最後の理由として、制裁の結果、北朝鮮が崩壊ないし暴発した時のコストが指摘できる。崩壊にしろ暴発にしろ、その結果何が待ち受けているかというと、中国への大量の難民の流入であり、韓国による朝鮮半島の統一国家形成であろう。
仮に暴発が第2次朝鮮戦争になった場合、北朝鮮に長期継戦能力はないし、通常戦力では韓国が圧倒しているから北朝鮮に勝ち目はない。中国は難民対策のコストを背負わされるうえに、韓国を通じて拡大する米軍の影響力に対峙しなければならなくなる。
黄海、東シナ海における中国の海上権益にも影響が出よう。そうであるならば、中国にとってどのような形であれ北朝鮮が存続した方が都合がいい。制裁などもっての他であって、食糧・エネルギーの供与を続けるのが望ましいということになる。
時間稼ぎの場になっていた6カ国協議
しかし、中国側にいかなる理由があれ、北朝鮮に対する制裁決議が実効性を伴わないものになってしまうのは、日本として受け入れられない。
もちろん、制裁の強化だけで北朝鮮が核とミサイルを手放すとも思えない。今回の制裁決議において、「平和的対話を支持し、北朝鮮に即時、無条件に6カ国協議に復帰することを求め」(決議文第30段落)ているのは、まだ交渉によって北朝鮮の核放棄の可能性を探る余地を残しておくべきだという点で、国連安保理の意見が一致しているからだ。
制裁は北朝鮮を交渉の場に戻すための圧力であり、そのために中国にはあらゆるチャンネルを使い、北朝鮮に圧力をかける行動が求められる。
中国は2003年春、6カ国協議開始をにらんで、北朝鮮に石油を送るパイプラインを止め、圧力をかけて北朝鮮を協議の場に引っ張り出した実績がある。中国の北朝鮮に対する影響力は確実に存在するのだ。
2006年10月の最初の核実験の後、北朝鮮は国際的な制裁に直面し、危機回避のため6カ国協議に復帰した。
中国共産党中央党校の教授で、中国における北朝鮮問題の権威の1人、張璉瑰氏によれば、「北朝鮮は、6カ国協議が継続されてさえいれば宥和政策が支持され、自分たちが安全だと知っている」からだという。つまり、北朝鮮は避難場所、時間稼ぎの場として6カ国協議の場を利用してきたことになる。それは6カ国協議の他のメンバーへの裏切り行為を積み重ねてきたことに他ならない。
そうであればなおさらのこと、厳しい制裁を行いながらも、北朝鮮がまた6カ国協議の場に戻ってくる可能性を排除すべきではない。そして交渉の場で、今度ばかりは北朝鮮の背信を許さず、厳格な核放棄プロセスを飲ませなければならない。
中国は6カ国協議の議長国であるというだけでなく、長年にわたり北朝鮮を「擁護」してきた。それゆえに、まさに今、北朝鮮に対する影響力が問われることになる。
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