昨年5月に「国民の健康の増進を図り、国民保健の向上を図ることを目的」として、「健康増進法」が施行されました。その第二十五条に非喫煙者をタバコの煙から保護するため「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と規定されています。この法律は、今まで曖昧であった受動喫煙の被害を生じさせないようにする義務を、その場所を管理する事業主に課したものです。そして、その責任者は、その施設が完全な分煙になっていなかったため生じた非喫煙者の職員や客の急性、慢性のタバコによる健康被害に対し、その責任を追及される可能性が生じました。当院でもその趣旨に沿って、昨年4月より全館禁煙としております。
すでに新聞などでご存知の先生方も多いと思いますが、職場での分煙を要求したのに改善されず、受動喫煙で健康被害を受けたとして、東京都江戸川区職員が区に約30万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は12日、区の安全配慮が不十分だったとして5万円の支払いを命じました。江戸川区は控訴しない方針で判決が確定しています。判決理由で裁判長は「職場の施設を管理する区は、受動喫煙から原告の生命、健康を保護するよう配慮する義務を負う」と指摘しています。たばこ被害をめぐる訴訟で賠償を命じた判決は初めてで、健康増進法施行後の事案なら、なおさら賠償責任が問われやすいと考えられています。今やたばこが健康被害を引き起こすのは社会の共通認識になったということで、今後禁煙・分煙の流れがさらに加速するものと思われます。この法律に沿った具体的な分煙方法については、厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/06/h0607-3.htmlを参照下さい。
この法律の趣旨に沿って学校においても全国的に学校内全面禁煙の学校が増えてきています。広島市で平成15年度2学期から市立の幼稚園、小中高校、養護学校計234校で敷地内禁煙化を決定されたことは記憶に新しいことと存じます。われわれの病院のある福山市においてもすでに99校の小中学校のうち39校で実施されています。しかし、学校での禁煙を進める意義は別のところにあります。喫煙者の半数以上は未成年期にタバコを始めます。そしてニコチン依存症となり、最後はタバコ病となり命を縮めます。未成年者はすぐには病気になりませんからタバコの害を体で実感しません。できるだけ若いうちに、できれば小中学校のときにタバコの害を教え込むこと、そして最初の1本に手を出させないことが非常に重要なのです。タバコの有害性は成人には理解され始め、若い女性を除き喫煙率は低下しています。しかしタバコの総売上本数は減少していません。その原因は恐ろしいことに未成年者喫煙の増加にあると言われています。これは将来の国民の健康を考える上で由々しきことです。学校で先生方がタバコの害を正しく理解し生徒に教えるだけでなく、自分も吸わない姿勢を示すこと、タバコは大人になっても吸ってはいけないものだということを身をもって示すことに大きな意味があるのです。
タバコ対策へのもう一つの朗報は、6月8日わが国が「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(いわゆるWHO「たばこ規制枠組み条約」)を世界で19番目に批准したことです。この条約はたばこの消費等が健康に及ぼす悪影響から現在および将来の世代を保護することを目的としており、これまで各国が個別に実施していたタバコ対策について国際協力の枠組みを与える第一歩で、タバコの健康問題に関する世界共通の認識とルールが生まれることになります。この条約は40カ国が締結した日の後90日目に効力が発生し、(1)屋内の職場、公共輸送機関、屋内の公共の場所等において、受動喫煙防止などの効果的取り組みを行うこと、(2)たばこ製品の包装・ラベル表示の見直し(ライト、マイルド等形容的表現の抑制)、(3)たばこの包装・ラベルの表示面積の30%以上を使って、健康に関する警告文をつけること(たばこの含有物や排出物についての情報も含める)、(4)たばこの広告・販売促進などの制限または禁止、(5)未成年者に対するたばこ販売を禁止するため効果的な処置を実施すること、などを義務付けています。年内に批准国が40を超すのは確実といわれており、今年度中に発効する予定です。今後のわが国のタバコの健康対策にとって画期的な節目になるものと期待されます。 |