あしゅから元気!

書いた人:しおしお


その4.3「あしゅかちゃん、ダイビング」の巻

 

 浅間山火口内で発見された使徒。
 その捕獲のために、今回は狩り出されたわけで…。

 最初は、僕が行く予定で話が進むのかな…。
 なんて考えていたら、アスカが立候補と言う形で溶岩の中にダイビングする役目を担う羽目になった。
 とてもじゃないけど、あのアスカにその役目が務まるなんて思えないし…。
 今からでも役目を変わるって言うのは…。

 期待を込めて、リツコさんに相談をしてみることにした。

 だけど、「無理よ。アスカも乗り気になってるわ…」と返答され、
 そんな僕の想いも、あっさりとリツコさんが一蹴してしまった。

 この場合リツコさんが悪いと言うわけじゃない。
 正直、アスカがここまで怖いもの知らずなのかと今更ながら驚くしかない。

「にゅ、にゅ〜。だーるまさーんがこーろんだー」

 僕の不安な気持ちをよそに、アスカの楽しそうな声が聞こえてきた。
 なんでも冷却装置を備えたプラグスーツと言うことで、スーツ内を冷却剤のようなものが詰まっているらしく、アスカの外観は言うなれば赤いだるまのようだった。
 周囲の心配はどこ吹く風のように、アスカは楽しそうにその格好を楽しんでいた。

 本当に大丈夫なのかなあ…。
 僕の頭にはその考えだけがぐるぐると回っていた。

 

 

 浅間山火口付近
 この周辺にはネルフが陣をとり、仮設テントがたくさん並べられている。
 テントの中には長机が並べられ、技術班などのスタッフが急がしそうに右往左往していた。

 ここまでくると、誰も止めることができず、使徒捕獲作戦は粛々と進められていた。
 僕もエヴァ弐号機のフォローのために、初号機に乗り込み作戦開始をまっていた。

 エヴァ弐号機は不恰好なスーツを着せられていた。
 昔の映画に出てきそうな、古い臭いデザインの潜水スーツのようなものを着せられたエヴァ弐号機。
 溶岩の中で活動するには、どうしてもあれだけのスーツじゃないといけないらしい。
 それだけ内部に冷却剤を詰めても熱さに耐えられるかどうかと言うことだ。

 だったら、やらなければ良いのに…。
 僕は正直そう思ったけど、周りの大人はそんな意見を受け入れてくれるような雰囲気では無かった。

 

 作戦が始まろうとする少し前、僕はエヴァ弐号機と連絡をとることにした。

「アスカ。大丈夫?」
「うにゅ。あしゅかちゃんは大丈夫なの〜。だからチンジはまっててね〜」
「そ、そうじゃなくて…」
「うにゅ?」
「えーっと、気をつけて」
「は〜いなの!」

 相変わらずエヴァ弐号機との通信は音声のみだった。
 前から疑問に思っていたけど綾波が乗っている零号機とは画像通信をしているのに、どうして弐号機だけ音声のみの通信なんだろう…。
 ミサトさんや、リツコさんに聞いても明確な回答を得るには至らなかった。

「それじゃあ、使徒捕獲作戦始めるわよ」

 ミサトさんの合図に僕は現実に引き戻された。
 そうだ、今はこの作戦を成功させないといけないんだったんだ…。

 作戦が始まり、エヴァ弐号機は巨大クレーンに吊るされそのまま火口部へと突入していく。
 僕はその光景をみるだけしか出来なかった。

「お池にざぶ〜ん」

 アスカの声が聞こえてきたと同時にエヴァ弐号機は溶岩の中に入っていった。
 本当に何事もないんだろうな…。
 僕は何度も心の中で祈る思いだった。

 

 

 アスカの搭乗するエヴァ弐号機が溶岩の中に入ってから小一時間が経っただろうか…。
 未だになんの連絡も無い。
 そう思っていると、クレーンが巻き取りを始めていた。
 捕獲作業が進んでるのが僕にもわかる。

