あしゅから元気!

書いた人:しおしお


その4「水着を買いに行きましょ、あしゅかちゃん」の巻

 

「にゅ〜?」

 アスカはディスプレイをみつめていた。
 授業で使われるノートパソコンの表示を見ていたのだが、なにが表示されているのか良く判らないアスカは首を傾げながら見つめる。

「どうしたの、アスカ」
「にゅ〜。チンジ〜おさむがくりょこ〜って?」
「おさむがく?」

 何の事を言っているのか判らないシンジはアスカのディスプレイを覗き見る。
 そこには“修学旅行の案内”とかかれた文章が表示されていた。

「ああ、修学旅行?」
「うにゅ、しゅーがくりょこー?」
「そうだよ。学年全体で旅行するってことだよ」
「たのしそ〜だね〜」
「そうなるのかな?」
「へ〜」

 アスカはまだ見ぬ修学旅行を思い浮かべながら、その日の授業は過ぎていった。

 

 帰り道、アスカは楽しそうに道を歩く。

「りょこ〜りょこ〜たのしいりょこ〜」
「楽しそうだねアスカ」
「うん。りょこ〜たのしみなの〜」

 そういえば、アスカって旅行に行った事無いのかな?
 でも、日本に来た時には船で来たハズだよね……。
 あのとき、使徒も倒してるし……。
 だけど、あれを旅行としてカウントできるわけもないかな?

 アスカは家に帰るまでずっと楽しそうに歩いていた。
 夕食の買い物をするのにも上の空で、気分は修学旅行に言っている様子だ。

 

 そして、修学旅行もあと1週間となったある日曜日。
 アスカは朝食を食べながら僕に話しかけてきた。

「ね〜、ね〜。チンジ〜」
「どうしたの?」
「あのね。あしゅかちゃんね」
「うん。だからどうしたの?」
「水着を〜買いに行きたいの〜」
「水着?」
「うん。しゅ〜がくりょこ〜のしおりに書いてあったの〜」

 アスカに言われて僕は修学旅行の説明の時の事を思い出す。
 そういえば、小冊子を配っていたような……。
 あれがしおりか…。
 準備する予定の前の日くらいに見れば良いやと思っていたから、目をまったく通していなかった。

「チンジは読んでないの〜?」
「う、うん。まだなんだ」
「うにゅ。チンジは、しゅうがくりょこ〜行きたくないの?」

 少しだけ寂しそうな顔をするアスカ。
 その表情に僕は幾度と無く負けそうになったことか……。
 実際、勝ったこと無いけど…。

「そ、そんな訳無いよ。準備をする前の日かその前の日に読めば良いな〜って思ってたから」

 僕はそう言うと、朝食を食べ終えるや否や部屋にしおりを見に戻った。
 カバンの中にいれっぱなしだったしおりを取出してパラパラとページをめくる。
『持って行く物』と書かれたページで止めると、そのぺーじを食い入るように見る。
 すると水着の所で、種類は自由で各自で用意しても良いように書かれてあった。

「なるほど。このページを見てアスカは水着を欲しがったのかな?」

 部屋で見ているとトコトコとアスカがやってきた。

「皿洗いおわったよ〜。チンジ〜、水着買いに行こ〜」

 今日の片付け当番だったアスカは嬉しそうに戻って来た。
 シンジはしおりを閉じるとアスカの方を見る。
 アスカの目は期待に膨らみっぱなしの様子であった。

「そうだね。じゃあ買いに行こうか?」
「うん! やったぁ〜」

 とても嬉しそうにアスカは飛び跳ねた。

 

 1時間後
 アスカとシンジは出掛ける支度をすると、マンションを出ていった。
 マンションのある場所から、今日の買い物の場所として選んだデパートまでは長い下り坂を降りていかなければならない。
 シンジはマンションの前の道路にあるバス停に行こうとした。
 しかし、アスカがシンジの服を引っ張りバス停に行くのを止める。

「どうしたの? バスで行った方が早いよ」
「うにゅ〜。バスだとあっという間なの〜。だからチンジとゆっくり行きたいからあるきたいの〜」
「でも、疲れるよ?」
「あしゅかちゃんは大丈夫なの〜。だから歩いて行こ〜?」
「う、うん……」

 アスカに引っ張られるままにシンジは長い下り坂を道路沿いの歩道を歩いていく。
 つばのおおきな白い帽子を被っているアスカは楽しそうにくるくる回りながらシンジの前を歩いていく。

「そんなに急ぐと危ないよ」
「だいじょうぶなの〜」

 シンジの注意もそこそこにアスカは歩いていく。
 アスカとシンジの歩くペースは明かにシンジの方が早い。
 しかし、それに気を使っているのかアスカが少しだけ早歩きっぽく進んでいく。

「そんなに急がなくても、水着は逃げないよ」
「判ってるの〜。でも、でもね」
「ん?」
「こうして歩くのがたのしの〜」

 アスカはくるりと振り返ると、シンジに向かって、はにかんみながら微笑んでみせる。
 思わずシンジもアスカに向かって微笑んだ。
 するともっと嬉しそうにアスカは先を歩いていった。

 おそらくアスカにとってはデート気分だったのかもしれない。
 ただし、デートと言うことをアスカが判っているのかどうかが問題であるが…。

 

 そんなこんなでアスカとシンジの二人はデパートにたどり着いた。
 建物内はこれでもかといわんばかりに、冷房が効いていた。
 入った瞬間、アスカもシンジも寒気を感じたが直になれてしまった。
 そしてデパートの中を少し歩いてエスカレーターにたどり付いた。

