民主党が衆院選に向けたマニフェスト(政権公約)を発表した。2010〜13年度の4年間で実施する主要政策の工程表を初めて示すなど、政権交代を視野に入れ、踏み込んだ内容となっている。
主要な政策は、中学生以下1人月2万6千円の子ども手当や公立高校実質無償化、農漁業の戸別所得補償制度など家計を直接支援するものだ。確かに子育て世帯などには恩恵となろう。高速道路の無料化やガソリン税の暫定税率廃止も盛り込まれており、特に車が“足”として欠かせない地方には歓迎だ。
工程表では、これらの政策を10年度から4年間の年度ごとの実施計画と必要な金額で示した。政策を段階的に導入していくため、10年度で7兆1千億円、13年度は16兆8千億円が必要になるとしている。09年度当初予算の政策的経費である一般歳出(約51兆円)の3分の1に迫る大きな額だ。
そこで問題となるのが財源だ。マニフェストでは、国の総予算207兆円をターゲットに、予算の組み替えによる無駄根絶、特別会計の「埋蔵金」活用、所得税の配偶者控除の廃止など税制改正に伴う一部世帯の負担増、公共事業の削減といった財源捻出(ねんしゅつ)策を打ち出した。
さらに、政権運営も「官僚主導」から「政治家主導」、「中央集権」から「地域主権」への転換を掲げた。国直轄事業負担金の全廃など、地方側の要望を大幅に取り入れた点は、評価できる。
一方、疑問や懸念も少なくない。新しい政策の具体的な制度設計はこれからとしても、例えば所得と関係なしに一律に手当を配ることは、そのために負担増となる世帯の理解を得られるだろうか。公共事業の削減は不況にあえぐ地方の一層の景気悪化を招きかねないとの指摘もある。中央省庁の抵抗を排除し、官僚をちゃんと使いこなせるか、政治家の力量も問われる。
国家戦略の根幹である外交・安全保障については、「緊密で対等な日米同盟関係をつくる」という表現にとどまり、海上自衛隊のインド洋での給油活動の中止には触れていない。従来の訴えはどうなったのか、引き続き与党から追及されよう。
工程表の明示は、本格的な「マニフェスト選挙」に向けた責任ある姿勢といえる。しかし、広く理解を得るためには、財源確保のための改革の中身や道筋を具体化し、丁寧に説明することが求められる。さらに内容を詰める作業が欠かせない。
科学の新発見は誰も思いつかなかった発想から生まれることがある。医学と宇宙化学という異質の分野の研究が出合い、悪性中皮腫患者の肺組織に高濃度の放射性物質・ラジウムが蓄積することを明らかにした岡山大グループの研究もそうだ。
アスベスト(石綿)繊維が原因とされる中皮腫の発症メカニズムは分かっていない。これまで活性酸素の関与や免疫力の低下などが考えられてきたが、詳細は不明のままだ。
岡山大グループは、アスベスト繊維にタンパク質が付着してできる「アスベスト小体」に着目。隕石(いんせき)や鉱物に含まれる微量元素を調べる機器で分析し、タンパク質中の水酸化鉄から海水中の100万〜1000万倍の高濃度ラジウムを検出した。
体内の正常細胞が長年にわたって「内部被ばく」することでDNAが損傷し、がん細胞に変異する、というのが研究グループの見立てだ。暴露から約40年という中皮腫の潜伏期間の長さもこれで説明できる。
さらにアスベスト繊維のないタンパク質小体からも高濃度ラジウムを検出した。これは長期の喫煙や粉じんなども発症につながる可能性を示唆している。
従来の説を根底から覆す画期的な研究といえよう。中皮腫ばかりでなく肺がん全体の発症メカニズムを解明するうえでも注目される。治療法の確立へも夢がふくらむ。
ただし、現段階では「仮説」の範囲内だ。今後、化学、疫学、臨床的な実験などを重ね、実証していかなければならない。
国内での中皮腫患者発生のピークは2020年からの10年間で、患者数は5万とも10万人とも推定される。社会的にも大きな脅威だ。研究チームはさらに研究範囲を縦横に広げ、全容解明に挑んでもらいたい。
(2009年7月29日掲載)