小沢一郎・旧自由党党首、キーパーソンに復活

「今回の選挙の収穫は、国民が投票所に行けば政権交代は可能と分かったことだ」
毎日新聞 11月19日
自民党と民主党のどちらが勝ったのか、いま一つはっきりしない結果だった総選挙。そんな中で、小沢一郎・旧自由党党首(61)が完全に政界のキーパーソンに復活したことだけは間違いない。細川護煕政権から10年、打倒自民党は目前なのか。小沢氏は意気軒高だった。【松田喬和、山田道子】◇今回の選挙の収穫は、国民は投票所に行けば政権交代が可能と分かったことだ

――総選挙の結果をどのように見ていますか。
◆民主党は過半数まではいかなくても第1党になれると思っていたけれど、結局投票率が低かったために177議席に終わった。低投票率の原因は、民主党サイドから言うと二つ。まず、マニフェスト(政権公約)選挙には持ち込んだが、民主党のマニフェストの3分の1は玉虫色だった。自民党はそこをとらえて「結局うちと一緒じゃないか」という戦術に出た。同じ玉虫色なら、実績がある自民党の方がいいとなるでしょう。次に、比例代表では勝っていながら小選挙区では負けるというあり得ないことが起きたのは、議員の日常活動が足りないことに尽きる。自民党議員は何もしなくても選挙活動だけは一生懸命やる。民主党議員はその10分の1しかやってないね。国民サイドの原因としては、言葉では政権交代を意識していたけれど、世論調査で明らかなように、6〜7割の国民は結局自民党が勝つと思っていたことが、投票所への足をにぶらせた。でも逆に、国民はちゃんと投票所に行けば政権交代が十分可能だということが分かった。これが今回の選挙で一番大きな収穫だ。だから次の選挙は投票率が上がると思うね。

――そうすると民主党の今後の課題は何ですか。
◆政策面では、もう少し骨太で明快な結論を国民に提示することだ。PKO(国連平和維持活動)やPKF(国連平和維持軍)に参加すると言いながら、国連決議に基づく多国籍軍にどう対応するかは全く触れていない。基礎年金の財源に消費税を充てるというが、お金に色はついていない。消費税を特定財源にしてすべて福祉に回すというような分かりやすい整理をしないと、自民党に攻撃される。教育基本法改正の賛否も明確にすべきだし、憲法も「創憲」や「論憲」では、公明党と同じだ。そして、明快な政策を日常活動でしっかり国民に伝えることだ。

――自民党ですが、毎日新聞の調査では公明党の選挙協力がなければ、小選挙区当選者の半分は落選でした。
◆自民党の公明党依存症はかなり深刻だ。時代の変化で支持基盤が崩壊してきているところへ公明党依存症が加わり、自民党そのものがメルトダウンしている。依存症は応急処置で痛みを和らげる程度だ。

――保守新党の自民党合流で自公2党連立になりました。
◆やりやすいね、逆にこっちは。国民も判断しやすいだろう。公明党依存症になった自民党政権を継続させるのかどうかを問えばいいのだから。

――内閣支持率は高く経済指標も持ち直したのに、自民党の議席は伸び悩みましたね。
◆小泉人気はタレントの人気だもの。悪役をやっつける月光仮面がいいという程度だ。小泉政権のメッキがはがれてきたことは間違いない。経済だって、大企業だけが生き残っても日本経済全体の再生にはならない。次の総選挙は小泉退陣の時、それしかない。そういう事態が意外と早く来るのではないか。

――政界再編の見通しは?
◆まず総選挙で民主党が勝って政権交代することだ。自民党は野党に転落すれば自然とつぶれるから。でも自民党がなくなって、民主党だけになってもだめ。僕は、グローバリゼーションの中で理念的には、フリー、フェア、オープンという原則を尊重する自立社会を作ろうという外向きの発想を持つ政党と、一方で旧来通り内向きで互助を尊重する日本的発想の政党があるのがいいと思っている。

