森達也 リアル共同幻想論

このページを印刷

バックナンバー一覧

拉致問題、もはや萎縮などしている場合じゃない

 「貴殿は4月25日に放映された番組「朝まで生テレビ」のなかで、「横田めぐみさんと有本恵子さんは生きているという前提で」行う現在の日本政府の交渉をまともでないと誹謗し、「外務省も生きてないことは分かっているが、生きていないという交渉をするとこてんぱんにやられる。田中均が爆発物を投げ込まれた」と話して、横田めぐみさん、有本恵子さんの死亡を既成事実のように扱った。その上で、娘の生存を信じていのちがけで救出運動に取り組んでいる横田・有本両ご夫妻をはじめとする家族会・救う会が、過激な行動で異論を封じているかのように述べた。貴殿の言動からは同胞である拉致被害者を助け出すという意思が全く感じられない。

 貴殿は雑誌「世界」昨年7月号で「北朝鮮側が“死亡した”と発表した8人を“生きている”と主張している日本側に無理があるのではないか。(中略)私は、いつまでも頑迷にフィクションの部分にこだわって圧力一辺倒をつづけるのではなく、現実的な交渉をすすめるべきだと思う」と書いている。そこで貴殿が挙げた「根拠」は、北朝鮮の宋日昊大使と6時間話して聞いたことだけである。

 (中略)確実な根拠も示さず被害者死亡説を公共の電波を使ってまき散らしたとすれば、著しい人命軽視であり、家族と多くの国民の気持ちを踏みにじるものだ。ここに強く抗議する。」

 番組は僕も観た。「世界」も読んだ。そのうえで書くけれど、「圧力一辺倒を続けるのではなく、現実的な交渉を進めるべきだと思う」との趣旨に、基本的には同意する。政府の施策に異議を唱える行為に対しては、普通なら「誹謗」ではなく「批判」という言葉を使う。「まき散らす」とか「踏みにじる」とか、あまりに感情的な述語が、この抗議書には多すぎる。

 もちろん僕には、横田めぐみさんと有本恵子さんの今の状況はわからない。だから田原さんの発言が事実かどうかの判断はできない。でもそれは問題ではない。問題にすべきではない。

 なぜなら拉致問題は、もはや、日本国内だけの問題ではない。北東アジアの安全保障に関わる問題だ。これまで日本政府が、何度も北朝鮮政府との約束を破ってきたことを、蓮池さんはインタビューでも述べている。僕に語ってもくれた。もしも蓮池さんの言うとおりの経過ならば、北朝鮮政府が、これほどに誠意のない日本とはもう交渉できないと考えることも当然だ。

おすすめ関連記事

ソーシャルブックマークへ投稿: このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をYahoo!ブックマークに投稿 この記事をBuzzurlに投稿 この記事をトピックイットに投稿 この記事をlivedoorクリップに投稿 この記事をnewsingに投稿 この記事をdel.icio.usに投稿

Special Topics

バックナンバー

Pick Up

公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略

売上高4兆円で足踏み! ドコモ「一人負け」はなぜ止まらないのか

今回は、前回のソフトバンクに引き続き、ドコモを取り上げる。直‥

農業開国論 山下一仁

農政を食管法時代の昔へと戻しかねない 「トレーサビリティ法」という天下の悪法

汚染米問題の再発防止策として今年4月に成立した「米トレーサビ‥

経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”

