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社説

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論点・安心と負担4―めざす国のサイズを示せ

 自民党も民主党も総選挙に向けて多くの政策を訴えているが、肝心の点が抜け落ちてはいないか。「国のかたち」の骨格となる財政の大きな絵姿だ。それを示さない限り、安心社会を築く裏付けは到底得られない。

 そこで、このシリーズの最後に提案したい。各党がめざす「国のかたち」は一体いかなるサイズなのか。わかりやすく示してほしい。どれほどの公共サービスを受けるために、どのくらいの税金を払うことになるのかを国民が知るためである。

 わかりやすい指標としては、政府の一般会計予算がある。国民負担と行政サービス水準が凝縮されている数字だ。あえて単純化すると、毎年度の支出(歳出)が80兆円、収入(税収)が50兆円というのが平時の姿である。差額の30兆円は赤字で、新たな借金でまかなわねばならない。

 この不健全な状態が続いてきたため、積み上がった国と地方の借金は800兆円。財政状態は主要国で最悪だ。早期に立て直さなければ、将来世代に重い国民負担がのしかかる。

 問題は歳出と税収をどの水準で均衡させるかだ。歳出を削るか、増税するか。あるいは両方の合わせ技か。

 だがこれまでどの方法を選ぶのかを明確に示した政権はなかった。

 「小さな政府」を掲げた小泉政権も例外ではない。歳出削減と減税を進め、あとは民間部門の成長による税収の自然増に期待しただけだ。抜本的均衡策も、めざすべき均衡水準も示してはいない。麻生政権はその小泉路線を修正し、膨張する社会保障費の抑制の手をゆるめた。つまり80兆円の膨張を許したのだが、財源をまかなう増税には動かず、赤字が膨らんだ。

 民主党も「80兆円と50兆円」の構造問題を避けている。予算の無駄の削減を大胆に進めるというが、それで生みだす財源を別の政策に使う「組み替え」路線だ。基本的に80兆円は減らない。消費税を4年間上げない方針なので、税収を大きく増やす方策もない。

 国内総生産(GDP)に占める歳出、歳入の比率を比べると、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中、日本はいずれも最も低いグループに属する。実は世界では米国に近い「小さな政府」なのだ。中くらいの水準の欧州主要国を参考にすれば、公共サービスの水準をもっと引き上げるという選択肢も今後は大いにありうる。

 だがそうするにもまず、「80兆円と50兆円」の構造問題を解く筋道を描くことが前提だ。仮に歳出の無駄を10兆円削って70兆円まで圧縮しても、均衡させるには20兆円の税収増が必要だ。これは消費税7〜8%分に当たる。

 増税か、公共サービス削減か、合わせ技か。自民党も民主党も、「示したくない」ではすまされない。

18歳成人―実現へ課題克服の努力を

 20歳になれば、親の承諾がなくても携帯電話や通信販売などの契約ができるし、結婚もできる。20歳をもって成年とする、という民法の規定があるからだ。

 これを18歳に引き下げるべきだ。法相の諮問機関である法制審議会の部会が、そんな報告をまとめた。

 ことの始まりは、憲法改正に必要な国民投票の手続きを定めた法律が、投票年齢を18歳以上としたことだ。併せて、民法の成人年齢規定や20歳から選挙権を認めた公職選挙法の見直しを検討することになった。

 今回の報告書は民法に限っての検討をまとめたもので、妥当な判断だと思う。選挙権の年齢も引き下げることが前提になっている。こちらの方の検討も急いでもらいたい。

 欧米など多くの国々では、選挙権や成人年齢は18歳となっている。こうした国と比べ、日本の若者の成長がとくに遅いとも思えない。憲法改正の判断はできるのに、国政選挙などの投票は認めないというのも無理がある。

 少子高齢化が進む中で、税金や社会保険の負担は若い世代の肩に重くのしかかっている。彼らの声をより広く、政治に反映したい。

 ただ、世論調査では、こうした年齢の引き下げには反対論が結構多い。

 まだ自立していない。未成熟。そんな印象が根強いのだろう。だが、20歳をとうに過ぎても子どものような態度が抜けない大人はいる。

 そもそも20歳を成人と定めたのは明治時代だ。それからの教育制度の発展や民主主義の成熟といった社会や政治の激変を考えれば、20歳という線引きがどこまで有効なのか、疑わしい。

 成人しても親離れしない子ども、あるいは子離れしない親もいるだろう。成人年齢の引き下げをきっかけに、精神的にも経済的にも自立した個人を増やす社会につなげたい。

 それには、政府も国民もそれなりの費用と努力を払う覚悟がいる。家庭や学校で、18歳を目標に据えて、子どもたちの成長を促していく仕組みや制度を作り上げる必要がある。

 法制審部会の報告書は、悪質なマルチ商法などの被害者にならないよう、消費者教育と支援制度の充実を提言している。こうした手だてもしっかり講じなければならない。

 民法以外にも、成人年齢が関係する法令は300を超す。飲酒や喫煙も18歳から認めるのか。少年法の対象から18・19歳を除くべきか。年齢だけでは割り切れない事情も絡む。一律に整合性を求めることはないだろう。

 報告書は、いつから成人年齢を引き下げるかは国会の判断に委ねた。丁寧な合意づくりが大事だというのはもっともだが、実現に向けて課題を乗り越える積極的な努力を国会はすべきだ。

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