもコンプレックスを持つ酒癖の悪い茂吉、恩のある町人の息子の為とはいえ仙太郎を惨殺してしまう浪人(日暮里サニーホールで口演された時は「良介」という名前が語られたようだが、今回はなかった)、そして単にいい男というだけで自分が巻き込まれた事件にオロオロする与三郎と、心の奥底にある種のダークサイドを持った人間を演じる時は、やっぱり「俳優」をやっていた前歴ということがものをいうようだ。もっとも馬石師としてはその「俳優としての前歴」をいちいち言われたくないと思っているかもしれない。が、今回の「お富与三郎」のようにそれがハマる時はハマるのだ。以前にも書いたことだが師の場合、滑稽噺などギャグの多い演目をやると、どうしても俳優としての方法論がうわすべりして、笑いに素直に乗れないということがままある。個人的には、むずかしいのかもしれないけれど、滑稽噺などをやる時は「俳優としての前歴」を完全に捨て去り落語家に徹して、人情噺やシリアスな演目をやる時は「俳優」としての方法論が役にたつといいだが、と思っている。
この「お富与三郎 〜発端〜」は他の演者では略されることが多いという。しかしこの演目を十八番とし、おそらくライフワークとするであろう馬石師は、この発端をミッチリ口演することで、次回への期待を持たせた。全編を通しての主人公、アンチヒーローである与三郎は、この発端ではまだ単なる「水も滴るいい」というだけの気弱なヤサ男で終わっているが、そのかわり病弱な妻、養わなければならない家族がいるにもかかわらず牢獄に入ることも何とも思わない仙太郎の悪党振りが、この噺のメイン。馬石師はこの仙太郎という男の開き直り悪党人生をリアルに演じていた。
ただ一つだけ、素人ながらこうしたら良かったと思うのは、与三郎の生い立ちのこと。ちょっと調べたところ、与三郎が実は伊豆屋の実子ではなく、長らくこの出来なかった彼らの養子であったというエピソードを挿入する場合があるという。望まれて伊豆屋の跡取りになったが、後に実子が生まれて疎まれるようになるというのである。このことが挿入されていれば、大店の総領息子、跡取り息子である与三郎が朝からぷらぷらしているのか、分かりやすかったと思う。
いずれにせよ、続き物の噺として次回への期待を持たせる導入部としては十二分な出来であり、11月に行われる「お富与三郎 〜木更津〜」も観ようと思っている。
- 8 http://search.yahoo.co.jp/search?fr=slv1-tbtop&p=デアゴスティーニ 落語&ei=UTF-8
- 4 http://ezsch.ezweb.ne.jp/search/?sr=0101&query=鈴本 喬太郎 28日
- 4 http://kamigatarakugo-and-art.at.webry.info/200807/article_26.html
- 4 http://r.hatena.ne.jp/spankyi/演芸好きな人々/http://d.hatena.ne.jp/baikun_an/rss
- 4 http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&aq=t&hl=ja&ie=UTF-8&rlz=1T4TSHJ_jaJP283JP283&q=梅薫庵
- 4 http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rls=GGLD,GGLD:2005-12,GGLD:ja&q=噺坂
- 3 http://ezsch.ezweb.ne.jp/search/ezGoogleMain.php?query=ぺたりこん 落語 内容&ct=&pd=1&sr=0000
- 3 http://kamigatarakugo-and-art.at.webry.info/200606/article_9.html
- 3 http://officebonga.blog57.fc2.com/blog-entry-377.html
- 3 http://search.goo.ne.jp/blogreader.jsp?url=http://d.hatena.ne.jp/baikun_an/20080801/1217536719&MT=柳家三之助&snum=1&DC=10&RD=&IU=