 この時ばかりは連絡が無いのは無事な証拠だと僕は何となく感じていた。
 しかし、その無事で居て欲しい思いは一本の通信で打ち砕かれた。

「使徒が羽化! 溶岩の中でも活動しています!」
「なんですって!? 弐号機は?」
「交戦を始めました」

 焦りとも思える感情がマヤさんの声に乗っていた。
 ミサトさんも溶岩の中で使徒が活動できるとは思っていなかったようで、こちらの声にも緊張感が入っていた。

 溶岩の中で弐号機と使徒が戦っていた。
 火口の淵に立つと、モニタのズーム画面を戦闘が行われているであろう場所にあわせた。
 すると、弐号機に何度も襲いかかる使徒が見えた。

 

 

 僕はこの後の事は殆ど覚えていない。
 アスカを救うことしか考えてなかったからだ。
 エヴァ弐号機とクレーンを繋いでいた冷却パイプが使徒によって、数本がちぎられていくのを確認していた。
 アスカの咄嗟の判断で冷却パイプの冷却剤を使徒の口の中にいれ、熱膨張を利用して倒したところまでは判った。
 しかし、使徒は冷却パイプを全て引きちぎり弐号機は溶岩の中に沈もうとしていた。

 その時は体が先に動いていた。
 自分のことなんて何も考えてなかったんだ。
 気が付くとアスカの弐号機をしっかりと捕まえていた。

「ありがとうシンジ」

 アスカの声が聞こえてきた。
 だけど、この時のアスカの声がいつもの舌足らずの口調じゃなかったことは判らなかった。

 なぜかって?
 その後、僕はあまりの熱さに気を失ってしまったようだったから…。

 

 

 

 旅館近江屋
 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。
 布団の中で目が覚めたようだった。
 体を起こして周りを見回すと、そこは日本家屋、いかにも和室な部屋だった。
 熱にやられて少しだけダウンしたようだったと後で言われた。

「あ〜。チンジが目をさましたの〜」

 いつもの口調のアスカの声がした。
 にっこり笑顔でアスカは僕の方をみていた。
 窓から差し込む光で夕方くらいになっているんだなと言う感覚はあった。
 いつか夢の中のような感覚で見たあのときのアスカとは違うけど、元気いっぱいのいつものアスカだった。
 けど、声をだしてから少し遅れるように表情が崩れる。
 アスカの瞳に涙が浮かんでいるようにも見えた。

「え〜ん。チンジが目をさまさなかったらどうしようかと思ったの〜」

 普段のアスカとは違っていた。
 ここにきて、僕が今回のことでアスカを心配する以上に、アスカは僕のことを心配していることがわかった。

「大丈夫だよ。ほら、起きてるでしょ?」
「だってー、だってー」

 まいったな。本当なら僕がアスカを心配しなきゃいけない役目なのに…。
 アスカはまっしぐらに僕に抱きついてきた。
 布団から上半身だけ起こしているから、アスカの頭が少しだけ上に来る格好だ。
 困ったな…。こんな姿他の誰かに見られたらなんて言えば良いんだろ…。

 アスカを守ろうと思っていたのに、逆にアスカに守られている気分になっていた。
 それではいけないと思い、抱きついているアスカの肩に手を置いて、少し身体を離す。
 まっすぐな瞳で僕を見つめてくるアスカ。
 ここは、何か言わないといけないんだろうな…。

 僕はそう思うと今の素直な気持ちをアスカに言うことにした。

「僕がこれからもずっとアスカを守るから」
「にゅ? ずっと?」
「うん。ずっと」
「ずーっと、ずーっと?」
「うん。アスカが僕を必要としている間は…」
「じゃあ、ずーっと必要なの〜」

 アスカは屈託の無い笑顔でその場でぴょんぴょんと跳ねた。
 僕は大して考えもなしに、つい言ってしまったんだけど…。
 よくよく考えてみると、結構重要な台詞だったような気がする。

 そのことに気がつくのはずっと後になると思うけど…。
 嬉しそうなアスカを見てたら、それ以上何も言うつもりもなかった。

 とりあえずは、これで良かったかな?

 

<おしまい>


(2008年12月17日発表)

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