「うにゅ〜。とどないの〜」

 アスカの身長からするとエスカレーターの手すりに手を置くのは難しいのか、やや後方を歩いているシンジを待つ。

「どうしたの?」
「あのね〜。あしゅかちゃん、手すりにとどかないの〜」
「ああ、そっか」
「だからね〜。はいっ」

 アスカはそう言うと手を差し出す。
 一瞬シンジは何の事なのか戸惑ってしまう。
 そして、それが手を繋ぐ事を意味するのだと理解した。

「危ないからね。気をつけるんだよ」
「は〜い」

 シンジに言われるとアスカの方からエスカレーターの段に足を乗せる。
 それに遅れまいとシンジもアスカと同じ位置に立つ。
 シンジは、開いていた右手でエスカレータの手すりに手を置いた。

 そうして、4階の水着用のフロアにたどり付いた。
 ずらりと並んだ水着の数々。
 シンジはその数に圧倒されていた。
 一方アスカの方は、物珍しそうに輝かしい瞳で眺める。

「え〜っと、アスカだと…。どのコーナーだろ……」

 シンジは周りを見回す。
 アスカの体型にあった水着を置いてある場所を探そうとした。
 しかし日曜日と言う事もあって、他の買い物客の流れに圧倒されてしまう。

「ん〜っと、あしゅかちゃんの水着〜水着〜」
「あ、あっちだね」

 シンジは目当ての売り場を見付けた。
 幼児体型と言えようアスカの場合は子供用の水着コーナーでないと合うサイズが無い事は明白であった。

「わ〜。いっぱいならんでいるの〜」
「どれにする?」
「ん〜っと、ん〜っと」

 あまりにもの選択肢の多さにアスカは迷っていた。
 ついでにシンジの水着も買おうとアスカは言っていたので、当初はなるべく早く選ぼうと考えていた。
 しかし数の多さにアスカの頭の中は、ぐるぐると廻ってしまっていた。

「にゅにゅ〜。いっぱいあるから、どれにしよ〜」
「そんなに焦らなくても良いよ。時間は十分あるんだから」
「でもでも〜。チンジの水着も買うから〜。早く選ばないといけないの〜」
「わかったよ。でも、自分で気に入ったのじゃないと、あとで後悔することになるよ」
「うん。わかったの〜」

 アスカは繋いでいた手を離すと、売り場へと歩いて行った。
 その光景をシンジは背中を見ながら見送る。

 アスカに似合う水着かぁ……。
 でも、アスカの体型じゃあどんなのが似合うんだろ…。
 小学校低学年だから……。
 う〜ん。
 思い付かないや……。

 シンジは頭を掻きながらアスカを待つことにした。
 色んな水着を手に取りながらアスカは考える。
 自分にピッタリな水着はどれなのか、本人にして見れば必死なことであった。

「にゅ〜。ふりふりがついたのがいいのかな〜。それとも、こっちの赤いの〜?」

 アスカは幾つかの水着をもつと置いてある姿見の前に立つ。
 そして、自分の身体の前に合わせてみる。
 元々が幼児体型なので、同学年の女の娘には敵わなかった。

「うにゅ〜。ヒカリちゃんは〜。可愛いのをえらぶっていってたから〜。ん〜っと、ん〜っと」

 どうやら、洞木ヒカリに対抗心を燃やしているようで…。
 ただ、ヒカリはヒカリでアスカの人気があるのを知っているのか、幼児体型とはいえ侮れないでいた。

 そして、アスカは判断を下した。
 決めたと同時にレジへてくてくと歩いて行った。
 レジに立っていた店員は可愛い客が来た事に少し戸惑い気味であった。

「いらっしゃいま……せ?」
「うにゅ。これくださいなの〜」

 アスカは商品を差し出す。
 店員は、アスカの保護者は何処かにいないのかと周りを見る。

「くださいなの〜」
「お、じょうちゃん。それを買うにはお金がいるのよ?」
「わかってるの〜ほら〜」

 そう言うとアスカは財布の中から一万円札を取り出した。
 そうなると流石に店員も冷やかしで無いと判ったのか、普通に対応しはじめる。

「ありがとうございました〜」
「ありがとなの〜」

 店員から水着が入った袋を受け取ると、アスカは足取りも軽く、シンジの元へと急ぐ。
 シンジは思ったよりもアスカが早く戻ってきた事に驚いた。

「早いね。どれにするか決めたの?」
「ん〜ん。買ってきたの〜」
「か、買ってきたんだ…。お金なら僕が持ってるからだすのに…」
「あしゅかちゃんだって持ってるもん」
「そ、そりゃあ…。そうだけど…」
「次はチンジの水着をかうの〜」 アスカはシンジの水着を選ぼうと男性用の水着売り場へと行こうとする。
 ふと、シンジはアスカがどんな水着を買ったのか気になっていた。

「そう言えばどんなのを買ったの?」
「だめなの〜」

 シンジはアスカの持っている袋に手を伸ばそうとしたが、アスカはそれを大事そうに胸に抱え込む。

「え? な、なんで?」
「これは〜。しゅ〜がくりょこ〜に行った時のおたのしみなの〜」
「そ、そうなんだ……」

 幼児体型とは言え、14歳の女の娘。
 秘密にしたい事があるようで…。
 果たしてアスカはどんな水着を買ったのでしょうか……。
 シンジはちょっとだけ気になっていたのでした。

 ちなみにシンジはトランクス型の水着を選んだとさ…。

<つづく>


(2002年9月21日発表)

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