――来夏の参院選までに転換期は訪れますか。
◆選挙という面だけで言うと、今のままでは民主党は勝てない。第一、候補者さえ決まっていない。でも参院選までに、小泉政権が口先だけでごまかしきれない状況になるだろう。そこで破たんしたら小泉退陣しかない。そこで政権交代をして、解散すればいい。それが憲政の常道だ。

――イラク問題への対処も混迷を極めていますね。
◆自衛隊を派遣して死んだらどうなるだろうとオロオロしているだけだ。小泉純一郎首相はアメリカで評判がいいそうだが、親日家のアーミテージ国務副長官でさえ「ティーパーティーに行くんじゃない」と怒っている。おもちゃの兵隊さんごっこをしているんじゃないぞ、ということだろう。自分の手は汚さずに、口先だけでアメリカの機嫌を取っていればいいという姿勢を見抜かれている。

――民主党は安保問題で党内がまとまりますか。
◆そこは党内論議をしようと思う。旧社会党系の人だって、議論すれば分かってくれる。たとえ国連の活動であっても武力行使は一切認めないというのなら民主党にいる必要はない。あとは、菅直人代表が決断するだけだ。一人二人が声高に反対しただけで決められないというのでは、リーダーではない。「それが民主党の文化だ。あなたとは違う」と反論されるが、そんなのは民主党の文化でない。自民党の文化であり、日本の談合社会の文化だ。もっと論理的・合理的な発想と決断力、実行力を持った政党に変わらなくてはならない。

――そのためには小沢さんが一兵卒ではなくて、もっと前に出るべきではないですか?

◆僕は「次の内閣」の副総理、それで十分だ。政策的なことや理念的なことは言う。国会対策とか細かい類(たぐい)はどうでもいい。

――非自民の細川政権以来の流れの中で、今の民主党をどのように位置付けますか?
◆僕らが自民党を出ることによってできたのが細川政権だ。それだけでは不十分だから、非自民が結束してやろうと新進党を作った。ものすごいチャンスだったけれど、党内のまとまりが悪いことでイメージダウンし、96年の総選挙では1万票以内の差で70議席も落とし、自民党に負けた。その意味で、与党と野党が本当に総選挙でケリをつけるという試みは今回が最初だ。◇真紀子氏、個人で動くのは惜しい

――新進党との違いは?
◆まず、党内に創価学会がいないことだ。次に、新進党では僕が選ばれた党首選を境に、羽田孜元首相や細川さんが反主流だと言って派閥を作った。僕は彼らに一緒にやろうと一生懸命頼んだけれども、ダメだった。その結果、党内がゴタゴタしているというイメージを国民に与えた。だから今回僕は、一兵卒。その方が「党内一致結束してやろう」と言いやすい。新進党の時よりはるかにいい。

――田中真紀子さんが民主党の衆院会派に入りましたね。
◆彼女が個人で動きまわるのは惜しい。全国的に支持者がいるんだから、それを活用しない手はないね。連携というと政局がらみに受け取られるけれど、そうではなくて、小泉政権ではだめ、自民党はだめだという人であれば、みんなで力を合わせて倒せばいい。

――日本の核武装についてはどう考えますか。

◆愚論だね。核武装は日本の安全保障にとって、軍事的にも政治的にもマイナスだけだ。日本が核武装したら、韓国をはじめ周辺国が核武装して、軍事的緊張は高まる。政治的には、日本が核武装をすると言ったとたんに、日米関係や日中関係がすべて悪化する。科学技術面から言っても、核武装は古いんだ。

――振り返って、民主党との合併にせよ政局の潮流を読むのがやはりうまいですね。

◆僕の主張は早過ぎるというか、日本人が遅すぎるんだよね。日本人は将来を見通して決断することをしない。変えるのが嫌いなんだ。でもやっとこの10年で、このままでは日本は墜落するということが分かってきた。次の総選挙で変わらなかったら、おしまいだ。今度政権交代ができなければ、僕は政治家なんか辞めて田舎でのんびりする。でも今は、民主党とか小沢一郎個人の将来ではなくて、お国の運命の分かれ道だ。だからここ数年は、もうちょっと頑張ろうと思っている。■写真説明 小沢氏はにこやかにインタビューに答えた=山下浩一写す
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