映画とロケ地、両方の魅力を満載した本に出合った。「瀬戸内シネマ散歩」(鷹取洋二著、吉備人出版)。岡山県内をはじめ香川県や広島県東部で撮影された22作品の“舞台の今”を訪ねている。
出だしは、やはり高梁市だ。「男はつらいよ」シリーズでは48作中2作品でロケ地となった。古い街並みを巡りながら、映画の名シーンが紹介されている。
小津安二郎監督の「東京物語」の尾道市は有名だ。半世紀も前に制作されただけに、様変わりした駅前に著者は戸惑うが、狭い路地などに残る昔ながらの尾道に安堵(あんど)する。同じ小津作品「早春」の舞台として、備前市三石も取り上げられている。巨匠の事跡が岡山県内にもあったとは驚きだ。
最近の作品では2007年公開の「釣りバカ日誌」シリーズ第18作「ハマちゃんスーさん瀬戸の約束」が登場する。倉敷市玉島黒崎の寺と高梁市成羽町の旧家での撮影エピソードが楽しい。
この人気シリーズも年末公開の20作目で終了する。ハマちゃん演じる西田敏行さんは61歳。スーさんの三国連太郎さんは86歳で、4月に心筋梗塞(こうそく)で手術を受けたばかり。もっと釣りを楽しんでほしかったが、ここは潮時か。
フィルムには、撮影された折々の瀬戸内の風景が焼き付けられている。後世に残るロケ地の“記憶”だ。