世界の亡命ウイグル人組織を束ねる「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長が昨日28日午後に亡命先の米国から来日しました。慶事であります。
ラビアさんに対しては、中国当局が7月5日のウルムチ事件の黒幕だとかテロリストだとか懸命にレッテル貼りをしていたのと関係があるのかどうかはわかりませんが、日本のマスコミはラビアさんが来日したことに関しては大方スルーか短信で報じたのみでした。
とはいえ、短いながらも味のあるニュースがなかった訳ではありません。『産経新聞』電子板が掲載した共同通信電などは簡潔ながらもポイントを押さえていて唸らされました。
●中国でNHK放送が中断 カーディルさん来日報道で(共同通信→MSN産経ニュース 2009/07/28/21:28)
中国で28日、ウイグル人亡命組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル主席の訪日を報じていたNHKの海外放送が中断された。カーディルさんの訪日をめぐっては、中国外務省が27日、日本政府に対し「強い不満を表明する」との談話を発表していた。
一方、中国政府は28日、カーディルさんの訪日に合わせ、新疆ウイグル自治区ウルムチ市内で5日に起きたウイグル族による大規模暴動を記録した日本語版のビデオ「7・5暴力事件とラビア氏」を日本メディアに配布。カーディルさんらによる「統制と画策」の下、暴動が発生したとあらためて非難した。
●ラビアさんが来日した。
●NHKの海外放送が中国国内ではそれを報じた部分のみ放送が中断された。
●中国はラビアさんの訪日に不満表明。
●だからかどうかは知らないが、来日に合わせてわざわざ日本語のプロパガンダビデオを日本メディアに配布。
●ビデオの内容に言及している部分で「統制と画策」とカッコ付きで報じたことで、中国当局の姑息さと愚昧さをさり気なくアピール。
……と、簡潔ながらも具沢山で要所を締めているあたり、プロの仕事だなあと感心せずにはおれませんでした。
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中国はラビアさんを極悪人扱いしているだけでなく、上の記事にあるように今回の来日に対しても外交部が「強い不満」を表明しています。
●日本政府によるラビアの来日許可について(人民日報日本語版 2009/07/28/10:14)
http://j.people.com.cn/94474/6711925.html
外交部の秦剛報道官は27日、世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長が日本を訪問して反中分裂活動を行うことを、日本政府が頑として許可した件についての記者の質問に答えた際、日本政府への強烈な不満を表明した。
――日本政府がこのほど、ラビア(ラビア・カーディル議長)の来日を許可し、ビザを発給したことについて、中国としてコメントは。
私たちは日本政府が中国側の度重なる厳正な申し入れを顧みず、ラビアが日本を訪問して反中分裂活動を行うことを頑として許可したことに、強烈な不満を表明する。(編集NA)
「強烈な不満」
「度重なる厳正な申し入れ」
などと、一見すると強腰のようでもありますが、私に言わせればこの程度ならソフトな御対応ということになります。敢えて下品に一発かますと、これは一見硬そうなようでいて実の伴っていない「フニャ××(ピー)声明」。
「強烈な不満」
といっても抗議する根拠が中国ローカルで国際社会において通用するものではありませんし、
「度重なる厳正な申し入れ」
を日本側のどの部門に対して行ったのかすら明記していません。大使や公使を呼びつけたとも書いていませんし、下っ端相手の抗議としても北京大使館の名前すら挙がっていないません。小泉純一郎・元首相が靖国神社を参拝する度に出していた抗議声明同様、国内向けのポーズという色彩が強いように思います。
例えば、李登輝・元台湾総統の来日時(2004年)に出ていた抗議声明に比べれば反発度はずーっと低いレベルということができます。ついでにいうと、近年において中国の対日批判で最も反発度が高かったのは、意外かも知れませんが森喜朗・元首相が2003年12月に台湾を訪問した際に出た外交部声明。
