あしゅから元気!

書いた人:しおしお


その1.5「ホテルであしゅかちゃん」の巻

 

 

 ホテルの一室

 そう、僕は何故かホテルにいる。

 そして、部屋のソファーに腰掛けている。

 僕の隣には、アスカが座っている。

 アスカは先ほどから、ケーブルテレビのアニメチャンネルを必死になってみている。

「このロボットってエヴァよりも強いの〜?」

「それはどうなんだろうね。対戦できないし……ははは…」

 アスカはテレビアニメのロボットと、現実のエヴァとを混同しているらしい。

 確かに、僕自身エヴァがあるなんて、信じること出来なかったけど…。

 今では、そのパイロットになってるんだもんね。

 でも、それはアスカもおなじか…。

 こんなに小さい体に、アレだけの動きをエヴァ弐号機にさせるなんて…どんな訓練を受けていたんだろ…。

 

 厳しい訓練だったのかな…。

 辛くなかったのだろうか……。

 

「アタチの顔に何かあるの〜?」

「へ?」

「だって、チンジさっきから、アタチの顔ばっかり見てる〜」

「そ、そうかな……」

「そうだよ〜。そんなにお顔、変かな〜」

「変じゃないよ。うん」

「よかったぁ〜」

 

 ニパッと言う笑顔と共に、アスカはソファーから、ピョンと飛び降りる。

 そして、テクテクと言う音が聞こえそうな歩調で、冷蔵庫からオレンジジュースのビンを取出す。

「アスカ、それ飲みたいの?」

「うん」

「じゃあ、僕が開けるよ」

「いいよ〜。アタチが開けるの〜」

 そう言うとアスカは、栓抜きを持つ。

 アスカは小さい手でビンを掴むと、王冠に栓抜きを当てる。

「ん〜しょ。ん〜しょ」

 一生懸命に開けようとするが、アスカ自身の力が弱いのか、カチカチとビンを鳴らすだけである。

「開けられないの? やっぱり替わるよ。貸してごらん」

 シンジはアスカからビンを受取ると、あっさりと栓を開ける。

「チンジ、すご〜い」

 アスカはシンジがあっさり開けた事に感心している。

 何故か、シンジは照れ笑いを浮かべてしまった。

「か、簡単だよ。このくらい……」

「ほんとに〜? あしゅかちゃんは、開けるのに苦労したのに〜」

「ほ、ほら、アスカの場合は力が足りなかったんだよ」

「そうかな〜。力足りないのかな〜」

「うん、成長すれば、力がつくからさ」

「成長……。あしゅかちゃんは、成長できるかな〜?」

「出来るよ。誰だって成長するんだからさ」

「成長できるんだ〜。やったあ〜。成長したあしゅかちゃん、チンジは好き?」

「え?」

「ど〜なの〜?」

 アスカは小首を傾げ、アゴに右手ひとさし指をあてて、シンジを見上げる。

 今日、数回そのポーズを見せられて、慣れてしまうどころか、逆らえないシンジである。

「いや……。まあ、良いんじゃないのかな」

「チンジはあしゅかちゃんの事好きなんだね〜。やったあ〜」

「あ、はははは……」

 飛び跳ねて喜ぶアスカとは対照的に、シンジの顔は引きつっていた。

 

 

 それから時間は流れ…。

 

