きょうのコラム「時鐘」 2009年7月31日

 戦後の仏教書ブームを作ったとされる僧侶の松原泰道(たいどう)さんが亡くなった。1907(明治40)年生まれの101歳だった

早稲田入学の年に大隈重信が亡くなったといい「だから大隈さんの謦咳(けいがい)に接することができました」という年齢である(いまをどう生きるのか=致知出版)。100歳は、日本の近現代史そのものといってもいい

老いについて、松原さんは釈迦を例に「法(真理)をそなえている人は心が柔軟で素直ですから老化しないんです」と述べている。無論、若くして亡くなった立派な僧侶もいただろう。市井の人、凡人にもそれぞれの長寿があるだろう

私事で恐縮だが先日、松原さんと同じ明治40年生まれの祖母を介護施設に見舞った。玄関に粋な言葉がある。「90歳でお迎えの来た時は、そう急がずともよいと言え」「99歳でお迎えの来た時は、頃(ころ)をみてこちらからぼつぼつ行くと言え」。気は長く、心は丸くと

102歳の祖母はすやすやと眠っていた。名高い高僧に学ぶように、市井の高齢者にも教えられることは少なくない。1世紀を生きる命は、人間の限りない可能性を思わせるのである。