「『中日共同声明』など中日間で取り交わした3つの政治的文書の基本原則を遵守するよう日本側に要求する」
というものでした。この「『中日共同声明』など」云々が出てくると、剣呑なものということができます。まあこれにしても、
「政治的文書の基本原則を遵守するよう求める」
「政治的文書の精神に反する……」
「政治的文書に違反する……」
「政治的文書を踏みにじる……」
……など、これはこれで色々なランク付けがあるのですけれど。
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ところで、ラビアさんが来日した昨日28日は火曜日で、外交部報道官定例記者会見が開かれる日(毎週火曜・木曜)と重なることから、より踏み込んだ声明が出されるかも知れないと期待していたのですが、中国外交部のウェブサイトで調べたら21日(火)を最後に夏休みに入っており、会見もお休み。
なるほど道理で秦剛が早手回しに談話を発表したのか、と合点した次第。ラビアさんは今日29日の午後に日本記者クラブで記者会見を開くことになっていますから、その内容次第で声明第二弾が出て来るのかも知れません。
ともあれ、ラビアさんは来日した訳で、要するに日本政府が「中国側の度重なる厳正な申し入れを顧みず」ビザを発給したことになります。GJ!と言いたくなるところですが、有り体は法に則って粛々とビザを発行した、要するに当然の事務処理をこなしただけのことですから、ここはツンデレで「まずは及第点」くらいにしておくのがいいでしょう。
あれこれ気兼ねして遠慮して、中国の反発に屈して筋を曲げていた時期もありましたから、改善されたということはできるかも知れませんけど。
ただここで強調しておきたいのは、中国側の不満表明を顧みずに日本政府が筋を通したことに、……要するに単に日中間の腕相撲に勝った勝ったと捉えて快哉を叫ぶのは、些か浅薄ではないか、ということです。
というのも少なくとも江沢民時代以来、中国当局による対日批判は往々にして、その折々における中国の国内向け政策や政争を色濃く反映したものだからです。
前者(対内政策)の例では反日風味満点の愛国主義教育などがあり、後者のケースとしては、表向きは首相の靖国神社参拝や歴史教科書への内政干渉、また日本の常任理事国入り反対というお題目でありながら、実はアンチ胡錦涛諸派勢力がそのお題目を強く唱えることで、胡錦涛政権を揺さぶりひいては倒閣を狙ったのが本質、という事例を挙げられます。2005年春の反日騒動がその典型例ですね。
ですから今回の反発度もラビアさんの日本における活動内容にもよりますが、基本的には中国の国内事情、具体的には胡錦涛政権の指導力によってレベルが決まることでしょう。中国がどこまで「萌え」てくれるかは、アンチ胡錦涛諸派の頑張り次第、ということになると思います。
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で、そのアンチ組の蠢動や如何に、ということになるのですが、目下のところは『人民日報』系列の電波系基地外反日紙『環球時報』が独りで騒いでいる状態。
その記事が「新浪網」など大手ポータルのニュースサイトに転載されたりはしていますが、国営の新華社通信や胡錦涛の広報紙『中国青年報』などは外交部声明を掲載した程度で基本的には抑制されており、ウェブ上で接する限り、一部メディアで報道されているほど「反日大合唱」という空気ではありません。
「ネット世論に反日気運」という報道もありますが、基本的には『環球時報』電子板である「環球網」での「ラビア氏来日は中日関係を損なうと思うか?」というネット投票を土台にしたものです。
現時点ではこのアンケート、「損なうと思う」が1万9249票で90.8%という圧倒的な勢いを示しているものの、電波系反日基地外紙サイトにわざわざ飛んできて投票するのですから、これはよほどのコアユーザー。しかも数日前から行われているネット投票なのに、投票総数が2万票をちょっと超える程度ですから、余り当てにはできません。