自民党・霞が関に操られるメディア 民主党マニフェスト批判の本当の理由

総選挙に向けた民主党のマニフェストが大手メディアから集中砲火‥

週刊ダイヤモンド 企業特集

日本航空(下) 政府保証融資の次は公的資本注入か 再建シナリオの全貌と赤字構造

「自主再建」の看板を下ろし、6月末に公的支援の下で資金調達を‥

売上アップの近道

「インターネット広告」で効率的にビジネス拡大

中小・地方企業にも大きなメリット、検索連動型広告

新着トピックス

岸博幸のクリエイティブ国富論
“脱官僚”の方法論を勘違いしている 民主党マニフェストの本当の問題点
追跡!AtoZ ~いま一番知りたいテーマを追う!超リアルドキュメント
技術か? コスト競争か? 国家も巻き込んだ、「日本の製造業」生き残りへの戦い
inside
いまや世界最大の自動車市場 中国で日産が思いがけぬ大躍進
手打ち蕎麦屋のオーラを味わう
[特別編]新橋 割烹「ひろ作」――ミシュランの星を飾る料理人は、蕎麦にも星を飾ります
山崎元のマネー経済の歩き方
公的年金巨額損失のどこが問題か
起業人
来店型ショップで日本最大級に成長 保険販売の流通革命に挑む風雲児 アイリックコーポレーション社長 勝本竜二
アマデウスたち
福原美穂 スターダムを駆け上がる「奇跡の子」
これが気になる!
脳波で電動車椅子を動かせるシステムが実用化
富裕層の日常
発表!東京の高級マンション最新調査
堀尾研仁の“使える!ゴルフ学”
【第4回】アマチュアゴルファーのお悩み解決セミナー Lesson4「腕の付け根、ヒザ頭、拇指丘が一直線になる構えをつくろう」
効率的にビジネスを拡大
今伸びている中小・地方企業が顧客を増やせた理由はここにあった!
特別寄稿
変貌するウェブ・マーケティング―ウェブ解析技術の進歩が動的かつ戦略的なマーケティングを可能にする

最新の連載一覧

すべての連載

特集を見る

Diamond Premium 最新記事 無料会員登録すると全文が読めます

週刊ダイヤモンド 企業特集
日本航空(下) 政府保証融資の次は公的資本注入か 再建シナリオの全貌と赤字構造
News&Analysis
花嫁たちの「お城」が崩壊の危機!? 婚活ブームでも勢い衰えるブライダル業界
金融市場異論百出
話題曲「インフレーション、それともデフレーション?」
ビジネスモデルの破壊者たち
アップルのスティーブ・ジョブズは、 長い闘病生活の間に何を考えていたのか?
「黒船」グーグルが日本に迫るデジタル開国
グーグル和解案は、デジタルならではの利用方法を提唱するもの
原英次郎の「強い中堅企業はここが違う!」 トップに聞く逆境の経営道
原発からライター用まで1本から受注! 世界が認めた東海バネの職人芸×IT経営 渡辺良機 東海バネ工業社長に聞く(前編)
為替市場透視眼鏡
リスクラリーが一服した後は ファンダメンタルズの再評価
景気は底打ち、しかし実感は…。「逆境を克服する企業力」
コスト削減と収益確保、人材の育成や環境整備と、たえず忙しい中小企業に成長のヒントを提供中。

著者プロフィール

森達也
(テレビディレクター、映画監督、作家)

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー 映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。

この連載について

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

Recommend 話題の記事

週刊・上杉隆
民主党マニフェストに“ダメ出し”するのがメディアの仕事か?
ビジネスモデルの破壊者たち
アップルのスティーブ・ジョブズは、 長い闘病生活の間に何を考えていたのか?
民主党政権が実現すると、何がどう変わるか? 神保哲生
国民総背番号制で税金・社会保険料を徴収。実は強面な「3つのフェアネス」政策
「会社のワガママちゃん」対処法
無意識に上司を挑発するワガママちゃんに 振り回されない鍵は、“心の余裕”にあり
News&Analysis
花嫁たちの「お城」が崩壊の危機!? 婚活ブームでも勢い衰えるブライダル業界
山崎元のマルチスコープ
民主党マニフェスト、強味も弱点も「年金」にあり
inside
中国「家電下郷」政策拡大で海外テレビメーカーに逆風
辻広雅文 プリズム+one
「官僚たちの夏」というセンチメンタルジャーニーの危険
「黒船」グーグルが日本に迫るデジタル開国
グーグル和解案は、デジタルならではの利用方法を提唱するもの
News&Analysis
再編・淘汰の市場で巻き返しなるか? フィットネス各社が模索する「勝利の法則」

雑誌定期購読のご案内


詳しくはこちら

特大号・特別定価号を含め、1年間(50冊)市価概算34,500円が、定期購読サービスをご利用いただくと25,000円(送料込み)。9,500円、約13冊分お得です。さらに3年購読なら最大49%OFF。


詳しくはこちら

1冊2,000円が、通常3年購読で1,333円(送料込み)。割引率約33%、およそ12冊分もお得です。
特集によっては、品切れも発生します。定期購読なら買い逃しがありません。


詳しくはこちら

「ザイ」は年間12冊を予約購読すると、市販価格 7,200円→6,600円(税・送料込み)で、1冊分お得。
※別冊・臨時増刊号は含みません。


詳しくはこちら

偶数月の1日発売(隔月刊)。1年購読(6冊)すると、市販価格 5,880円→4,700円(税・送料込)で、20%の割引!
※別冊・臨時増刊号は含みません。

お知らせ・ご案内

会員専用ページ開始のお知らせ
7月より一部の記事で、無料会員登録した方だけが全文を読める形に変わりました。詳細はこちらをご覧ください。