民主党の鳩山由紀夫代表が27日発表した衆院選の政権公約(マニフェスト)は、政権交代後、真っ先に取り組む課題として「脱官僚」の政策決定システム構築を打ち出した。これにより、官僚が握ってきた予算を全面的に組み替え、税金の「ムダづかい」を根絶することで子ども手当など目玉政策の財源を捻出(ねんしゅつ)する--とのシナリオ。だが、政治家の主導する新政府の具体像はなお不透明で、財源確保の見通しにも疑問符がついたままだ。
■政府に議員100人
民主党はマニフェストの冒頭に「鳩山政権の政権構想」と銘打ち、「官僚丸投げから政治家主導の政治へ」「内閣の下の政策決定に一元化へ」「各省の縦割りの省益から官邸主導の国益へ」など「5原則」を掲げ、具体化のための「5策」を盛り込んだ。鳩山氏は27日の記者会見で「このやり方で官僚に取り込まれない政治を作り出せる。官僚をうまく使いこなし、リーダーシップを発揮することは十分に行える」と強調した。
5策の最初に挙げたのが、国会議員約100人を閣僚、副大臣、政務官(政務三役)、大臣補佐官などとして各省庁に送り込むことだ。しかし、現在も政府には与党から政務三役など約70人の議員が入っている。30人増えるだけで「政治主導」に切り替わるのか。
菅直人代表代行は「政務三役が一体のチームとして省庁に乗り込むことが重要」と強調する。政務三役が官僚に分断されていたことが官僚主導の背景にあると見ているためだ。政務三役は最低週1回集まるなどチームとしての一体性を強め、省庁の政策立案、調整、決定にあたるという。
■閣僚委員会設置
省庁間の調整が必要な課題に対しては、関係閣僚が協議する「閣僚委員会」を設置する。官僚任せにせず政治家同士で話し合い、その結果を首相と全閣僚が出席する閣議に報告し正式決定する。閣議案件を事前に各省の事務次官が調整する現行の事務次官会議は「官僚主導の象徴」として廃止する。
現在も随時設置される関係閣僚会議と閣僚委員会の違いがはっきりせず、閣僚のリーダーシップが発揮されるかは運用次第といえそうだ。省庁間の事務的調整をどうするかという問題も残り、直嶋正行政調会長は事務次官会議について「最終的な意思決定の場としては廃止する」とする一方で「事務的な打ち合わせや会議を否定するわけではない」とあいまいさを残した。
■予算編成官邸で
官邸主導を実現するための中枢機関が首相直属の「国家戦略局」だ。トップには「政調会長級の政策に精通している閣僚を任じたい」(鳩山氏)としており、予算編成作業の実権を財務省から首相官邸に移す役割を担う。予算や各種制度を精査し無駄や不正を排除するための「行政刷新会議」を下部機関として創設することで「総予算の全面組み替え」を行いたい考えだ。
ただ、国家戦略局や行政刷新会議の設置には根拠法の制定が必要とされ、来年度予算の編成前に動き出せるかは不透明。そもそも現在の経済財政諮問会議も「政治主導の予算編成」目的で設置され、小泉政権では郵政民営化や規制改革などを主導した経緯もあり、違いは明確ではない。【田中成之】
民主党が「脱官僚」を掲げ従来の政策を大幅に転換しようとしていることに対し、各省庁は警戒を強めている。
民主党は16兆円を超える財源を「ムダづかい」の根絶や特別会計などの「埋蔵金」で賄うとしているが、財務省幹部は「歳出削減を本当にできるのか。公共事業の削減も、地方選出議員が反対するのでは」と半信半疑だ。
財務省が特に警戒するのが、予算編成方針などを策定する「国家戦略局」の新設だ。長年にわたり握ってきた予算編成の権限を奪われかねないからだ。民主党の小沢一郎代表代行が竹下政権で官房副長官を務めた当時の秘書官、香川俊介氏(52)を主計局次長から、各省庁や日本銀行との窓口である総括審議官に異動させたのは、民主党政権になっても影響力を確保するための「備え」とみられる。
高速道路の無料化やガソリン税の暫定税率廃止などにより、道路財源という既得権を狙い撃ちされる国土交通省の危機感も強い。幹部からは「民主党の先生も地元の道路は欲しい。政権を取れば現実路線に落ち着くのではないか」と方針修正を願う声も聞かれる。
国交省では新たに就任した谷口博昭事務次官(60)と同期の竹歳誠国土交通審議官(59)が留任。次官と同期の幹部は退任するのが通例だが、道路局長を務めた谷口氏が民主党と衝突して辞めさせられる事態に備え「竹歳氏を温存したのではないか」との憶測が流れた。
農家への戸別所得補償に反発する農水省は井出道雄事務次官が6月18日の記者会見で「事務処理が大変で非現実的」と批判。後日、民主党から「政治的中立性を欠く発言」との指摘を受けて「民主党の政策をすべて批判するものではない」と釈明した。
外務省は山野内勘二氏(51)を北米1課長から内閣官房内閣参事官に異動させた。鳩山由紀夫代表が細川政権の官房副長官を務めた当時の秘書官で、鳩山首相が誕生した場合は首相秘書官に就くとみられている。【斉藤望、太田圭介】
毎日新聞 2009年7月28日 1時17分(最終更新 7月28日 1時24分)