あしゅから元気!

書いた人:しおしお


その3.3「ユニゾン攻撃だ、あしゅかちゃん」の巻

 

 アスカとの約束で、僕はユニゾンの練習に励む事にした。
 2人で息を合わせるというトレーニングは半端じゃない。
 特にアスカに合わせて動くとなると、アスカの普段の動きが判り始めてくる。

 でも……。
 動きづらいのも確かなんだよね……。

「にゅにゅ? どうしたの、チンジ」
「え? ああ、何でも無いよ」

 アスカは考え事をしている僕の傍に寄り、話かけてくる。
 一見すると心配している表情にも見える。
 はあ……。
 アスカに心配させないように、しているつもりなんだけど。

「だいじょ〜ぶ〜?」
「うん。大丈夫だよ。練習続けようか」
「うん!」

 僕がそういうとアスカは笑顔になって練習を再開する。
 アスカって凄いよな。
 こんなに小さいのに、訳の判らない使徒と戦っているし……。
 それでも一生懸命頑張ってるし……。

「にゅ? 顔に何かついてる〜?」
「へ? いいや、何でも無いよ」
「えへへ。そう?」

 ニパッと笑った笑顔、やっぱり笑顔が似合うよなあ……。
 だ、だめだ。笑顔に影響を受けちゃ……。

 

 

 そして、時間は流れて決戦前の夜。
 月明かりだけが入りこむリビング。

 ミサトさんは仕事があるからと言って、帰ってこないらしい。

 結局リビングで寝るのは、僕とアスカの2人だけ。
 自分の部屋で寝ても良いけど、ミサトさんが帰ってくると思っていたから布団は3つ敷いている。
 作戦当初はミサトさんが真ん中に寝る予定だったけど、アスカがワガママ言って真ん中にアスカが寝る結果になった。

 

 今日も、アスカは風呂上りの髪を拭きながら脱衣所から出てきた。
 最近は一緒に風呂へ入る機会が少なく、アスカの方はむくれてしまうが、シンジの方が意識してしまっている。

「にゅにゅ? ミサトは〜?」

 塗れた髪をタオルで拭き取りながら、パジャマ姿のアスカは、トコトコトコとシンジの傍に寄ってくる。
 雑誌を読んでいたシンジは、アスカは近くまで着た所でページをめくっていた手を止め、アスカに返事をする。

「ああ、ミサトさんは帰って来ないって」
「そうなの〜?」

 アスカは感心したような、判っていないような返事をする。
 そしてシンジの前にちょこんと座ったアスカは、それが合図で有る様に先ほどまで拭いていた髪をシンジが拭きはじめる。
 暗黙の了解のような行動をするアスカとシンジ。
 なんだかんだ言って、上手く行っているようである。
 髪を拭かれながら、アスカはシンジの顔をジッと見つめつづけていた。

「どうしたの?」
「ん〜ん。なんでもないの〜」
「そう? だったら、早く寝ないと、朝早く出なきゃ行けないからね」
「は〜い」

 

 

 深夜
 発展中の都市とは言え、シンジ達の住んでいるマンションは山の中腹にある為なのか、静まりかえっている。
 時折、遠くに車の走り去る音が聞こえてくる程度である。

 静かなリビングでは、シンジとアスカの2人だけが布団の上で横になっている。
 アスカのほうは規則正しい寝息を立てている。
 一方シンジの方は、やや眠れて無いのか半分目を開き、耳に付けたヘッドフォンから流れる音楽を聴いている。

 いよいよ明日、あの使徒と戦うんだ。
 アスカとのトレーニングは何とかできた。
 でも、完璧と言う保証が無い……。
 もしも負けたらどうしようって、不安が頭をよぎる。

 シンジはそこまで考え事をすると、目を閉じた。
 どうやら、眠くなったらしい。
 やさしい月明かりがリビングの中に入りこむ。

 

 

 僕は夢を見てる。
 目の前にいるアスカが大きくなった夢を…。
「ねえねえ。シンジ〜」
 今のアスカと全く変わらない笑顔を見せる。
 まるでそのまま大きくなったようだ。
 スラリと伸びた手足。
 綺麗な瞳に、長い髪。
 成長したアスカは、僕から見ても綺麗な存在に思えてならない。
「アタシ、大きくなったよ〜」
 嬉しそうに手を大きく振るアスカ。
「シンジ〜。はやくはやく〜」
「う、うん。今行くよ」
「えへへ〜。シンジだ〜いすき」
 目の前に成長したアスカが、僕のこと好きだなんて……。
 ぼ、僕も……。
「僕もアスカのこと好きだよ」
「え〜? ほんとなの〜?」
 嬉しそうに跳ねるアスカ。

