あしゅから元気!

書いた人:しおしお


その4.2「あしゅかちゃん、およぐ」の巻

 

 ネルフ本部内の福利厚生施設。
 その中の一つに、25mプールがある。
 ちなみに訓練用のプールは別の場所にある。

「泳ぐのは〜、たのしいの〜」

 アスカは楽しそうに泳いでいる。
 着ている水着は、赤い生地に白い縁取りのセパレートタイプである。
 子供っぽいようなフリルがついているのではなかった。
 おそらく、アスカなりにお洒落をしてみたのであろうか…。

 同じプールでレイも泳いでいた。
 レイのほうは、白いワンピースタイプの水着を着ていた。
 それは、派手なカッティングをしている訳ではない普通のタイプの水着であった。

 残るシンジはトランクス型の海水パンツを着て、プールサイドにてくつろいでいた。
 泳いで楽しむという感覚がシンジには無かったのであろうか…。
 アスカやレイが泳ぐ様を見ているだけであった。

 それをつまらなく思うのがアスカだった。
 泳ぎ終えると、プールサイドに上がる。
 とてて……と、水を滴らせながらシンジの元へと歩いて向かった。

 アスカは椅子においてあるタオルをとると、水分をふき取る。

「にゅ?」

 ふとアスカはシンジを見た。
 シンジはアスカ達と違って泳ごうと言う意思が見えない。

「チンジは、泳がないの〜?」
「あ、うん……」
「どうちて〜?」
「どうしてって……。え〜っと……」

 アスカの疑問にシンジは言い返すことが出来ない。
 実は、水泳が苦手なシンジ。
 そのため、どうにも泳ぐまで踏み切れるものでは無かったようだ。

「およご〜およご〜」
「で、でも……」

 手を引っ張るアスカに困惑するシンジ。
 どうすれば良いのやらと思い、シンジはレイのほうを見る。
 いつの間にか、レイもプールから上がっておりタオルを持って身体についた水滴を拭き取っていた。
 シンジ達の方は向いておらず、逃げ場は無かった。
 アスカに引っ張られる形で、シンジはプールに入る事を決心した。

 人は浮くように出来ていないんだよなあ。
 ん〜。全く泳げるわけじゃないけど……。
 早く泳げないから……。

 そう思いながらも、プールサイドから飛びこむ。
 勢い良く、足からプールへと入るシンジ。
 少ししてから浮かんできたシンジ。
 そしてゆっくりと泳ぐような動きをする。
 とてもじゃないが、早いとは言えないスピードであった。

「チンジ〜。頑張れなの〜」

 楽しそうに応援するアスカ。
 その傍らにレイもシンジの泳ぎを見ていた。

「チンジ。体調悪いの〜?」
「違うわ…」

 心配そうに見るアスカに言うレイ。
 彼女はシンジの泳ぎに妙なものを感じ取っていた。
 アスカはシンジの様子にまだ気づいてなかった。

「にゅ?」
「あれは…おぼれている…」
「うにゅ?」
「だから、碇君は恐らく…」

 最後まで言葉を続ける前に、レイはプールに飛び込んだ。
 シンジはゆっくりとプールの底へ向かっていた。

「チンジ〜!」

 アスカの応援むなしく、シンジは溺れてしまっていた。
 なんとか、レイの救助によってシンジは意識を失う手前で助けられた。

 

 プールサイドに設置されている椅子に座り、シンジはむせ返っていた。
 心配そうにシンジを見詰めるアスカ。
 レイは表情を変える事なくシンジを見ていた。

「げほっげほっ」

 少しばかり水を飲んでしまったのか、水を吐き出していた。
 シンジは口からでた水をタオルで拭った。

「うにゅ。チンジ、大丈夫?」
「あ、うん。ちょっと…ね」
「ちょっとじゃないの〜。チンジ大変だったの〜」
「あはは、大げさな」
「もう、泳げないのなら、ちゃんとあしゅかちゃんに言っておいて欲しかったの〜」
「うっ…」

 情けない事であっても、アスカには言えないよ…。
 ちっぽけなプライドは、僕にだってあるんだし…。

 シンジは情けないと思いながら、愛想笑いを返す。
 そんな表情をアスカは「ありがとう」と言う意味で受け取った。

「うにゅ、今度からは隠しごとなしなの〜」
「ははは、わかったよ…」

 アスカの何気ない一言が波紋を呼ぶ事になるとは、シンジは気が付くわけもなかった。

 

 プールでのやりとりが続いている時、チルドレンに召集が掛かった。
 なんでも、浅間山にて使徒が発見されたとのことであった。

 

 ブリーフィングルームにて説明が延々と続く。
 なんでも溶岩のなかに入って使徒を捕獲するとの計画である。
 シンジはなんて無謀な作戦だろうと思っていた。

 どうせ、こんな作戦立てるのはリツコさんと言うよりもミサトさんなんだろうな…。
 さらに言うと、この作戦の中心は僕と言う事に…。
 やっぱり、なるんだろなあ…。
 零号機はまだ動かせないって聞いたし…。
 アスカには無理はさせられないし…。
 消去法で言うと、僕しかないな…。

 ミサトが無謀な作戦を立てたというところまでは当たっていた。
 しかし、シンジが捕獲作戦の中心になると言うところは外れていた。

「じゃあ、この作戦は…」

 リツコは弐号機くらいしか出来ないだろうと考えていた。
 それよりも、リツコは別のことを考えていた。
 しかし、リツコの声をさえぎるように大きな声が小さな手と共に上がっていた。

「うにゅー。この作戦は〜、あしゅかちゃんがやるの〜」
「え?」

 驚くリツコにアスカは言葉を続けた。

「あしゅかちゃんがきっと、やり遂げて見せるの〜」
「無理にしなくても良いのよ。正直言ってリスクしかないから…」

 リツコは使徒の捕獲は意味がないと思っていた。
 生きたまま使徒を捕獲すること自体無理があると考えていた。
 ただでさえ、初号機を溶岩の中に入れるわけにも行かない。
 さらにいうと、溶岩突入用の装備は初号機には規格外のシロモノであった。
 そうなると、弐号機しか捕獲に向かえない。
 目の前のアスカを溶岩の中に突っ込ませようとまではリツコは考えていなかった。
 しかし目の前のアスカは、何でもないよと言う軽い表情であった。

「あのねえアスカ。これは溶岩の中に入るのよ。プールに入るのとは訳が違うの。判る?」
「うにゅ。あしゅかちゃんは判っているの〜。だから大丈夫なの〜」
「それに、アスカを行かせるのは人道的にも…」

 マッドサイエンティストと言われるリツコでさえ、多少の良心は有ったようである。
 周りに居た伊吹マヤ、青葉シゲルも同感していた。

 

「大丈夫なの〜。あしゅかちゃんにおまかせなの〜」
「アスカ駄目だよ。一歩間違えたら…」
「大丈夫〜。大丈夫〜」

 シンジも引きとめようとしたが、アスカは聞かなかった。
 こうなると、アスカは一歩も引かなかった。

 周りは慌てるばかりだが、当人はなんとも思って無い様子であった。
 果たして、この作戦は上手く良くのであろうか…。
 アスカとレイを除いたブリーフィングルームにいる面々の脳裏には共通してある思いがあった。

 ミサトが全部悪い…。

 誰も口に出す事はなかったが、使徒を見つけてしまったミサトの責任と言う事になっていた。
 知らぬは浅間山研究所にいたミサトだけであった。

<つづく>


(2005年4月30日発表)

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