にくまんとあしゅかちゃん

書いた人:しおしお


 

 いつものマンションの一室
 今日はいつもと違うようで、キッチンのコンロの前にはアスカちゃんが嬉しそうな表情で立っています。
 コンロには大きな蒸し器が乗せられており、蒸気が立ち上っていました。

「にゅにゅにゅ〜」
「アスカ。コンロに近づいたら危ないよ」
「大丈夫なの〜。肉まんさんが蒸しあがるまでいるの〜」
「居るのって言われても危ないから、もうちょっと離れた場所で見ててよ」
「うにゅ〜。わかったの〜」

 シンジに諭されると、アスカは少し大きめの椅子にちょこんと座って蒸し器を見つづけていた。

 なぜ、アスカが肉まんを欲しがるのか……。
 話は学校での出来事に遡る。

「やっぱ冬は肉まんに限るな」

 そう言いながらトウジは、学校に来る途中で買ったであろう肉まんを頬張っていた。
 その光景を見ながら、トウジの話相手になっているシンジは呆れたような表情をしてみせる。
 シンジの隣にはアスカもおり、一緒に話をしている。
 アスカは、トウジの肉まんを不思議そうに見ていた。

「トウジは肉まんが好きなんだね」
「まあな。冬に食べるのは最高なんやで〜」
「へえ〜、そうなんだ」
「にゅにゅ? そんなにおいしいの〜?」
「ああ、これは最高やで、惣流も帰りにコンビニよって買って食べてみい」

 3人が楽しそうに話をして居る所へ、クラスの委員長である洞木ヒカリがズンズンと歩きながら近づいてくる。

「こら、鈴原! 学校に買い食いしてきちゃダメでしょ!」
「ええやないか。この位」

 ヒカリの表情はどうみても怒っているとしか言い様の無いものである。
 しかしトウジは馴れてしまっているのか、のらりくらりとかわす。

「この位の意識がダメになるのよ」
「そんな言い方せんでもええやん。それに食ったほうが残飯で捨てられるよりもましや。つまりエコロジーやな」
「どこがエコロジーなのよ。まったく〜!!」

 委員長とトウジがわいわい騒いでいる。
 そんな2人をクラスメイトは微笑ましく見守っている。
 アスカは2人のケンカが気になら無いのか、シンジに話しかける。

「にゅにゅ、肉まんっておいし〜の?」
「うん。アスカって食べた事無かったっけ?」
「うにゅ〜。食べた覚えは〜無いの〜」
「そっか、じゃあ帰りにでもコンビニに寄って買おうか?」
「わ〜い。肉まんなの〜」

 アスカは、シンジの周りで嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねる。
 そんな楽しい状況を尻目に、トウジとヒカリの言い争いは続いていた。

 それからアスカは学校の授業が楽しくてたまらなかった。
 肉まんの事を思い出すたびに“学校、早くおわらないかな〜”と思い浮かべていた。

 

 そして待望の放課後……。
「にゅにゅ〜、はやく行こうよ〜」
 アスカは返り支度を急いで終わらせると、シンジの机の前で片づけをせかしていた。
「そんなに慌てなくて……」
「だって、だって、無くなったらこまるの〜」
「そうだね。じゃあ行こうか」
「うん」

 

 アスカとシンジがコンビニに到着すると、なぜか学生の列があった。
 なんだろうと除いてみると、あまりの寒さなのか、肉まんを購入している列である。

「にゅにゅ〜。皆買ってるの〜」
「そうだね。思ったよりも人が多いね」
「にゅ〜。残ってると良いのに〜」

 しかしアスカの願いも届く事無く、肉まんは売り切れていた。
 それを知ったアスカは残念そうな表情になる。

「うにゅ〜、肉まん食べたかったの〜」
「う〜ん。そうだね……」

 シンジは仕方無しに肉まんの替わりになるものはないかとコンビニの店内を見まわすと、お惣菜などが並べられた棚の中に、家庭で調理する為の肉まんが置かれていた。

「アスカ。家で肉まん作ろうか?」
「にゅ? 家で作れるの〜?」
「うん。これなら家で作れるよ」
「やったぁ〜。じゃあ早く買って帰ろぉ〜」
「判ったよ」

 アスカに急かされる形でシンジは冷蔵してある肉まんを買うことにした。
 コンビニの袋に入れられた肉まんをアスカは大事そうに抱えて家路に急ぐ事にした。

 コンビニを出た二人を迎えたのは、空から舞い落ちる雪である。

「うにゅ〜」
 アスカはコンビニを出たところで空を見上げていた。
 それに遅れるように出てきたシンジも空を見上げていた。
 音を鳴らす訳でもなく、雪はゆっくりと静かに舞い降りてきた。

「降ってきたね」
「つもりそう?」
「どうだろう…。明日になると大変かも」
「うにゅ〜。大変?」
「うん。車とか、歩くのも大変だよ」
「でも雪さんが一杯あると楽しいね」
「そうだね」

 シンジとアスカは雪が本格的に降りそうになる前に家路に急いだ。

 

 そして、キッチンにて作っているのである。
 当初は電子レンジで作ろうとしたのだが、アスカが嫌がったために、蒸し器で作る事になった。

「そろそろかな?」
 シンジが蓋を取ると、モアッと蒸気が舞いあがった。
「にゅにゅ? チンジ、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。ほら、出来たよ」
「わ〜い。出来たの〜。すごいすご〜い」
 アスカは手を叩きながら喜んでいた。

 そして2人はリビングにて肉まんを食べていた。
 コンビニを出た時に振り始めた雪は、窓の向こうの景色を白くさせていた。

「うにゅ〜。雪さんつもるね〜」
「そうだね。雪だるまをつくる?」
「ほんと〜? じゃあ早起きしよっと」
「アスカに早起きできる?」
「できるもん〜」

 果たして翌朝に雪は積もっているのか…。
 そして念願の雪だるまは出来るのでしょうか…。

 アスカは両手で抱えた肉まんを頬張りながら、まだ見ぬ雪だるまを夢見ていました。

 

<おしまい>


(2001年12月17日公開)

(2002年2月14日移転)

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