むろん、2005年春の反日騒動のときのように、いきなり火の手が上がることもあるのですが、あれはあれでメラメラするまでにかなり入念な仕込みが行われていましたし、当時は新華社も煽る側に回っていました。
そして「ネット署名→街頭署名→反日デモ→反日暴動」というプロセスで事態が拡大していきました。これは聖火リレーでのフリーチベットでメラメラした昨年春の対仏排撃運動もほぼ同じ手順を踏んでいますから、ひとつの目安として参考になると思います。
要するに、ネット署名が始まるようだと背後にアンチ胡錦涛諸派の暗躍があり、表面的には反日気運の高まりではありながら、実質的には政争ムードが濃くなるということです。それゆえ「胡錦涛政権の指導力次第」ということになる訳で。
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最後に御存知の方も多いでしょうが、ラビアさんの日本滞在が早めに切り上げられることになったため、講演会の内容に変更が生じています。念のために講演会実行委員会のプレスリリースを掲げておきます。
●講演会の内容変更のお知らせ - Tuesday, July 28, 2009
http://www.uyghurcongress.org/jp/News.asp?ItemID=1248747152
この度は「ラビア・カーディルさん講演会」へのご参加をお申し込みいただき、誠にありがとうございました。
ところで、この講演会につき、やむを得ない事情が発生し、以下のような事態に立ち至りましたので、謹んでご連絡申し上げます。
7月31日、米国議会・下院外交委員会が急遽、「ウルムチ事件」に関する非公開ミーティングを開催することになり、ラビア・カーディルさんの見解と証言を求めて参りました。この会議には、これまで下院に於いてウイグル問題を積極的に取り上げてきた民主党議員で「国際組織、人権及び監視委員会」のデラハント委員長や、共和党のローラバッカー氏が参加します。そして、ウルムチ事件について下院がどのような態度を示すか決める重要な席になるとのことです。
彼女は当然、日本訪問を理由に断ることを考えましたが、米国議会開催期間の最終日を使って(アメリカ議会は8月1 日から暫く夏期休暇で開催されません)、「ウルムチ事件」を取り上げ、事件への米国の姿勢を明確に示して欲しいという考えは、多くの在米ウイグル人が抱いている「希望」でもあり、そこでの証言を断るということは実に重い結果を予想しなければならないことでもありました。
そこで当実行委員会としては、誠に遺憾ではあるものの、このラビアさんの苦衷を察し、下院ミーティング出席のための30日朝の米国への帰国を認めることといたしました。
ただし、30日夜の講演会は主催者としての責任も考え、以下のように内容を変更して開催することといたしました。
�.薀咼△気鵑砲詫縦蠅靴討い森岷蕕瞭睛討髻■横稿�に長時間のメッセージビデオという形で収録してもらい、当日はそれを会場で流して講演に替える。
�▲薀咼△気鵑里桓膺佑任△襯轡妊�ック・ハジさんには日本に残ってもらい、当日はラビアさんの代理として挨拶とお話をしてもらう。ちなみに、ご主人は学者であるとともに、かつて中国の監獄に政治犯として9年も収監された経験をもつ運動家でもあり、ご自身の体験とラビアさんについて、ウルムチ事件について、大変有意義なお話が伺えることと確信致します。
以上、講演会主催者としてこのような事態に大変責任を感ずる次第ですが、何卒このような事情をご理解いただき、ご容赦たまわりたく、お詫び申し上げる次第です。
なお、その上で、できることなら当日も何卒ご参集をたまわりたく、誠に厚かましいお願いとは存じますが、併せてお願い申し上げる次第です。
ラビア・カーディルさん講演会実行委員会
2009年7月28日
講演会はいつでもできることですから、ここは米下院議会の案件を優先するのが妥当なところでしょう。今回は生の講演会にはならないのが残念ですが、長尺のビデオメッセージも準備されることですし、日本記者クラブでの会見もありますし、政治家と接触する予定もあるともいわれています。
「私の国の困難な思いと、今回の虐殺の詳細について、私は日本国民と日本政府に伝えたい」
と日本メディアの取材で語ったラビアさん。短い日本滞在ながらも、内容の濃いスケジュールとなることを期待しています。