【第25回】 2009年07月27日
拉致問題、もはや萎縮などしている場合じゃない
ではなぜ日本政府は、北朝鮮政府との約束を何度も破ってきたのかといえば、拉致問題をきっかけにして、「北朝鮮を許すな」式の国内世論が、激しく高揚したためだ。
2002年9月17日、小泉首相の訪朝以降、拉致問題はこの国の重要なイシューであり続けた。それはまた、この国の政府とメディアが、家族会と救う会に対して、激しく萎縮し続けた時期でもある。その帰結として日本政府は、北朝鮮政府と交わした国交正常化や経済援助などの約束を、結果としてすべて反故にした。
度重なる裏切りにあきれた北朝鮮は、日本との交渉に意欲をなくし、同時に追い詰められ、制裁によって危機意識を煽られ、国家存亡の危機とばかりに、周囲への敵意を強めてきた。国際社会から反対されながら核実験まで踏み切った背景には、これほどに捩れきった拉致問題の影響が、少なからず絶対に働いている。
だからもう一度書く。拉致問題は今や、北東アジアの安全保障に直結する問題だ。ならば萎縮などしている場合ではない。あらゆる視点から語られねばならない。あらゆる仮説が検証されねばならない。不謹慎などの言葉を優先させるべきではない。それどころじゃない。このままでは本当に、最悪の事態に発展するかもしれない。多くの人が死ぬかもしれない。決してありえないことではない。
これまでずっと、北朝鮮の脅威を多くの人が語るとき(アメリカのイラク侵攻の際にも、北朝鮮の脅威を理由に、多くの人はアメリカ支持を主張した)、僕はまったく不安など持たなかった。でも今は怖い。不安だ。なぜなら北朝鮮は、この七年間で「国家存亡のとき」という大義を持ってしまった。
今のあの国は、周囲からの脅威や制裁に脅えて、困窮して、不安と恐怖に煽られながら、歯を剥きだして必死に吼えるばかりの犬だ。その犬に、石を投げつけてどうするのだろう。挑発してどうするのだろう。なぜこの国は、かつての自分たちの道筋を思い出さないのだろう。
「今日の発言でオフレコはありますか」
対談終了後に、同席していた編集者が蓮池さんに訊いた。それほどに彼の話は、具体的で衝撃的だった。一瞬の間をおいてから、蓮池さんは「オフレコはありません」と答えた。僕は言った。
「いいんですか? たぶん相当に反発がありますよ。売国奴とか非国民とか」
小さくうなずきながら、蓮池さんはまっすぐに僕の顔を見た。
「そうでしょうね。でも覚悟しています」
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著者プロフィール
- 森達也
(テレビディレクター、映画監督、作家)
1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー 映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。
この連載について
テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!
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