あしゅから元気!

書いた人:しおしお


その3.6「シンジの疑問は、あしゅかちゃんの謎?」の巻

 

 なんやかんやと、分裂使徒を無事に倒して一安心。
 だけど、シンジの心の中には疑問が残っていた。
 あのばん…。
 あの時の光景で見たのはなんだったんだろ…。
 まぼろしなのかな?
 でも…抱き付かれた感触はあったような…。

 間違い無いよね……。
 アスカには何か秘密が有るような……。
 ……って言うか、あの身体で14歳の時点で秘密がてんこ盛りのような気がするけど……。

「チンジ〜」
「ん〜。気になるといえば気になるけど……」
「チンジ〜。チンジ〜」
「どうなんだろう…」
「うにゅ〜。チンジが相手してくれないの〜」
「え?」

 シンジはアスカの声に我に帰っていた。
 周りは同級生でいっぱいであった。
 そう、シンジは授業中に考え事をしていたようである。

「ぐずぐず〜。チンジはあしゅかちゃんのこと嫌いになったの〜?」
「そ、そんなことないよ…。でも、どうしたの?」
「うにゅ……。もうお昼なの〜」
「え? そうなの?」

 シンジは慌てて時計を見る。
 4時間目の授業は終わっており、周りの生徒達は食堂にいったり、弁当を広げたりと、それぞれの昼休憩を満喫し始めていた。

「あ、そうだったんだ。ゴメン」
「うにゅ? なにか悩みでもあるの〜?」
「え? べ、べつにないよ」
「あしゅかちゃんが悩みにのるの〜」

 アスカは、まさかシンジが自分のことで悩んでいるとは露知らず胸を張って言う。
 正直にシンジは言う事は無理なのでやんわりと断ろうとする。

「大丈夫だよ。本当に」
「うにゅ〜。あしゅかちゃんは信用できないの?」
「そんなことないよ。アリガト」
「わ〜い。ありがとなの〜」
「それよりも、お昼ゴハンだよね」
「うん。おひるなの〜」

 シンジは自分の鞄から二つの弁当箱を取出す。
 ひとつは、青い自分用の弁当箱。
 もうひとつは、アスカ用の赤い弁当箱であった。

 机を挟んでアスカはシンジの前の席の椅子を借りる形で座る。
 シンジは箸で弁当を食べていく。
 一方アスカのほうは、海外暮らしが長かったのか、先割れスプーンで食べて行く。
 もっとも指が短いのか、まだ箸を持つには不慣れな面もある。

 先割れスプーンか……。
 そう言えば、弐号機の装備も先割れスプーンだったよな……。
 アスカは先割れスプーンが好きなのかな?

 シンジは、嬉しそうに弁当を食べているアスカを見ながら考えていた。

「うにゅ? チンジはたべないの〜?」
「え、ああ……食べるよ」

 アスカに促されるかたちでシンジは弁当を食べて行く。
 中身の種類は同じであるが、シンジの方が明かに量は多かった。

 

 昼を過ぎると、なぜか襲ってくるのはきまって眠気である。
 シンジは眠気と格闘していた。
 しかし、目の前の光景は老教師……。
 いつも本来の授業をするのは前半。
 後半は思い出したかのように始まる話の時間。
 今はその話の時間であった。
 殆どが既に同一人物から聞いたことある話の為に退屈度はかなり高かった。

 ま、まずい……。
 本当に眠いよ…。
 あう、トウジは既に寝ている。
 綾波は……どうして窓の外を…。
 授業を受ける体制じゃないよ。
 ほ、本当にまずいって……。
 そういえば、アスカはどうなんだろ……。

 シンジはそっとアスカの座っている席を見る。
 アスカの席は隣なので、僕はちらっと横目で覗いてみた。
 アスカは普通に座っている様子であった。
 性格的に真面目な部分を持っているのか、アスカが授業中に寝ている光景を見たこと無いのをシンジは思い出していた。

 あう〜、アスカがとっても羨ましく思うよ……。
 でも、あと10分だ……。
 10分を耐えれば解放されるんだ。
 時間よ…進んで…。
 シンジは本気で願っていた。
 しかし、瞼は重力に抗う事は出来ず、徐々に視野は狭くなっていこうとしていた。

 こ、このままでは……。
 これではだめだ。
 ねむってしまう〜。

 シンジは眠らないように頭を振ろうとする。
 そのときに、妙な違和感を感じる。
 シンジの隣に座っているハズの女の娘が14歳の姿をしているのだ。
 いや…普通に考えれば、同学年の女の娘しかいないのは当たり前である。
 しかし、シンジが見た隣の席とはアスカが座っているはずの席であった。

 ……大きなアスカ……。
 あの時のアスカが……居る。
 なんで、ここに居るんだ……。
 みんな気がつかないの……?

 シンジの意識はそこで途絶えてしまった。
 つまりは、寝てしまったのである。

 

「チンジ〜?」
「え……?」

 シンジが目を覚ますと、そこにはアスカが心配そうな表情を浮かべながら目の前にいた。
 もちろん、寝落ちる前に見たアスカとは違ういつものアスカである。

「あ、あれ?」
「どうちたの〜?」
「べ、別になにもないよ…」

 シンジが気がついた頃には、シンジの列を除いて、机が教室の後ろに下げられて前半分が何も無い形になる。
 シンジも慌てて、教室の掃除が容易にできるように机を下げる。

「ん〜。それじゃあ、掃除と〜ば〜ん」
「当番? あ、そっか……」

 シンジはアスカに言われるままに掃除道具入れから、雑巾などを取出す。
 アスカには、ホウキを渡してバケツに水を入れに教室を出ていった。

「あしゅかちゃんも行く〜」
「だめだよ。掃除当番なんだから掃除しないと」
「うにゅ〜」
「直に戻って来るからね」
「うん!」

 シンジに言われ、アスカはホウキを掃きはじめる。
 そのあいだにシンジはバケツに水を入れにいく。
 水道の蛇口をひねり水を勢い良く入れていく。
 バケツに水が溜まる少しの間、シンジは考え事をいしてた。

 ん〜、さっきのは本当に幻なのかなあ…。
 あの夜に見た夢がまた見せたんだろうか…。
 でも、中学生の姿のアスカも可愛いな〜。
 今のアスカもそれなりにかわいいと思うけど、成長したアスカもかわいいんだな〜。

 少しだけ笑みを浮かべながら、シンジは思い出していた。
 気がつけばバケツには、水がなみなみと入っていた。

「う、うわっ!」

 シンジは慌てて蛇口をひねり水を止める。
 周りから見ればかなり変な行動に見えた事であろう…。

 教室に戻ると、ホウキで掃くグループは大体終えていた。
 あとは雑巾がけで綺麗にしたと頃から机を戻すだけである。
 シンジ達数名の雑巾のグループは早速床を拭いて行く。

 シンジは丁寧に床をふきながら、ほかの女子グループと何やら楽しそうに話をしているアスカを見る。

 こうして見ると最初、アスカは浮いた存在になるんじゃないかと心配したけど…。
 結構、中に入っているんだね。
 それはそれで良かった。
 でも、アスカのあの成長した姿でグループに入るとどうなるんだろ…。
 別の意味で浮いちゃいそうな気がするよね…。
 でも、本当にあの姿になるわけじゃないし…。
 最近、疲れているのかなあ……。

 シンジは安心しながら床を拭いていた。
 どうやらアスカの姿が変化してみる事は、気のせいだと言う事にしたようだ。

 

<おしまい>


(2002年8月25日発表)

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