民法上の成人年齢を20歳から18歳に引き下げる是非を検討していた法制審議会(法相の諮問機関)部会は、公選法の選挙権年齢を18歳に引き下げるのを前提に容認する最終報告をまとめた。9月の法制審総会の承認を経て法相に答申する運びだ。
成人年齢見直しのきっかけは2007年に議員立法で成立した憲法改正のための国民投票法。原則18歳以上に投票権を与え、付則で10年の施行までに成人年齢や選挙権年齢を見直すことを明記した。これを受け、08年2月に当時の鳩山邦夫法相が諮問、検討が重ねられてきた。
最終報告は、成人年齢の引き下げについて「若者を将来の国づくりの中心としていくという強い決意を示すことにつながる」などと意義を強調した。一方で問題点として、親の同意なしに契約できるようになる18、19歳の消費者被害拡大、自立できない若者の困窮化などを挙げて消費者教育や自立支援策の充実を求めた。また、男子18歳、女子16歳となっている婚姻年齢はともに18歳にすべきだなどとしている。
ただ、実現性となると不透明感が漂う。法改正の時期について最終報告は、消費者保護対策などが浸透した段階がふさわしいとし、具体的な判断は国会に委ねた。国民投票法の成立に端を発した成人年齢問題の決着は国会に投げ返された形だ。
明治時代から続いた「成人年齢20歳」の見直しは歴史的な出来事だ。それだけに国民の間には賛否両論がある。賛成派は「国際的にも18歳が大勢」「若者の社会参加と自立を促す」など。一方の反対派は「経済的に親に依存している」「自分で責任がとれない」「成人と未成年の混在で高校に混乱を招かないか」といった点を挙げる。
法制審内でも意見が分かれ、08年12月に出された中間報告は是非の判断を見送り両論を併記するにとどまった。結論が求められる最終報告では、問題点について対策を求める形で成人年齢の引き下げへと進んだ。随所に苦労ぶりがうかがえる。
大人と子どもの「線引き」をどうするかは、国民生活の根本にかかわる重要な問題である。18歳への引き下げに絡んで検討が必要となる法律や政省令は300本を超えるといい、各方面への影響力は大きい。禍根を残さないためにも、国民の合意形成が欠かせない。最終報告を踏まえ、日本の将来像を描く中で、若い世代の位置付けや成人年齢の在り方などについて国民的議論を高めたい。
中央最低賃金審議会が、2009年度の地域別最低賃金の改定について、全国加重平均(時給)の引き上げ額を7〜9円とする「目安」をまとめ、舛添要一厚生労働相に答申した。今後、地方の審議会で都道府県ごとの改定額を協議し、各地の労働局長が決定する。
引き上げ幅は前年度実績(16円)を下回り、目安に沿って改定しても全国加重平均は710〜712円にとどまる。昨秋以降の不況の深刻化、厳しい経済情勢を反映し、賃金底上げには不十分な結果となった。
最低賃金が生活保護の給付水準を上回っている岡山、香川県など35県は「現行水準の維持を基本」として、引き上げ見送りが提案された。
一方、生活保護水準を下回る「逆転現象」が起きている神奈川、広島県など12都道府県では、時給2〜30円程度の引き上げを要請するとともに、2〜4年以内での逆転解消を求めた。昨年の目安で示された解消実現の目標年は、一部地域で先延ばしされた。
不況の逆風をもろに受けた答申といえよう。賃金引き上げは企業に負担を迫り、雇用に悪影響を及ぼす懸念もある。今回は賃金の底上げよりは雇用維持を優先させた面は否めまい。
厚労省は昨年7月、生活保護との整合性に配慮し、最低賃金を決めるよう定めた改正最低賃金法を施行した。労働意欲を損なわせないためにも、生活保護水準を上回るまで賃金底上げを図る努力はなお必要だろう。
民主党はマニフェスト(政権公約)に「全国平均で時給1000円の最低賃金を目指す」方針を盛り込んでおり、衆院選の争点の一つにもなりそうだ。中小企業などの雇用を支えるための環境整備も含め、各党で議論を深める必要がある。
(2009年7月31日掲載)