 僕は何気なしに時計を見ると、時計の針は午後9時をまわっている。

 アスカは、僕の隣で必死になってテレビアニメを見ている。

 そっか、専用チャンネルだから延々とアニメが続くのか……。

 ま、アスカの相手になってくれれば良いか…。

 そう思うと、僕は風呂に入りたくなった。

「さてと、シャワーを浴びようかな」

 僕はソファーから立ちあがり、バスルームに向かおうとする。

 すると、アスカもソファーから飛び降りた。

「どうしたの?」

「アタチもお風呂はいる〜」

「え? そ、それは不味いんじゃないかな……」

「どおして〜? どおして〜、不味いの〜?」

「え…。そ、それは……」

「不味くないなら、はいろ〜よ〜」

 アスカが僕のズボンを掴んで、おねだりする。

 さっきまでのおねだりなら、わからない話でもないけど、今回のおねだりはちょっと……。

 それにアスカって見た目、小学校低学年っぽくても、確か同い年だったはず。

 やっぱり、同い年の子とシャワー浴びるのは、問題多いよ…。

「ほら、アスカは1人ではいれるんだろ?」

「……1人で入っても、寂しいもん……」

 眼を伏せてアスカは、さみしそうに呟く。

 うっ……。それは……僕も、寂しかったよ……。アスカくらいの時には、確かに寂しかったなあ……。

 でも、だからと言って、アスカとシャワーを浴びるのは……ちょっと、ねぇ…。

「チンジ、アタチの事…嫌いなんだ……」

「違うよ……。嫌いじゃないよ…」

「じゃあ、はいろ〜。ね〜、良いでしょ〜?」

 アスカは、にこやかな笑みで僕を見る。

 だ、だめだ……。この笑顔に……逆らえないよ。

「わ、判ったけど……。ただし、タオル巻いてよ……」

「うん! やったぁ〜」

 アスカは、何度も飛び上がるように喜んだ。

 ま、まあ……シャワー浴びるだけだし……。

 何もないよ……うん。

 

 

 と、まあ……シャワーを浴びることになったんだけど……。

 やっぱり、逃げようかな……。

 それを見透かしているのか、先にシャワールームに入っているアスカが声を出してきた。

「チンジ。はいろ〜よ〜」

「う、うん……」

 僕は情けないと思いながら、腰にタオルを巻いてシャワールームに入った。

 すると、僕の視界が塞がれた。

「あつー!」

「えへへ〜。おどろいた〜?」

 アスカがシャワーノズルを僕の顔に向けて、お湯を出していた。

 とうぜん、それに驚く僕は声を上げるしかない。

 そんな様子をアスカは、笑いながらシャワーノズルを僕に向けていた。

「もうイタズラはしないの」

「ごめ〜ん」

 ペロッと、舌を出して謝るアスカ。

 笑った顔よりも、良いと思ってしまう自分が情けなくなってきそうだ。

「それじゃあ、身体洗おうね」

「は〜い」

 

 

 その後は、別に可笑しな事がおきることは無く、シャワールームでの出来事は終わった。

 パジャマ姿のアスカは、僕がタオルで髪についた水滴をふきとっている間、嬉しそうな顔をしている。

 そして、髪がある程度乾いてから、アスカはベッドルームに走り出した。

 

 僕がベッドルームに行くと、アスカは嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねていた。

「じゃあ、チンジ寝よ〜」

「そうだね」

 当初、アスカだけが泊まる予定だった為に、シングルの部屋が用意されていたらしい。

 それをツインの部屋に替えてもらってるから、僕はアスカが飛び跳ねているベッドとは別のベットの上に座る。

「む〜、ちがうの〜」

「へ?」

「こっちなの〜」

「え?」

 アスカは、自分が座っているベッドの方を叩く。

 叩く……? それって、そっちで寝ろって事?

 僕が迷っている様子を見せると、アスカは頬を膨らませる。

「む〜、チンジはアタチの事、嫌いなの〜?」

 いや……こればっかりは、嫌いとか言う問題じゃなくて……。

「そうじゃないけど……」

「じゃあ、ねよ〜よ〜」

「わかった。わかったよ」

「じゃあ、ここ。ここ」

 アスカはベッドの半分を開けて僕を招き入れた。

 その空いた場所に僕は身体をいれるとアスカは嬉しそうな顔をする。

 そして、数分もしないうちに眠りについた。

 

 アスカの寝息は規則正しく、スヤスヤと眠っている。

 まだ乾き切ってない髪を触りながら、僕はアスカがどう言う娘なのか、今は考えないことにした。

 ただ、アスカも寂しいところがあると思うと、僕は何も言えなくなったから…。

 

 そう思っていると、アスカはゴロンと、寝返りをうった。

 アスカは、嬉しそうな顔をして眠っている様子がわかる。

「みゅ〜、へへへ〜」

 やっぱり、可愛い……かな?

 

 

<おしまい>

 


(2001年5月6日発表)

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