 そしてアスカの顔が近づいた時、目が覚めた。

 真っ暗な部屋……。
 リビングの中は、月明かりで少しだけ明るくなっている。
 ああ、やっぱり夢なのかなあ…。
 僕は寝ぼけた頭で周りを見まわす。
 そこに何か足りない気がした……。
 そう、目の前に寝ているはずのアスカが居ないのだ。

 あれ? アスカ……。トイレかな……。
 寝る前に水分でも取ったのかなあ…。
 なんて思いながら再び目を閉じることにした。
 だけど、僕は天井の方から誰かに見られているような気配を感じた。
 その気配のもとを見ようと目線を天井へ向ける。

 そこには……。
 アスカが居た…。
 でも……そのアスカは……。
 いつものアスカじゃなかった……。

 

 綺麗な瞳に鼻筋がスラリと通る、綺麗という言葉が当てはまる。
 長い髪の毛が垂れ下がっている。
 僕は言葉を失った……。

 

「あ、アスカ?」
 ゆっくりと言葉を放つと、アスカと思われる女性はゆっくり頷いた。
 やっぱり目の前の女性はアスカなのか?
「ねえ、シンジ……」
「え?」
 いつもアスカは、僕の事を『チンジ』と言っている。
 それは舌足らずなアスカが言っているのは判っている。
「シンジはアタシのこと嫌い?」
 綺麗な瞳で僕を見つめる。
 月明かりのせいか、寂しそうな表情にも見える。
 今にも消えそうな、か細い存在にも思えるアスカ……。
「ううん。好きだよ」
「よかったぁ〜」
 アスカはホッとしたような安堵の表情を見せると、僕に抱き付いて来た。
 いつもとは違う大きな身体で抱きつかれる…。
 重量感が少しだけ違うアスカ……。
 そして目の前にある唇…。

 うっ……。
 これは不味いかも……。

 

 そこまで考えた時、僕の意識は遠くへと消えた。

 

 

「チンジ〜。おきてよ〜」
 真っ暗な空間に聞きなれた声が響く。
 その声に答える様に薄っすらと目を開ける僕。
 目の前にはいつものように、小学校低学年のような容姿のアスカが覗いて見ている。

 あれ? 低学年?

「ん……。あれ?」
「チンジ。起きないと使徒さんと戦うんでしょ〜?」
「あ、そっか忘れてたよ」
「にゅにゅ? だいじょ〜ぶ〜?」

 少し寝ぼけている僕にアスカが声をかけてくる。
 やっぱり、あれは夢だったんだ。
 目の前のアスカが急激に成長する訳無いもんな……。

「う、うん。大丈夫だよ」
「よかったぁ〜」

 僕が返事をするとアスカは嬉しそうに笑って見せた。
 その笑顔は、夢の中で見たアスカにそっくりであり……。
 ただし、ちっちゃい女の子の笑みと成長した女性の分の違いはあったけど……。

 

 

 なんだかんだあって、分裂使徒との戦闘を行った。
 なんとか、僕とアスカの2人でリズムを合わせて使徒を倒すことができた。

「まるで、おゆうぎね……」
 リツコさんは、そう言ったらしい……。
 うう、僕だって思ってたんだから、そこまで言わなくても……。

「だけど、可愛いじゃないか。私が小さい頃は……」
 冬月さんの話が延々と続いたらしいけど、誰も聞かなかったみたい。
 そりゃあ、冬月さんの少年時代って……。

 

 でも……。
 あの時見たアスカって……。
 幻だったのかなあ……。

 

 戦闘が終わってネルフ本部内をアスカと僕はミサトさんへ報告の形で歩いていた。
 やっぱり隣をテクテクと歩く小さいアスカが、大きくなる訳無いよな……。

「にゅ? どうちたの?」
「へ? なんでもないよ」
「うにゅ〜」

 アスカは、手を僕に差し出す。
 なんの事かわからない僕は、おもわず首をかしげた。

「ん?」
「おてて繋ご〜」
「うん。良いよ」

 アスカの小さな手をそっと握ってあげた。
 アスカの方は力一杯握っているんだろうけど、まだまだ力は足りて無いようだ。

 まあ、良いか。
 目の前のアスカも、いずれは大きくなるんだろうし……。
 でも、そうなった時……。
 こうして手を繋げられるのかなあ……。

 僕は将来にちょっとだけ不安を感じたかも知れない。

 

<おしまい>


(2001年12月15日発表)

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