毛馬一三
◆<本稿は、全国版メルマガ「頂門の一針」1624号(本日刊)に掲載されました。同号目次は下記に記載、同号のご拝読を!>
大阪府立上方演芸資料館「ワッハ上方」の移転をめぐり、橋下大阪府知事と家主の吉本興業との間でバトルが浮上してきている。
ことの起こりは、ビル賃貸料が高すぎるとして「ワッハ上方」を大阪名所・新世界の通天閣(大阪市浪速区)へ移転させる意向を突然公表したことから、ビルの家主・吉本興業が「一方的な発表には遺憾の意を表する」と抗議したことから始まった。
この抗議に対して橋下知事は、すぐさま「移転には府民の99.999%が賛成している。抗議は、府民に『自分たちの賃料だけはくれ』と言っているということだ。吉本さんはあまりにもお金に“がめつい”のではないか」と反論したのだ。
確かに、橋下知事は就任直後から危機的な府財政再建に取り組み、職員の給与カットや不要な府施設の廃止、各種事業の縮小などを強行する一方、国に対しても「地方分権」を主張して府の無駄な出費を食い止めるなど、府財政改革に際立った成果を上げている。
だから知事としては、年間約2億8000万円に上る賃料の「ワッハ上方」を、年間僅か1800万円で借りることの可能な通天閣に移転すれば、財政改革を目指す橋下府政が府民の評価を受けることは必至と進めだした秘策だったのだ。
しかも賃料が極端に安いだけでなく、大阪観光名所の通天閣とそこに同居する「お笑い殿堂・ワッハ上方」の名声とが結びつけば、他府県からの集客効果も上がり、諸所から聞こえてくる移転そのものに反対する意見も、それとなくかわすこと出来ると読んでいる。
だが、吉本興業の抗議には強固な姿勢が浮き彫りになってきており、両者のバトルは、そう簡単には沈静化しそうにはない。
というのも第一、「ワッハ上方」のビル賃貸の契約期間は、15年となっていることだ。「ワッハ上方」が開館したのが、平成8年11月14日だから、契約上では、大阪府は平成23年まで同ビルを賃貸しなければならない責務がある。
中でも「ワッハ上方」の4階演芸ホールは、大阪府の要請で特別仕様とした壁、床、天井の作りは、契約解除の時点で「鉄骨状態」に戻すスケルトン条項を遵守しなければならないことが契約に盛り込んである。これを放置した契約解除は有り得ない。
つまりこうした契約内容が事実上黙殺され、些かの告知なしに「一方的移転」を公表した大阪府の姿勢に、吉本興業側としては納得いかないという主張である。
しかも吉本興業が、「損害については適切な補償を求める」と抗議の中で暗に訴訟も辞さないという態度を示したのは、2年を残したまま一方的な賃貸契約の打ち切りにより生じる賃貸料の赤字については、大阪府に補償を求めるという意味に他ならない。
年間2億6千余万円も節約できる通天閣移転が、府財政改革に多大な貢献を果たすと信じている橋下知事と、土地買収費、ビル建築費を全額負担し、且つ賃貸料金を値下げに応じてきた吉本興業側との間は、契約打ち切り問題も絡み、事態は深刻だ。
となれば、この契約に対する両者の歩み寄りがなければ、知事の目指す「移転」は簡単に運ぶことにはならない。
実は、契約を結んだのは、知事就任直後の横山ノック氏(故人)だが、事実上の契約締結者は、ノック知事の前任者の中川和雄元知事と谷川秀善副知事(現参議院議員)だ。中川元知事は、谷川副知事と共に吉本興業の中邨秀雄社長(当時)と規約書の内容を詰めた人物である。
私は、2005年5月に拙著「ワッハ上方を作った男たち」(西日本出版社)を発刊したが、そのドキュメント小説の中に、契約の経緯やこれに関わった人物像を克明に綴っているので、ご一読頂ければその辺りはご理解頂ける筈だ。
そうした事情を知るために橋下知事は、中川元知事と谷川参院議員と会い、契約の経緯や大阪府の取るべき立場を相談することになるだろう。
全国知事会であれほど執拗に主張していた「支持政党表明」を、態勢を見極めるとただちに同主張を取り下げるなど、橋下知事の政治判断に基づく行動は素早い。
となれば、府財政改革に避けて通れない吉本興業との対応にも、これまた“橋下流”の素早さを作用させて府民を驚かす結果を導き出すのではないだろうか(了)2009.07.29
◆本稿が掲載された「頂門の一針」1624号(7月31日・金曜刊)
<同号目次>
・リベラル派は自殺への行進:古森義久
・米でのワクチン接種順位:石岡荘十
・日本が消えている:宮崎正弘
・橋下知事vs吉本興業って?:毛馬一三
・8月期特別フォーラムのお知らせ
・話 の 福 袋
・反 響
・身 辺 雑 記
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http://www.max.hi-ho.ne.jp/azur/ryojiro/chomon.htm
2009年07月31日
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