あしゅから元気!
書いた人:しおしお
その3.1「ユニゾンするぞ、あしゅかちゃん」の巻
暗い部屋……。
一見すると映画の試写室のような小さな部屋に、映写機の光が前方のスクリーンへと映し出される。
数列並んでいる座席の一番前にアスカとシンジが座っている。
アスカは何故かワクワクしている様子だったが、シンジは気が気でない様子で座っている。
スクリーンには、エヴァンゲリオン初号機と弐号機の姿が映し出されていた。
そして、エヴァンゲリオン2機と対峙するのは、ヒトデのような第7使徒。
アスカが乗る弐号機が転んだ時、場内から笑いがもれた。
さらに持っていた武器……。
先割れスプーンを思わせるような弐号機用の武器が使徒の頭の辺りを直撃した時、さらに笑い声が部屋を包む。
「うにゅ〜。あしゅかちゃんは、頑張ったのにしたのに〜。ちんじ〜」
「そうだね。頑張ったね」
自分が笑われていると思ったアスカは、隣に座っているシンジに泣きそうな表情で訴える。
シンジは後方に座っている冬月の目線を感じながら、アスカをあやしていた。
そして、画面は使徒が分裂を起こしたシーンへと変わる。
「これって、使徒さん。ずるいの〜」
「ごほん……」
アスカがスクリーンを指差し、抗議の声を上げる。
すると、後方から咳払いが聞こえてくる。
「あ、アスカ黙って見てようね」
「え〜」
咳払いに慌てたシンジは、静かに映像をみるようアスカを促す。
この場に居るシンジとアスカ以外は画面に集中している。
『目標甲、乙ともに新型N2航空爆雷により目標を攻撃』
すると、画面には航空機から投下される爆雷の映像が映し出された。
一瞬画面がホワイトアウトを起こしたかと思われたが、大きなきのこ雲が立ち上った。
そして画面には動かなくなった二体の使徒の映像が映し出された。
『これにより構成物質の28%の焼却に成功…』
「にゅにゅ〜? 死んじゃったの〜?」
「いいや、足止めにこれは過ぎん……。再度進行は時間の問題だろうな」
アスカの質問に冬月が答える。
そしてスクリーンに映る映像は、消え部屋は一瞬真っ暗になったかと思われたが、電灯が付けられた。
すでに冬月は立ちあがっており、見下ろす様にアスカとシンジを見る。
そして1つ溜息を付くと、その部屋から出ていった。
「にゅ〜。あしゅかちゃん怒られちゃったの〜?」
「う、うん…」
「使徒さんを倒せなかったから?」
「多分そうかも……」
アスカは不安そうにシンジに話しかけた。
アスカを泣かせないようにシンジは優しく頭をなでた。
その様子をみて割りこんできたのがミサトである。
少しばかりこめかみに青い筋が見えるのは、気のせいだろうか……。
「そうじゃないわよ。怒られてるの。プレッシャー駆けられてるの!」
「み、ミサトさん。何も大きな声を出さなくても……」
「だって、だって使徒が分裂するなんて聞いてないわよ! インチキよ! ルールブックくらい作ってよね!!」
「使徒にそんなの求めても……」
ミサトは誰に言うでもなく、文句ばかり言っていた。
このままで、分裂使徒に勝てるのであろうか……。
シンジは一抹の不安を抱えていた。
ミサトは残業処理と言う事なので、シンジとアスカは2人仲良くマンションに戻っている。
「ね〜ね〜。チンジ〜。使徒さん、やっつけられるの〜?」
「う〜ん。きっとミサトさんが作戦立ててくれるよ」
そのころ、ミサトは……。
自分の執務室にて、関係省庁からの抗議文、請求書の山と睨めっこをしていた。
彼女の親友であるリツコは他人事の様にコーヒーをすすっている。
「何も思い浮かばない……。浮かばないわ!」
髪を振り乱しながら請求書の山を叩いていた。
「ミサト。思い浮かばないって、浮かばなかったら首よ。首、ちょっき〜んとね」
「う、やなこと言わないでよ……」
オモシロ半分にリツコは開いている左手で首を切るようなポーズをしてみせる。
ミサトはリツコのしたポーズを見て、自分の行く末を一瞬想像してしまったらしい。
「エヴァは、いつ治るの?」
「フルピッチで5日……。でも弐号機は派手に塩水被ったから、洗浄だけで時間が係ってるわ」
「まあ、エヴァがコケたなんて前代未聞だわ……」
「そして、使徒もほぼ同時期に侵攻開始予定よ」
「対策たてないとね〜。首が飛ぶのだけは気をつけたいわ」
「じゃ、首がちょんぎられない良いアイディアあるんだけど? どう?」
リツコは白衣のポケットからメディアを取り出すと、ミサトの目の前にちらつかせた。
「さ〜すがリツコ〜。持つべきものは親友ね♪」
ミサトは嬉しそうにメディアを受取る。
まるで小躍りをしている様にも見えるのだが、目の前にビールがあれば祝杯を上げそうなくらいの喜び様である。
「でも、それを考えたのは加持くんよ」
「げ……」
ミサトの小躍り終了。
「やっぱ、いらね」
「首飛んでも良いの?」
リツコはニッコリと微笑みながらミサトに言い放った。
そう言われてしまうと、ミサトも反論する言葉を失ったのか、懐へメディアを仕舞った。
果たして加持が考えた作戦とは一体なんであろうか……。
…と、言うよりも作戦部の部長が諜報部に作戦を教えてもらうのは、いかがであろうか……。
しかし、今のミサトには“首にならなければ何でも利用しちゃる”と闘志を燃やしていた。
それと同時に“もし、失敗に終わったら。加持にも引責させてやるわ。ふふふ”とまで考えていたようである。
全くもって、女性と言うのは恐ろしい生き物かもしれない。
そして、そのままマンションまで飛ばして帰ったミサトは、シンジとアスカをテーブルにつかせた。
時間が時間だけにアスカは、パジャマを着込んでおり、眠そうな顔をしている。
「ミサトさん。話は手短にお願いしますよ。アスカは寝る時間なんですから」
「寝るって、まだ9時半よ。酔いの口じゃない」
本来ならば“宵”であろうが、ミサトの場合は“酔い”であるらしい。
「アスカの就寝時間はいつも9時ですよ。遅くにご飯食べたから起きてただけです」
「あ、そうなの……」
「そうですよ。ですから、話を手短にお願いします」
「え〜っと、それなら…。早く言うわね」
ミサトはシンジにせっつかれる形で資料をテーブルの上に広げる。
資料は英語で書かれており、シンジには理解出来ない部分も多々ある。
アスカはシンジにすがる格好で、目を閉じていた。
「……え〜っと、じゃあアスカにはシンジくんが説明すると言う事で……」
「は、はあ……」
「あの使徒を倒すには、それぞれのコアを同時加重攻撃する必要があるの」
「同時ですか……」
「そう、つまりは初号機と弐号機による同時攻撃。これしかないわ!」
「それで……アスカと僕で攻撃すれば良いんですよね」
「だから、動きを合わせてもらうのよ。明日から動きを合わせてトレーニングをするのよ!!」
ミサトは、いつの間にか手の中にあるビールの缶を握りつぶしてしまいそうな勢いで、シンジに言い聞かせた。
「うにゅ……。うるひゃいの〜」
「あ、ごめ〜ん」
果たして、作戦はうまくいくのでしょうか……。
<つづく>
(2001年12月1日発表)