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【社会】

監獄法廃止 自由増す 千葉刑務所ルポ

2009年7月29日 夕刊

木工作業に専念する受刑者たち。細かい彫刻作品が並ぶ=千葉市若葉区の千葉刑務所で

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 実刑が確定して刑務所に送り込まれた受刑者は、どんな生活を送るのか。罪を償って更生できるのか。高い塀に囲まれた刑務所はうかがい知れない存在だ。戦前から続いた監獄法が二〇〇六年に事実上廃止され、受刑生活は自由度が増して一変したという。市民が参加する裁判員裁判の開始を前に、千葉刑務所(千葉市)を訪ね、刑罰を考えた。 (荒井六貴)

 白の半袖シャツの男性受刑者(36)は、眼鏡越しの視線を床に落としつつ声を振り絞った。「遺族におわびしたい。出所したら(刑務作業で)ためた報奨金を持って、遺族の家に伺いたい」

 北海道で交際していた女性=当時(24)=を殺害したとして懲役十五年を言い渡され、刑期の折り返し点に差しかかる。「後悔している。間違っても二度と事件は起こさない。刑務所に入った人間は再犯をすると見られるのは迷惑だ」と声量を上げた。

 千葉刑務所は一九〇七(明治四十)年に竣工(しゅんこう)。主に刑期八年以上で、初犯など犯罪傾向が進んでいない成人男性の受刑者が服役する。足利事件の冤罪(えんざい)で無期懲役判決を受け、六月に十七年半ぶりに釈放された菅家利和さん(62)も約八年間収容された。

 受刑者は定員を超える約千四百人。平均年齢四十七歳。朝六時半に起床。朝食後の七時半すぎ、刑務作業に当たる。木工や印刷、洋裁、金属加工など内容は多岐にわたる。

 蒸し暑い木工工場では、肌着姿になった受刑者らが彫刻刀やカンナ、キリなどを巧みに操って木彫り細工に専念していた。高価な桐(きり)だんすが並ぶ。一年半がかりで一基二千万円のみこしを手掛けた実績も。

 三十分の運動を挟み、作業は午後四時半ごろ終了。夏季の入浴は週三回各十五分の割り当て。夕食後の七時すぎから就寝の九時までは自由時間。テレビのチャンネルも自由に選べる。休日は丸一日余暇となる。

 三月に完成した単独居室は三畳一間。便器と洗面台の手洗い場が併設され、座卓やテレビがつく。冷暖房はない。〇六年に刑事施設受刑者処遇法が施行され、衣装ケース一箱分の私物を保管できるようになった。

 群馬県でタクシー運転手を狙って起こした強盗殺人罪で無期懲役が確定した男性受刑者(44)は、服役して二十二年。法改正による変化を感じる。「昔はテレビもなかった。今は食事のメニューが豊富になった。毎日運動でき、今はランニングマシンで十分間走っている」

 刑法は、改悛(かいしゅん)の情がある無期刑の受刑者は十年たてば仮釈放が可能と定める。だが「仮釈放までの平均は三十一年十カ月。五十歳くらいで出られれば、働いて遺族に償いたい」と希望を語る。

 刑務所生活の実態は、予想以上にゆとりを感じた。男性も「裁判員は、私たちが楽なことをしていると思うかもしれない」と話した。青空の下、塀の向こうで子どもたちの遊び声が響く。だが、その姿は見えない。

 

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